異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第二章 外側の世界

第426話 転生者、移住を始める

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 俺たちがやって来たのは、南方王国のレーヴェンの樹がある南東の高原だった。
 俺だけしか見ることのできなかったレーヴェンの樹だが、今回はなんとみんなにもしっかりと見えている。

「こんなところに、こんな樹があったのですね」

 キリエたちがびっくりしている。

「ああ。この樹を通して俺たちは今まで外の世界と行き来してたんだよ。みんなにはやっぱり見えてなかったのか」

「初めて見たわよ」

 ピエラからはっきり言われてしまった。
 まっ、いろいろ理由があって隠してたみたいだしな、しょうがない話だな。

 ところが、今回は俺もびっくりさせられた。
 なぜかって?
 レーヴェンの樹の向こうにあったはずの岩山がなくなってるんだよ。山の途切れたところから、外界の海がよく見えている。

「すごいですね。向こうに水面が広がっています」

「聖王様。あれが海ですよ」

「あれが、そうなのですね」

 デイジーの説明を聞いて、聖王はじっと海を見つめている。
 それにしても、岩山の隙間から漂ってくる空気は、すっかり穏やかなものとなっていた。以前は侵略者の毒素のせいでかなり痛々しい雰囲気だったんだが、それだけ三使徒が頑張ってくれたということだ。

「お待ちしていましたよ。セイ、セイ太、それとみなさん」

 三使徒の一人、レーヴェンが俺たちの前に姿を現す。
 まあ、ここはレーヴェンの樹がある場所だからな。レーヴェンが迎えに来るのは当然と言っちゃ当然だろう。

「お久しぶりです、レーヴェン様」

 セイ太がしっかりと頭を下げて挨拶をしている。自分の主だから、当然の仕草だろう。

「ずいぶんと大きく切り崩したもんだな。これだけ大穴を開けても大丈夫ってことなんだな」

「はい。もう毒素に怯える心配はございません。この樹の種がなくても平気ですよ」

 にっこりとレーヴェンは微笑んでいる。
 いろいろと助けてくれたりしたからな。俺たちにはレーヴェンの言葉を疑う余地なんてのはなかった。

「えっと、今回の移住者はこれだけでしょうか」

「今のところはな。意外と魔族たちの方が慎重だったんでね。第一陣はほとんどが聖国の人間だよ」

「そうですか。分かりました」

 レーヴェンに事情を伝えたので、ひとまず第一陣はこのメンバーで出発することになった。
 目指すは聖国が移住することになったサージェント遺跡のある東の大陸だ。
 サージェント遺跡には、一千年前に逃げ込んだ人たちの子孫が暮らしている。彼らと合流できれば、今やって来た人数だけでも定着をしていくことは可能だろう。
 食料に関してはデイジーの成長促進魔法があるから、当面は肉系はないものの、食べ物には困らないだろう。
 俺がちらりと視線を送ると、デイジーは俺の視線に気が付いたらしく、自信たっぷりに頷いていた。まったく、頼りになる少女だよな、デイジーは。

「それで、レーヴェン。移動手段はどうなっているんだ?」

 俺が問い掛けると、レーヴェンは岩山の外まで移動して指を差す。
 その方向には、なんと大きな帆船が係留されていた。いつの間にあんなものを造ったんだか。今日は驚かされてばかりだぜ。

「私とケオスの二人で建造させて頂きました。リヒテルは別の作業があるということで手伝っておりません」

「へえ。さすが命と混沌の使徒だな。なんとも立派な船だが、ちゃんと浮かんで航行できるのか?」

「そのあたりはしっかりと確認済みですよ。まったく、心配性ですね」

 俺の心配に、レーヴェンはおかしくて笑っている。
 変なことを言ったつもりは何だが、こんな風に笑ってるということは大丈夫なんだろうな。

 馬車ごと船に乗り込み、いよいよ出航となる。
 船の操作はピエラが行う。風魔法も水魔法も使いこなす万能の魔法使いだからな。
 ちなみに、船の中には舵がなかった。まったくやっぱりダメだったじゃないか。だからこそ、ピエラが魔法を使って操作するということになったわけだ。
 まあ、俺のとこのキリエも負けないくらいに魔法が使えるから、二人で交代しながらやれば順調に航海は進められるだろう。

 航海が順調に進む中、俺は船の片隅で料理を作り始める。
 やっぱり食事は必要だからな。こういう時にデザストレのうろこっていうのはとても便利だ。あらゆるものを腐らせずに持ち運びできるんだからな。巨竜であるとはいっても、うろこ一枚ならたかが知れているからな。
 後の問題は船酔い対策だが、キリエとピエラの魔法なら揺れはそう大きくなるまい。
 こうして、俺たちを乗せた船は、順調にケオス大陸から西方向へと向かい、東の大陸へと近付いていく。
 当たり前だが、セイ太やエイミーたちに比べれば、船の移動速度はあまり速くない。何度昼と夜を繰り返したことだろうかな。
 すっかり日数が分からなくなった頃、ようやく俺たちの目の前に陸地が見え始めてきた。

「おーい、陸地が見えてきたぞ!」

 俺が叫ぶと、船室からぞろぞろと人がやって来る。聖国の人間とはいっても、やっぱりこういう状況だと同じような反応になるもんだな。

「見てくれ。あれが俺たちが目指している東の大陸だ」

 陸地を見つけた人たちが、一気に騒めき立っている。
 ただその多くは、長い船旅の疲れも見せずに、希望に満ちた表情を見せていた。新天地にかける思いというものを、それだけ強く抱いているということなのだろう。

 いよいよケオス大陸を脱出した人々は、新しい土地でどんな生活を送ることになるんだろうな。
 これからのことを思うと、なんだか胸が高鳴ってくるというものだ。
 俺たちを乗せた船は、いよいよ東の大陸へと接岸を試みるのだった。
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