異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第405話 転生者、違和感のある勝利を収める

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 俺たちの目の前からリッチは姿を消した。が、気配しっかり残っている。どうやら透明化の魔法のようだ。

「まったくにおいすぎるにゃ! えーいっ!」

 エイミーが地面に向けて拳を叩きつける。
 あまり肉弾戦のイメージがないんだが、そういうこともするんだな。
 そう思っていたら、エイミーが拳を叩きつけた場所から、地面の上を放射状に魔力が広がっていく。

「調和の使徒の力をなめるんじゃないにゃ」

「うぎゃっ!」

 その放射状に広がっていった魔力の一部で、パチンという音ともになんとも情けない声が聞こえてきた。
 侵略者の使徒の最後の一人だというのにやたらと堅かった石の使徒ガーゴイル、やたらと強引だった毒の使徒ヘルプワゾン。この二人と比べてもなんだか弱すぎないだろうか。こんな調子ばかりで拍子抜けしてしまう。俺たちと絶望的に相性が悪いんだろうな。

「ぐぐぐ……、こんなはずでは……」

 地べたに這いつくばり、信じられないといった表情をするリッチ。

「もう見るのも飽きた。さっさと消えてくれ」

 さすがに見苦しくなってきたので、俺は神聖魔力を乗せた拳を振り上げ、倒れ込むリッチへと攻撃を叩き込む。

「おのれっ……、このままで終われるものですか!」

「させねえよ、消え去れっ!」

 何か抵抗しようとするリッチだったが、それよりも前に俺が素早く拳を振り下ろし、骨が砕け散る。

「が……あ……。この我がぁ……」

 なんとも呆気なく、最後の一人であるリッチは砂粒となって消え去ってしまった。
 今までの苦戦は何だったのか。実に戦った気にもなれないほどのあっけない勝利だった。
 これはリッチに叩きつけた拳をしばらく見つめていたが、気配らしい気配を感じられなかったのでみんなの方へと振り返る。

「よし、邪魔者は消えた。さっさと植樹作業に入ろうか」

「はい、お任せ下さい、お姉様」

 俺の呼び掛けにデイジーは元気よく返事をすると、早速レーヴェンの樹を植え始めたのだった。
 順調に進めばこの南東の大陸は二週間もあれば埋め尽くせるだろう。俺たちの植樹の旅は無事に再開したのだった。

 南島の大陸で最初の植樹を終えた日の夜のことだった。

「……寝付けねえな」

 俺はどういうわけか眠れなかった。
 なんというんだろうかな。どうも胸騒ぎがして落ち着かないんだよ。
 俺は体を起こして、少しみんなと離れた位置に移動する。一応ちゃんとみんなが見える位置にはいるので、万一があっても大丈夫だ。
 うん? いや、万一ってなんだ。この世界の脅威は残るはラスボスだけだから、そうそう何か起こるとも思えないはずなんだが……。どういうわけか不思議と落ち着かなくなってくる。
 俺は悶々とした気持ちで、頭をかきながらみんなのことをじっと眺めて座っている。

「セイ、あなたも眠れないのですか」

「セイ太。なんだお前もか」

 誰の声かと思ったら、それは人型になったセイ太だった。
 ゆっくりと近付いてきたかと思ったら、俺の隣に腰を下ろしている。

「ああ、あのリッチってやつ、手応えがなさすぎてな。それがかえって俺の不安を駆り立てているみたいなんだ」

「そうですか。セイは気にし過ぎですよ。私たちがすべきことは、レーヴェン様の樹でこの世界を埋め尽くすこと。世界中の侵略者の毒素を中和するために頑張りましょう」

 俺が不安そうに話すと、セイ太は気にするなといったようなことを言ってくる。
 ここまで言われても、やっぱり俺の中には不安がくすぶり続けている。
 俺のすっきりとしない表情を見たセイ太は、いきなり俺の背中を強く叩いてきた。

「おい、いってえな」

「まったく、うじうじとうるさいですよ、セイ。あなたは魔王なんですから、もうちょっとどっしりと構えていて下さい。みなさんに不安を与えるつもりですか?」

 きりっとした表情のセイ太に、俺は思わず黙り込んでしまう。
 犬の頃からそうだったが、このきゅるんとした瞳で見つめられると言葉を失ってしまう。不思議な力に満ちた瞳なんだよ、セイ太の目って。

「……分かったよ。ふわぁ……」

 セイ太に説得されると、急に眠気が襲い掛かってきた。セイ太の顔を見たせいだろうかな。

「無理するものじゃないですよ、セイ。眠いのならさっさと寝ましょう」

「ああ、そうさせてもらうよ」

 眠気に耐えられなくなった俺は、ピエラたちの眠るところまで戻って横になることにした。

「セイ太はどうするつもりだ?」

「私はここで見張りをしています。使徒である私はセイたちと違って睡眠を必要しませんからね」

「そうか……。でも、無理するんじゃないぜ」

「分かっています。ありがとう、セイ」

 そんなわけで、俺は見張りをセイ太と交代すると、大きなあくびをしながらピエラたちのところに戻っていった。

 外側の大陸も残すはこの南東の大陸と、かつての魔族の拠点だった中央の大陸のふたつのみだ。
 最大の障害ともいえる三体の使徒を退け、俺たちのレーヴェンの樹の植樹行脚は続く。
 俺たちの住む世界を取り戻す最後の戦いの時も近い。
 待っていろよ、異世界の侵略者。俺たちがこの世界から追い払ってやるからな。
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