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第二章 外側の世界
第411話 転生者、力の秘密を知る
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俺の前世は社畜だった。
大学生までは本当に不自由なく暮らしてきたんだが、卒業後に入った会社が悪かった。
いわゆるサービス残業は当たり前、休日出勤もしょっちゅうだ。気が付けばふた月くらいは連勤ということも珍しくなかった。
自分の前世がどうやって死んだかもよく覚えていない。労働環境からすれば、そのままぽっくりというのは想像に難くない話だ。まあ、死んだ瞬間なんて思い出したくもない。どうせろくな場面じゃないからな。
転生の秘密と言われたところで、俺はついこんなことを思い出してしまっていた。いかんいかん、前世なんてもうどうでもいいんだよ。今気になるのは、俺がヘルプワゾンやリッチとの戦いで見せた不思議な力だ。
体の中からあふれるような不思議な力を感じたのは間違いない。それが何なのか、リヒテルの話を聞けばきっとわかるだろう。
「私は長らく、どうやって外界からの侵略者からこの世界を取り戻すか考えていました。その中で、私が気が付いたのです」
「何にだ?」
リヒテルの話す内容に、俺はつい口を挟んでしまった。
だが、リヒテルは気にすることなく話を続ける。
「侵略者が世界中に広げた毒がこの世界の者にだけ通じるものだとしたら、侵略者と同じように外界から魂を受け入れれば、対抗できるのではないかと」
「なるほど、それでこの世界とは別の世界から魂を呼び寄せて、この世界に転生させることにしたってわけか」
俺が口にした内容に間違いがないらしく、リヒテルはこくりと頷いていた。
「ケオスは反対しましたが、私とレーヴェンは、早速神の使徒としての権限を使い、外の世界から魂を呼び寄せます。ただし、その魂には条件を求めましたけれど」
「どういう条件なんだ?」
「穢れがなく、それでいてどんな困難にも立ち向かえるもの。私たちが求めた条件はそれでした」
なんとなく分かったな。
とはいえ、世界はかなりの数があるだろうし、人の数などそれこそ無数だ。俺が選ばれたというのも、はっきりいって奇跡だろう。
「本当に、運がよかったといえます。あなたとそれと縁のある存在が揃ってこの世界に呼び出されたのですから」
「確かにそうだな。セイ太は俺がまだ学生だった頃に飼っていた犬だからな」
「魔王が変な名前を付けたせいじゃないのかにゃ? セイ太って、男の子の名前のはずにゃ」
「ぐっ……」
エイミーが頭の後ろで手を組みながら、けらけらと楽しそうに笑いつつ指摘してくる。確かにその通りだよ、この野郎。
「それでですが、セイ。あなたが発揮しそうになった力ですが、それは私の使徒としての力です。元々あなたは、私の使徒として召喚したのですから」
「な、なんだって? 俺が、光の使徒の使徒?」
使徒が二重になって面倒くさいな。だが、つまりは神の部下の部下ってことだ。
それにしても、それならなんで俺は王国貴族として生まれて、今は魔王をやってるんだよ。セイ太の今の状況を思うと不思議でならない話だった。
「それは、なんというか……」
歯切れの悪いリヒテルである。
「それは、私の主が悪いにゃ」
「ええ、そうですね。ケオスが割り込んできたんですよ」
エイミーとセイ太が揃って話に割り込んでくる。
「どういうことだよ」
「ええ、その通りなんです。『使徒として迎えるくらいなら、人間どもの中に落としてやれ。その方がお前の思う展開になるだろう』といって、あなたを人間として生まれるように介入してきたんです」
「異世界転生に反対していたのに、なんとも勝手な主だにゃあ……」
自分の生み出した使徒にすらこんな風に言われる始末である。そのケオスは今頃どこで何をしてるんだよ。ふと思ってしまう俺だった。
「ですが、ケオスのその判断は間違っていませんでしたね。セイ、あなたは私たちの思う以上の結果を出しています」
リヒテルは俺の後ろにいるピエラたちへと目を向ける。
俺は転生者で元人間の魔王。ピエラは人間の魔法使い。デイジーは人間で神聖魔法の使い手。キリエは魔王の参謀である魔族。セイ太は命の使徒レーヴェンの使徒。エイミーは混沌の使徒ケオスの使徒。ものの見事に立場がバラバラなのだ。
そのまったくまとまりのないであろう集団が、俺を中心として一つにまとまっている。これこそが、侵略者対抗しうる手段だと、リヒテルは確信を持ったかのようにじっと俺たちを見つめていた。
「レーヴェンの樹も、世界中に広まりました。あとは、侵略者を倒すのみですね」
「だな。やつの三使徒は全員倒した。残るはその大ボスだけだ」
「ですが、その侵略者とやらはどちらに?」
キリエが素朴な疑問をぶつけてくる。
「それはもう場所は分かっています。中央の大陸の南西、そこに漆黒の大穴が開いています。やつはそこからこの世界へと入り込んできたのです」
「元は魔族の住む大陸だったところにゃ。ネラールという魔族も、そこが出身なのにゃ」
リヒテルの言葉に、エイミーが説明をつけ足している。なるほど、つまりマーシャルやネラールにとっては、故郷を取り戻す戦いともなるわけか。
故郷を奪われて一千年以上。一体二人はどんな気持ちでいたんだろうな。
「ですが、今のままではまだ太刀打ちできないでしょう。そのためには、セイ、あなたが光の使徒である私の使徒として完全に目覚めなくてはいけません」
「光の使徒の力……か。どうすればいい」
「簡単な話です。目覚めつつある力を使いこなせるようになればいいだけです」
「眠れる力……か」
俺はぎゅっと拳を握りしめる。
最終決戦に向けて、まだ課題は多いようだな。
大学生までは本当に不自由なく暮らしてきたんだが、卒業後に入った会社が悪かった。
いわゆるサービス残業は当たり前、休日出勤もしょっちゅうだ。気が付けばふた月くらいは連勤ということも珍しくなかった。
自分の前世がどうやって死んだかもよく覚えていない。労働環境からすれば、そのままぽっくりというのは想像に難くない話だ。まあ、死んだ瞬間なんて思い出したくもない。どうせろくな場面じゃないからな。
転生の秘密と言われたところで、俺はついこんなことを思い出してしまっていた。いかんいかん、前世なんてもうどうでもいいんだよ。今気になるのは、俺がヘルプワゾンやリッチとの戦いで見せた不思議な力だ。
体の中からあふれるような不思議な力を感じたのは間違いない。それが何なのか、リヒテルの話を聞けばきっとわかるだろう。
「私は長らく、どうやって外界からの侵略者からこの世界を取り戻すか考えていました。その中で、私が気が付いたのです」
「何にだ?」
リヒテルの話す内容に、俺はつい口を挟んでしまった。
だが、リヒテルは気にすることなく話を続ける。
「侵略者が世界中に広げた毒がこの世界の者にだけ通じるものだとしたら、侵略者と同じように外界から魂を受け入れれば、対抗できるのではないかと」
「なるほど、それでこの世界とは別の世界から魂を呼び寄せて、この世界に転生させることにしたってわけか」
俺が口にした内容に間違いがないらしく、リヒテルはこくりと頷いていた。
「ケオスは反対しましたが、私とレーヴェンは、早速神の使徒としての権限を使い、外の世界から魂を呼び寄せます。ただし、その魂には条件を求めましたけれど」
「どういう条件なんだ?」
「穢れがなく、それでいてどんな困難にも立ち向かえるもの。私たちが求めた条件はそれでした」
なんとなく分かったな。
とはいえ、世界はかなりの数があるだろうし、人の数などそれこそ無数だ。俺が選ばれたというのも、はっきりいって奇跡だろう。
「本当に、運がよかったといえます。あなたとそれと縁のある存在が揃ってこの世界に呼び出されたのですから」
「確かにそうだな。セイ太は俺がまだ学生だった頃に飼っていた犬だからな」
「魔王が変な名前を付けたせいじゃないのかにゃ? セイ太って、男の子の名前のはずにゃ」
「ぐっ……」
エイミーが頭の後ろで手を組みながら、けらけらと楽しそうに笑いつつ指摘してくる。確かにその通りだよ、この野郎。
「それでですが、セイ。あなたが発揮しそうになった力ですが、それは私の使徒としての力です。元々あなたは、私の使徒として召喚したのですから」
「な、なんだって? 俺が、光の使徒の使徒?」
使徒が二重になって面倒くさいな。だが、つまりは神の部下の部下ってことだ。
それにしても、それならなんで俺は王国貴族として生まれて、今は魔王をやってるんだよ。セイ太の今の状況を思うと不思議でならない話だった。
「それは、なんというか……」
歯切れの悪いリヒテルである。
「それは、私の主が悪いにゃ」
「ええ、そうですね。ケオスが割り込んできたんですよ」
エイミーとセイ太が揃って話に割り込んでくる。
「どういうことだよ」
「ええ、その通りなんです。『使徒として迎えるくらいなら、人間どもの中に落としてやれ。その方がお前の思う展開になるだろう』といって、あなたを人間として生まれるように介入してきたんです」
「異世界転生に反対していたのに、なんとも勝手な主だにゃあ……」
自分の生み出した使徒にすらこんな風に言われる始末である。そのケオスは今頃どこで何をしてるんだよ。ふと思ってしまう俺だった。
「ですが、ケオスのその判断は間違っていませんでしたね。セイ、あなたは私たちの思う以上の結果を出しています」
リヒテルは俺の後ろにいるピエラたちへと目を向ける。
俺は転生者で元人間の魔王。ピエラは人間の魔法使い。デイジーは人間で神聖魔法の使い手。キリエは魔王の参謀である魔族。セイ太は命の使徒レーヴェンの使徒。エイミーは混沌の使徒ケオスの使徒。ものの見事に立場がバラバラなのだ。
そのまったくまとまりのないであろう集団が、俺を中心として一つにまとまっている。これこそが、侵略者対抗しうる手段だと、リヒテルは確信を持ったかのようにじっと俺たちを見つめていた。
「レーヴェンの樹も、世界中に広まりました。あとは、侵略者を倒すのみですね」
「だな。やつの三使徒は全員倒した。残るはその大ボスだけだ」
「ですが、その侵略者とやらはどちらに?」
キリエが素朴な疑問をぶつけてくる。
「それはもう場所は分かっています。中央の大陸の南西、そこに漆黒の大穴が開いています。やつはそこからこの世界へと入り込んできたのです」
「元は魔族の住む大陸だったところにゃ。ネラールという魔族も、そこが出身なのにゃ」
リヒテルの言葉に、エイミーが説明をつけ足している。なるほど、つまりマーシャルやネラールにとっては、故郷を取り戻す戦いともなるわけか。
故郷を奪われて一千年以上。一体二人はどんな気持ちでいたんだろうな。
「ですが、今のままではまだ太刀打ちできないでしょう。そのためには、セイ、あなたが光の使徒である私の使徒として完全に目覚めなくてはいけません」
「光の使徒の力……か。どうすればいい」
「簡単な話です。目覚めつつある力を使いこなせるようになればいいだけです」
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俺はぎゅっと拳を握りしめる。
最終決戦に向けて、まだ課題は多いようだな。
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