異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第370話 転生者、本棚を整理する

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 本棚があるとはいえ、本の種類はかなり雑多な感じで整理されている気配はない。
 こんな状態では、目的の本を探すのも一苦労だ。
 てか、ピエラってここを覗いたんだろ? なんでこんな状態で放置してあるんだよ……。

「バタバタしてたせいで整理する暇がなかったのよ」

「俺、何も言ってないんだけど?!」

「セイの考えていることくらい分かるわよ。婚約者を甘く見ないでちょうだい」

 まったく、相変わらず妙なところで勘のいいピエラだな。
 でも、ピエラの言い訳はよく分かる。ヒョウムが残した魔法の後片付けはかなり面倒だったからな。

「しゃーねえな。調べ物をしながらまとめていくか」

「そうね。そのためにはここはこれの棚って分かるようにしておかなきゃね」

「そもそも、本の中身が統一されているかも分かりませんけれど、その方がよいですね」

「キリエ、元も子もないこと言わないでくれ……」

 そうなんだよな。そこがそもそも問題なんだよ。
 メモ帳のようにあらゆる分野がごちゃごちゃに書き留められたものが一番面倒なんだよ。

「そんなものがあったら、それだけ分類不能でまとめておきましょう。無理やりにでも分類するのよ」

「しゃーねえ、それでいこうか」

 俺たちは一度棚をまるまる一本空にして、中身を一冊ずつ確認しながら分類していく。まったくもって気が遠くなりそうな作業だ。
 だが、目的の記述がどこから見つかるか分からないので、こればかりはやむなしといったところだろう。
 それでも、この中から家系図以外の情報が見つかれば、それこそ歴史的な発見になるだろうな。

 ピエラもキリエもこのごちゃごちゃした中から、よく目的の本を見つけられたものだな。
 種類はごちゃごちゃしているけれど、本の並び自体はそれほど変わっていなかったってことなんだろうかな。
 それはそれで整理されているってことなんだろうけど、背表紙もない状態じゃどれがどの本だから分からねえ。
 やはり、一度きっちり整理しておくべきだろうな。
 冊数は思った以上にあるので、俺たち三人がかりでも数日は要すると思われる状況だ。本は苦手ではあるが、整理しようと言い出したのは俺だし、頑張るとしよう。

 そう言い始めて数時間が経過。
 思ったよりは中身のない本が多く、最初のうちは非常に順調に分類できている。
 だが、俺たちの求める内容というものは見つかっていない。
 それでも魔族たちの魔法についての理論などが書かれた本があり、ピエラが非常に興味を示していた。さすが魔法一門の令嬢だよ。
 しかし、ゆっくり見るのは後の話。先に分類をしてしまわねえとな。じっくり見たければ、さっさと終わらせるんだな、ピエラ。

「ぶー、けちんぼ」

「そういうな。俺たちだってみたいのがあっても我慢してるんだからな」

「その通りですよ、ピエラ様。さっ、やることをやってしまいましょう」

「しょうがないわね……」

 渋々ピエラは俺たちの言い分に従っていた。まったく、どんだけ魔法に興味あるんだよ。
 再び本を読み始めた俺たちは、とにかく黙々と作業を続けていく。

 どのくらい経っただろうか。書庫に誰かがやって来た。

「キリエ姉様たち、調べ物は順調でしょうか」

「コモヤか。どうしたんだ?」

 現れたのはキリエの末の妹であるコモヤだった。
 当主代理を務めるコモヤが自ら呼びに来るとは、一体何があったんだろうな。

「いえ。外はもう真っ暗ですので、お夕食を一緒にどうかと呼びにまいった次第です」

「ああ、もうそんな時間か」

 読みかけの本を閉じて外を見ると、確かにとっぷりと闇夜に染まっていた。
 俺たちは部屋の中が暗くなっていることにも気が付かず、本を読み続けていたらしい。集中力って恐ろしいな。

「分かった。一度作業を止めて食事にするとしようか」

「えっ、もうそんな時間」

「これは……私としたことが失態ですね」

 俺がピエラとキリエの方を叩きながら呼び掛けると、びっくりしたように顔を上げてそれぞれの反応を示している。
 こういうところに二人の性格の違いというのがよく出ているものだな。

「それにしても、ずいぶんと散らかして何をされていたのですか?」

「ああ、これは本を種類ごとに分けていたんだよ。全部ごちゃ混ぜにしていると、目的の本を探すのに時間がかかるからな。大まかにどんなことについて書かれているのか本棚に分類によって区分けして並べて、本にも大まかな内容を背中につけておこうと思ってな」

「なるほどです。それなら私のようなここに慣れていない者でも簡単に見つけられそうですね」

「だろ?」

 コモヤの反応に、俺は得意げに歯を見せながら笑っている。

「なるほどそういうことね。ここに来るのはいつも使っている人たちとは限らないものね」

「それは思いつきませんでしたね。さすが魔王様です」

 二人から褒められているが、誰でも気づきそうなものじゃないのか、これって。
 う~ん、自分の常識が他人の常識とは限らないっていう実例だな。これは勉強になったぜ。
 とまあ、とりあえず本の整理は進んでいる。夜になったことだし、食事のために一度手を止めて休憩を入れることにした。
 本棚の整理状況は、まだ最初の棚の途中だ。
 これでネラールの情報なども見つけなきゃいけないから、想像以上に骨の折れる作業になりそうだ。
 やれやれと思いながら、俺たちは書庫を出ていくのだった。
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