420 / 431
第二章 外側の世界
第420話 転生者、成し遂げる
しおりを挟む
さすがに世界の根本を支える場所のレーヴェンの樹が一本では足りないだろうと、全部で七本の樹を植えておいた。地上とは違う感じに成長したレーヴェンの樹がこれだけあれば、おそらくもう大丈夫だろう。
「デイジー、お疲れ様」
「はい、頑張りました……」
さすがにほとんど休憩なしに七本は厳しかったようだ。デイジーは頭に手を当ててふらついていた。
心配したセイ太がデイジーをおぶさると、落ち着いた表情を見せていたので、ひとまず安心のようだな。
ところが、安心したのも束の間だった。
「な、なんだ? 地震か?」
「ものすごく揺れているわね。何が起きているのよ」
唐突に大きな揺れが起き始めたのだ。
普通ならば立っているのがやっとのような大きな揺れだというのに、俺たちは不思議と慌てなかった。
「どうやら、この世界が胎動を再開したようだ。本当に感謝するぞ」
ケオスが俺たちにお礼を言っている。
「ふっ、この世界の状況を知っちまったんだ。これくらいどうってことないさ。なあ、みんな」
俺が答えながら同意を求めると、みんな揃って首を縦に振っていた。
最初から最後まで、俺たちの心はひとつにまとまっていたのだ。
あまりにも見事な俺たちの団結に、ケオスも笑うばかりだった。
しかし、さすがに段々と揺れが大きくなってくると、のんびりしているというわけにはいかなかった。
「イヴィルアイが倒されたことによって、奴の手によってできたこの大穴が閉じようとしている。このままでは、俺たちもこの中に閉じ込められてしまう」
「そういうことか。だが、この状況で地上まで間に合うのか?」
ケオスの説明に納得はいくが、揺れが大きくなって岩肌がはがれて落下してきている。
このままでは魔法で空を飛んだとしても、大きな岩が落下してきてしまえば脱出は叶わない。はてさてどうしたものだろうかな。
「ふっ、こういう時こそ俺に任せろというものだ」
俺たちが困っていると、ケオスが胸を張って主張してくる。
「俺は神の使徒の一人だ。俺の力を使えば、俺たち全員を地上まで送るということなど、まったくもって造作もないというものだぞ?」
大した自信だな。
ならば見せてもらおうか、神の使徒の真の力というものを。
ケオスの指示に従って、俺たちはひとまとまりになる。
「さあ、全員きちんとつながっておれよ。混沌の使徒ケオスの力、今こそ見せてやろうぞ!」
ケオスがぱちんと指を鳴らすと、俺たちはぐにゃりと何かが歪むような感覚に襲われる。
「さあ、もういいぞ」
思わず閉じてしまって目を開くと、そこは確かに、大穴の近くの地上だった。
そこで、まずは全員がきちんとそろっているかを確認する。
「いるわよ、セイ」
「ここにおりますとも、魔王様」
「大丈夫ですよ、お姉様」
「問題ない」
「私もいますよ、セイ」
「みんないるのにゃ」
俺が首を振ろうとした瞬間に、全員から声をかけられてしまった。俺の行動分かりやすすぎか。
いやまあ、確認が簡単に終わったんだからよしとしよう。
「うむ、成功だな」
ケオスが腰に手を当てながら、なんとも不穏な言葉を口にしている。
顔や態度は得意げにしているだけに、余計に不安になってしまうぞ。
「おい、成功だなってなんだよ」
「長らくあの地下で奴の力を抑えるのに必死だったのだ。それ以外の使い方を忘れても不思議ではないだろうが。うるさいというものだ、獣人の小娘」
「あのなぁっ!」
思いも寄らなかったことに、俺はケオスに思わず突っかかってしまう。
そこへ、デイジーが急に割って入ってきたので、俺は思わず動きを止めてしまった。
「あの、地下のレーヴェンの樹は一体どうなるのでしょうか」
そうだった。せっかく樹を成長させたというのに、穴が塞がってはどうなるか分かったものではない。
デイジーの言葉で、俺も気になってしまった。
「心配要らんぞ。命の使徒レーヴェンの樹ぞ? 地中に埋まってしまったくらいでどうこうなるようなやわな木ではないわ。がっはっはっはっはっ!」
ケオスが豪快に笑い出す。
この姿を見て、ああ、確かに混沌の使徒だと思わされた。なんといってもデザストレとよく似ているからな。
「さあ、周りを見てみろ。お前たちが成し遂げた成果が、徐々に姿を見せているぞ」
ケオスが話を逸らすかのように喋り出すが、俺たちはその言葉に従って周辺の様子を見てみる。
なんということだろうか。あれだけ曇って晴れ間がのぞくことのなかった空から光が差し込み始めたのだ。
荒れていた海も徐々に穏やかになり、草の一本も生えていなかった大地からは芽が吹き出している。いや、いくらなんでも早すぎないか?」
「これも地中で植えたレーヴェンの樹の効果だ。レーヴェンの樹の力によって、世界の命の循環が起こり始めたのだよ」
俺たちは、信じられない光景に言葉を失った。いや、この光景はとても言葉で言い表せるものじゃないな。
「さあ、リヒテル、レーヴェン。お前たちも姿を見せろ!」
ケオスが大声で叫ぶと、ケオスの隣に光の使徒リヒテルと、命の使徒レーヴェンが姿を見せる。
俺が転生した世界における神の使徒が、今俺たちの前に勢ぞろいしたのだった。
「デイジー、お疲れ様」
「はい、頑張りました……」
さすがにほとんど休憩なしに七本は厳しかったようだ。デイジーは頭に手を当ててふらついていた。
心配したセイ太がデイジーをおぶさると、落ち着いた表情を見せていたので、ひとまず安心のようだな。
ところが、安心したのも束の間だった。
「な、なんだ? 地震か?」
「ものすごく揺れているわね。何が起きているのよ」
唐突に大きな揺れが起き始めたのだ。
普通ならば立っているのがやっとのような大きな揺れだというのに、俺たちは不思議と慌てなかった。
「どうやら、この世界が胎動を再開したようだ。本当に感謝するぞ」
ケオスが俺たちにお礼を言っている。
「ふっ、この世界の状況を知っちまったんだ。これくらいどうってことないさ。なあ、みんな」
俺が答えながら同意を求めると、みんな揃って首を縦に振っていた。
最初から最後まで、俺たちの心はひとつにまとまっていたのだ。
あまりにも見事な俺たちの団結に、ケオスも笑うばかりだった。
しかし、さすがに段々と揺れが大きくなってくると、のんびりしているというわけにはいかなかった。
「イヴィルアイが倒されたことによって、奴の手によってできたこの大穴が閉じようとしている。このままでは、俺たちもこの中に閉じ込められてしまう」
「そういうことか。だが、この状況で地上まで間に合うのか?」
ケオスの説明に納得はいくが、揺れが大きくなって岩肌がはがれて落下してきている。
このままでは魔法で空を飛んだとしても、大きな岩が落下してきてしまえば脱出は叶わない。はてさてどうしたものだろうかな。
「ふっ、こういう時こそ俺に任せろというものだ」
俺たちが困っていると、ケオスが胸を張って主張してくる。
「俺は神の使徒の一人だ。俺の力を使えば、俺たち全員を地上まで送るということなど、まったくもって造作もないというものだぞ?」
大した自信だな。
ならば見せてもらおうか、神の使徒の真の力というものを。
ケオスの指示に従って、俺たちはひとまとまりになる。
「さあ、全員きちんとつながっておれよ。混沌の使徒ケオスの力、今こそ見せてやろうぞ!」
ケオスがぱちんと指を鳴らすと、俺たちはぐにゃりと何かが歪むような感覚に襲われる。
「さあ、もういいぞ」
思わず閉じてしまって目を開くと、そこは確かに、大穴の近くの地上だった。
そこで、まずは全員がきちんとそろっているかを確認する。
「いるわよ、セイ」
「ここにおりますとも、魔王様」
「大丈夫ですよ、お姉様」
「問題ない」
「私もいますよ、セイ」
「みんないるのにゃ」
俺が首を振ろうとした瞬間に、全員から声をかけられてしまった。俺の行動分かりやすすぎか。
いやまあ、確認が簡単に終わったんだからよしとしよう。
「うむ、成功だな」
ケオスが腰に手を当てながら、なんとも不穏な言葉を口にしている。
顔や態度は得意げにしているだけに、余計に不安になってしまうぞ。
「おい、成功だなってなんだよ」
「長らくあの地下で奴の力を抑えるのに必死だったのだ。それ以外の使い方を忘れても不思議ではないだろうが。うるさいというものだ、獣人の小娘」
「あのなぁっ!」
思いも寄らなかったことに、俺はケオスに思わず突っかかってしまう。
そこへ、デイジーが急に割って入ってきたので、俺は思わず動きを止めてしまった。
「あの、地下のレーヴェンの樹は一体どうなるのでしょうか」
そうだった。せっかく樹を成長させたというのに、穴が塞がってはどうなるか分かったものではない。
デイジーの言葉で、俺も気になってしまった。
「心配要らんぞ。命の使徒レーヴェンの樹ぞ? 地中に埋まってしまったくらいでどうこうなるようなやわな木ではないわ。がっはっはっはっはっ!」
ケオスが豪快に笑い出す。
この姿を見て、ああ、確かに混沌の使徒だと思わされた。なんといってもデザストレとよく似ているからな。
「さあ、周りを見てみろ。お前たちが成し遂げた成果が、徐々に姿を見せているぞ」
ケオスが話を逸らすかのように喋り出すが、俺たちはその言葉に従って周辺の様子を見てみる。
なんということだろうか。あれだけ曇って晴れ間がのぞくことのなかった空から光が差し込み始めたのだ。
荒れていた海も徐々に穏やかになり、草の一本も生えていなかった大地からは芽が吹き出している。いや、いくらなんでも早すぎないか?」
「これも地中で植えたレーヴェンの樹の効果だ。レーヴェンの樹の力によって、世界の命の循環が起こり始めたのだよ」
俺たちは、信じられない光景に言葉を失った。いや、この光景はとても言葉で言い表せるものじゃないな。
「さあ、リヒテル、レーヴェン。お前たちも姿を見せろ!」
ケオスが大声で叫ぶと、ケオスの隣に光の使徒リヒテルと、命の使徒レーヴェンが姿を見せる。
俺が転生した世界における神の使徒が、今俺たちの前に勢ぞろいしたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる