不死の少女は王女様

未羊

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第116話 一段落

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 エルミタージュ王国の建て直しのための手段はほぼ整っている。
 エルミタージュの城の位置は分かった。魔道具の製造も再開できる。
 こうなってくると、残りの問題は世継ぎとなってくるのだ。これは、ステラもだが、コリーヌ帝国のアンペラトリスも同じ問題を抱えていた。
 アンペラトリスが男勝りな性格ということもあって、なかなか伴侶に巡り合えずにいるのである。
 ステラの場合、伴侶の問題は解決しているとは言えるのだが、ステラ自身がリューンの事を好きかどうか言われたら多分ノーといったところだろう。恋愛感情のようなものは存在していないのは間違いなそうだ。
 実際、ステラから見たリューンは弟のような存在なのである。それでも、貴重なエルミタージュの関係者の血を引く人物なのである。
 ステラにかかった秘術を解く方法は、エルミタージュ王家を再興させて、その血をつなぐ事。なので、そこに恋愛感情は必ずしも必要ではないのだ。
 この日のアンペラトリスは、自分の執務室で書類整理に追われていた。

「ふむ、今までに見つかった遺跡は、ほぼ調査が終わったか」

 遺跡の調査報告を見ていたアンペラトリスはため息まじりに呟いている。

「左様でございますね。ただ、どうしても入れなかった箇所などがございますので、調査可能な場所に限るという但し書きはついてしまいますね」

 アジャダは報告書にそう付け加えていた。

「そうか。ちなみに、そのは入れない場所というのはどこどこにあった?」

「そうでございますね。ヌフ遺跡、ディス遺跡、あとは陛下から調査するなと通達のあったトレイズ遺跡の地下通路ですかね」

「それだけか?」

「はい、以上でございます」

 アジャダに確認を取ると、そのような答えが返ってきた。アンペラトリスは「そうか」とだけ答えて考え込み始めた。
 ここで思い出していたのが、先日ステラと向かってグランと出会った空間である。
 実はアンペラトリスは遺跡の中をすべて実際に歩いている。なので、知らない場所などないはずなのだ。
 ところが、あのグラン・エルミタージュと出会った場所は、まったく見覚えのない場所だった。つまりは、調査できない場所だったというわけなのだ。
 一度深呼吸をすると、アンペラトリスはアジャダに指示を出す。

「よし、調査が終わったというのなら、ここまでの調査結果のまとめに入ってくれ。エルミタージュ王国というものの実態がどうだったのか、解き明かさねばならないからな」

「はっ、承知致しました」

 敬礼を決めたアジャダは執務室から出ていく。
 報告が一度落ち着いたアンペラトリスは、再び書類の山と格闘を始めたのだった。さすがに女傑とまで言われた彼女も、書類相手には苦戦は免れなかった。

 どうにか書類との戦いを終えたアンペラトリスは、夕食をいつものようにステラと一緒に取る。
 食事中、アンペラトリスがちらちらと視線を向けてくるので、ステラは気になってしまう。

「そんなにこっちを見て、一体どうなされたのですか、皇帝陛下」

 とうとう我慢できずに声を掛けてしまう。
 こうなるのは予想できたものの、アンペラトリスはついせき込んでしまった。

「いや、すまない。アジャダから報告があってな、遺跡の調査がひと通り完了したらしいのだ」

「ああ、終わってしまったのですね」

「分かる範囲でだがな。一応もうしばらくは冒険者を使っての調査は行う。彼らなら騎士たちの分からぬところまで見抜いてくれるからな」

 アンペラトリスはそういって、水を一杯口に含む。

「それでステラリア、質問はいいかな?」

「なんでしょうか」

 真面目な顔をするアンペラトリスに、ステラも真面目な顔で返す。

「うむ。あのグラン殿と会った場所がどこなのかというのを聞いておきたいのだ」

 アンペラトリスは気になっていることを率直に質問していた。調査が終わった今だからこそ、はっきりさせておきたいのだ。
 ところが、ステラはどういうわけか震えていた。

「どうしたのだ、ステラリア」

「あ、何でもないです」

 ごまかすステラ。
 トカゲの舌にべろりんちょされた記憶がよみがえっただけである。
 とりあえず気を取り直すステラである。

「あの場所は、ディス遺跡です。位置としてはあの魔道具の工場からそんなに離れていませんね」

「なんとあんな場所があったのか」

 ステラの告げた場所に、驚くアンペラトリスである。

「あの場所に関しては、通常の入口からはエルミタージュ王国の関係者しか入れないようですからね。転移装置を使えば、他人でも入れるようになります」

「ほう、転移装置とな。それはどこで手に入れた?」

「ヌフ遺跡です。開かなかった扉があると思いますが、その扉の奥で手に入れました」

 ステラの話を聞いて、驚くしかないアンペラトリスである。

「なんとまあ、将来的なことを見越して、あらかじめ封印を掛けておいたというのか……」

 なんという驚愕の事実なのだろうか。
 それを聞いたアンペラトリスは、ステラをじっと見ている。
 こんな幼い少女に、なんとも過酷なものを背負わせたものだと、憐れまざるを得ないのだ。

「な、何なんですか、その目は……」

「なんでもない。ステラリア、寂しくなったらいくらでも甘えるといいぞ。同じエルミタージュの血筋なのだからな」

「急にそんなことを言うなんて、なんだか怖いですね。でも、そういう時があればそうさせてもらいます」

 照れくさそうにするステラの姿に、思わず微笑んでしまうアンペラトリスなのであった。
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