異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
380 / 431
第二章 外側の世界

第380話 転生者、久しぶりに日常を過ごす

しおりを挟む
 ヘルプワゾンを退けた俺たちは、ケオス大陸の周囲にレーヴェンの樹を植えまくり、これでもかと結界を強化して一度戻ることにした。
 本当は東の大陸に行きたかったのだが、ヘルプワゾンの襲撃でかなり消耗したから仕方がない。
 ネラールは力があるというのに、完全に感覚が戻ってないということもあって、今回はかなり戦力外だったしな。一度戻って体勢を整えることにしたってわけだ。

「お帰りなさいませ、魔王様」

 結局城を離れられなかったキリエが出迎えてくれる。本当は一緒に出るつもりだったんだが、今回は参加しなくて正解だっただろう。

「ああ、キリエ。どうだったこっちは」

「どうもこうも、いつも通りです。デザストレのおかげで面倒は減りましたが、正直私がいなければどうにも回らなかったでしょうね。今回はついて行かずに正解でした」

 キリエは大変だったという割には淡々と話をしている。さすがは魔王軍の魔王代理である参謀だよな。本当に頼りになる。

「それよりも魔王様。お早いお帰りでしたね。結局マーシャル様には会われなかったのですか?」

「ああ、邪魔して回るやつと早々に出くわしてな。ケオス大陸に近付いてきたから、そっちの対策を強化して戻ってきたんだ。まったく、まさかこの大陸に上陸されるとは思ってなかったからな」

「ええ、レーヴェン様も大変驚かれておりました。このようなことは初めてだと」

 セイ太も耳としっぽをだらんとさせている。そのくらいには衝撃的なことだった。

「そうでございますか。料理長がお話があるみたいですので、状態が整いましたら、食堂までお越し下さいませ」

「料理長が? 分かった、少し休んで回復したら向かうよ」

 キリエとは一旦別れて、俺たちは一度体を落ち着けることにした。

 クローゼの突撃を食らって服を着替えた俺たちは、食堂へとやって来る。
 そこにはキリエ以外にも料理長とウルルンが待っていた。

「おお、魔王様。お帰りなさいませ」

「料理長、待たせてすまなかったな。それより、話って何なんだ?」

 満面の笑みを浮かべて待ち構えていた料理長に、俺は早速話を聞いてみることにする。

「はい、魔王様の記憶から出てきた料理の再現がようやくできるようになりましてね。それででき上がったものを召し上がって頂こうとお呼びしたまででございます」

「おっ、味噌と醤油とかができたってことか?」

「はい、いやぁ、発酵なるものは実に驚きでしたな。はっはっはっはっ」

 料理長は自信たっぷりである。
 そこまで言うのであるのなら、早速味わわせてもらおうじゃないか。
 俺たちが席に着くと、早速料理が運ばれてくる。

「お魚を干して取れるという出汁も再現しております。ささっ、どうぞお召し上がり下さい」

 料理長が満を持して合図送って出てきたのは、卵とじのかつ丼とみそ汁だった。
 そういえば、どっちもウルルンの能力を使って出した料理だったな。ついに、俺がいなくても作れるようになってしまったのか。
 いやはや、見た目だけでも再現してしまうとは、料理長も並々ならぬ努力があったのだろうな。
 並んだ料理には、俺以外には反応が乏しかった。まあ、セイ太は犬だったから食べたことないしな。

「この香り、セイの家の食卓の香りに似てる……」

 かと思ったら、ぽつりとこんなことを呟いていた。
 そういえば、時々家の中に入れて体を洗ってやった後に、一緒に食堂で食べた時もあったっけか。そっか、セイ太もしっかり覚えてるんだな。
 まあ、懐かしく思うのもそこそこに、俺たちは早速料理長が作ってくれた食事を味わうことにする。
 外の世界の再生計画を実行に移してからというもの、こうやって腰を落ち着けてご飯を食っていうのもめっきり減っちまったからな。

「うん、そうそうこの味だよ」

 みんながスプーンで味わう中、俺だけが箸で食べている。
 にしても、改めて思うが獣人の手だと箸は意外と持ちづらいな。人の手にだいぶ近いとはいっても、やっぱり人間との違いを実感するぜ。ま、そんなものは根性でどうにかできるんだがな。
 そんなことよりも、せっかくの前世の味だし、しっかり味わわねえとな。

「やあ~……、素晴らしいな。ウルルンの記憶で出した料理の味を完全に再現しているよ」

「光栄にございます」

 料理長は実に嬉しそうだった。

「初めての味ですが、おいしいですね」

「ええ、意外といけるわ、このスープ」

「ふむ、腕のいい料理人がいて羨ましい限りだ」

 どうやらみんなにも好評のようだ。なので、もう一度しっかり労いながら褒めておく。

「このかつ丼、肉はウルフか」

「はい。魔王領内で簡単に手に入るのがウルフの肉ですので、それを使わせて頂きました」

「そうか。ウルフの肉は硬いイメージだけど、これはしっかりと柔らかくなっているな」

「はい、魔王様に教えて頂きました筋切りなるものをしっかりと施しましたので、十分な柔らかさになったかと存じます」

 料理長はその名に恥じぬように、いろいろな調理方法をしっかりとマスターしているようだった。まったく、この料理長に敵う料理人はいないんじゃないかってくらいだな。
 最後にはデザートとしてプリンを堪能した俺たちは、久しぶりののんびりとした日常を過ごした気がしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...