不死の少女は王女様

未羊

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第115話 アンペラトリスの戦闘講座

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 その昼、昼食を取りにステラは食堂に足を運ぶ。
 訓練場を去った後に冒険中に身に付けた洗浄の魔法でドレスも体もきれいにしておいたので、食堂に入るには問題のない状態のはずである。
 食堂に顔を出したステラは、アンペラトリスの表情を見て思わず固まってしまった。
 それもそのはず。ものすごい形相で睨みつけているのだ。その雰囲気はまるで怒っているような状態だった。
 そのアンペラトリスの雰囲気に飲まれないように気をつけながら、ステラはいつもの席にゆっくりと着く。その間、ステラの動きに合わせてアンペラトリスの視線はずっと追いかけてきていた。なんともいえない恐怖がステラを襲い続けていた。
 ひとまず重苦しい雰囲気ではあるものの、昼食が運ばれてくる。
 いざ食事が始まると、しばらくは静かだった。ところが、ある程度食事進んできたところで、ようやくアンペラトリスが口を開いた。

「ステラ」

「な、何でございますでしょうか、皇帝陛下」

 少し肩をすくめて、見上げるような形でアンペラトリスの呼び掛けに反応するステラ。
 するとそこには、やっぱりちょっと怒ったような表情を覗かせるアンペラトリスの姿があった。これは間違いなく朝の事を咎められると直感するステラである。

「聞いたぞ、ドレス姿のまま訓練場に姿を見せた挙句、そのまま剣を振るったらしいな」

 やっぱりである。とはいえ、怒られるような要因はそれしか考えられないのである。

「申し訳ございません。書庫の前に久しぶりに体を動かしたくなってしまったもので……」

 縮こまって言い訳をするステラ。
 ところが、アンペラトリスは咎めるどころか大きなため息をついていた。

「それで、頑張っているリューンの姿を見て、つい勝負を仕掛けてみたというわけか。ずいぶんと血の気が多いものだな」

 呆れたようにステラを見るアンペラトリス。ステラは「申し訳ありません」と下を見ながら謝罪するのが精一杯だった。

「まあ、やってしまったものは仕方あるまい。だが、騎士たちからの評価は決して悪くはないぞ」

 アンペラトリスからそう言われれば、思わず顔を勢いよく上げてしまうステラ。
 その時のアンペラトリスは面白おかしそうに笑っていた。

「ドレス姿での戦い自体は私もよくやっていたしな。皇帝の地位を継げば、いついかなる状況で襲撃されるか分かったものではない。いちいち服を着替える間などないからな」

 アンペラトリスの話を聞いて、怒られない理由に納得のいくステラである。
 確かに、ステラもエルミタージュ王家の人間なので理解できる部分がある。
 なにせ、エルミタージュ王国が滅びたあの日も、自分の母親、つまりは王妃もドレス姿で応戦していたからだ。ステラを連れて転移魔法を使ったのは、その戦いがひとまず落ち着いてからだった。
 ようやく冷静に慣れたステラからは、怯えた表情はすっかり消えてなくなっていた。

「最後はリューンに剣を弾かれて終わったと聞くが、だいぶ手加減をしたっぽいな」

「まあそうですね。慣れない片手剣だったのも大きいでしょうね」

「普通は片手剣が一番扱いやすいのだがな。それだけ双剣に慣れ親しんだということだろうな」

 すっかり笑顔が戻って話をする二人である。

「大体師匠のせいですよ。師匠も双剣の逆手持ちでしたからね」

「あのうさん臭いエルフか。わざわざ面倒な武器の扱い方を覚えさせおって。ステラリア、せめて片手だけでも順手持ちに変えるといいぞ。逆手持ちは力が入りにくいからな」

 アンペラトリスに注意されたステラは、目を丸くしていた。そんなに驚くような事だったのだろうか。

「……そうか、500年はあの戦い方でやってきていたのだからな。今さら常識云々を説いたところで驚くのも無理はないか」

 ステラの抱えた特殊な事情に、つい頭が痛くなってしまうアンペラトリスだった。

「だがな、双剣の逆手持ちを続けるようでは私には勝てんよ。手を振り抜いた後から剣が出てくるのだ。その分、相手の攻撃に対して後手に回ってしまうぞ」

「ふむふむ……」

 ようやく昼食を落ち着いて食べられるかと思ったら、突然戦い方の講釈が始まっていた。
 アンペラトリスは皇女であると同時に、帝国騎士団でその剣を振るってきた女傑なのである。そのために戦いの事となるとつい熱く語ってしまうのだった。

「型が固まってしまっている以上、すぐには無理だろう。ステラリアの普段を見ている限り、利き腕は右だ。そして、左は反応が悪い。となれば、左手を順手で握って牽制にして、右手で振り抜くスタイルがいいだろうな」

「そうですか。なるほど……」

 熱心に話をするせいで、まったく食事が進まない。
 そのせいで、いつもよりかなり遅れて食事が終わることとなる。なにせ、それぞれの使用人が呼びに来るまで食事に手をつけていなかったのだから。どれだけ熱く語っていたのかがよく分かるというものだった。
 とはいえ、アンペラトリスがかなり本気で喋っていたので、相当にステラに響いたようだった。
 いろいろと収穫を得たステラは、その日はご機嫌に書庫にこもったのだった。
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