異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第408話 転生者、拳を振り抜く

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 まったく、影の中に潜んで、そこから体を操るか。
 俺たちの中では一番幼くて優しい心の持ち主であるデイジーを狙うとはな。本当に汚い奴だな。

「ふはははは、勝てばよかろうなのだぁっ、ですよ」

 なんかどっかで聞いたことがありそうなセリフだな。
 おそらく、俺の目の前にいるこいつは偽者だな。本物はおそらくデイジーの影の中にいる。影の中で魔法を使っているから、間接的に操るのとは違って効果が高いってわけだ。
 まったく、あの可愛いデイジーにあんな顔をさせやがって、絶対許さねえからな。

「てめえは絶対にぶっ倒す!」

「ふはははは、やれるものならやってごらんなさい。我は不死身、どうやって倒すの言うのですか!」

 俺の宣言に、リッチは余裕を見せる高笑いをしている。まったく、骨だっていうのににやけているのが透けて見えるぜ。

「さあ、やりなさい、我が傀儡よ」

「い、いやああっ!!」

 リッチが命令を下すと、デイジーの体が勝手に動き始める。本人は抵抗をしているものの、影から直接操られているとあっては、抵抗がほとんど意味をなしていなかった。

「キリエ、ピエラ、デイジーをとにかく無力化してくれ」

「承知致しました」

「ネラールは、二人を援護してくれ」

「承知!」

 俺は全員に指示を出す。

「セイ太とエイミーは俺のところに来てくれ」

「分かったにゃ」

 使徒である二人は俺のところに呼び寄せる。

「おっと、何をする気か知りませんが、そうはいきませんよ」

 だが、リッチがそう簡単に俺たちを近付けさせるわけがなかった。まあ、あれだけでかい声でいえばまぁそうだよな。
 でもな、俺が声を出して呼んだのは、フェイントなんだよ。

「今だ!」

「なに?!」

 俺の声を合図にして、セイ太とエイミーは空中に飛び上がる。高くジャンプしただけなんだがな。

「私たちのありったけを食らうといいにゃ!」

「さあ、白く塗りつぶしてあげます!」

「な、なにをする気だ?!」

 予測不能な行動に出られたせいか、リッチの動きが止まっている。それに連動するように、操っているデイジーも動きをぴたりと止めてしまった。

「ありったけの光……」

「食らうといいにゃ!」

 飛び上がったセイ太とエイミーは、そろって魔法を発動させる。
 犬と猫ではあるものの、こういう時は息ぴったりだな。

「ライト!」

 魔法が発動すると、セイ太が宣言した通り、辺り一帯は眩いばかりの白い光に包まれる。
 あまりにも強い光は、周囲から影すらも消し去ってしまう。

「ぐああああっ! 影が、影が消える?!」

 リッチが苦しそうにもがいている。
 それもそうだ。本体が隠れているとみられるデイジーの足元の影が、強力な光で消え去ってしまっているんだからな。

「このままでは、影ごと消されてしまう。そ、そんなわけには……!」

 デイジーの今にも消えそうな影の中から、ぶわっと黒い魔力の塊が飛び出してきた。

 ……待ってたぜ、この瞬間をよ!

 俺は飛び出してきた黒い魔力の塊に、攻撃を仕掛ける。
 こいつは分身となった体の中に逃げ込もうとしているからな。ふん、軌道が丸わかりってもんだ!

「くらえ!」

「はっ! な、なんだと?!」

 俺は力いっぱいに拳を振り抜く。
 その時の俺の声でリッチが俺の動きに気が付いたようだが、それはもう遅すぎというものだ。

「だりゃあっ!!」

 俺の強い神聖魔力がこもった拳が、リッチの本体である黒い魔力をきっちりと捉える。
 焼けつくような音が響き渡り、俺の神聖魔力とリッチの闇の魔力とがせめぎ合いを始める。

「この程度で、我がやられてたまるものですか!」

「さっさと消えろ。骸はおねんねの時間なんだよ!」

「我は、主様の生み出した呪いの使徒。この程度で……この程度で消えてなるものですか!」

 俺の拳に対して必死に抵抗をするリッチだが、俺の拳の魔力の方が強いらしく、少しずつ削れていっている。
 リッチは最後の抵抗といわんばかりに、分身である骨の体を使って俺を襲撃しようとする。

「我の体よ、こやつを殺すのです!」

「お任せを!」

 リッチの命令を受けて、分身である骨が俺に向かって走り出す。

「うるせぇ、さっさと消えやがれ!」

 俺は強引に拳を振り向こうとする。リッチが激しく抵抗するのでなかなか振り抜けない。
 まったく、どこまで粘るっていうんだよ。
 俺の後ろでは、骨が一撃を加えようと大きく振りかぶっている感じがする。

「死ぬのはお前だ、リッチ!」

 俺がもう一度力を込めると、何かが弾けたような気がした。
 その瞬間、俺の体の中から力があふれてくる。

「なに、これは……。そんなバカなっ!」

 俺の中からあふれ出る力に驚いて、リッチが叫んでいる。

「この我が、消える……、消えるというのですか……っ!」

 俺の拳が振り抜かれると、リッチの黒い魔力がさあっと消え去っていく。
 それと同時に、俺の後ろでは骨の崩れ落ちる音が響く。
 辺りを包み込んでいた白い光が消えていくと、ようやく状況がはっきりしてくる。

「終わったか……」

 俺が呟くと同時に一陣の風が吹き、崩れ去った骨を砂塵へと変えたのだった。
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