異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
427 / 431
第二章 外側の世界

第427話 転生者、東の大陸を案内する

しおりを挟む
 さすがは使徒たちが作った船である。ものすごく頑丈で、問題なく陸地へと接岸する。

「うわぁ、以前と全然違いますね」

 船を降りたデイジーが改めて目の前の景色に驚いている。
 岩肌だらけだった大陸は、今や緑や色とりどりな花に囲まれた、自然豊かな土地に生まれ変わっていた。
 色を失った空と海に、岩だらけの陸地。それが以前の東の大陸の状況だった。
 それがなんとカラフルになっているのか。自分たちが行ってきたこととはいえど、あまりの変貌っぷりに現実をなかなか受け入れられないでいた。

「さあ、降りましょうか」

 レーヴェンの声で、俺たちは次々と上陸していく。
 海の色も澄んでいるし、空もどこまでいっても青い。降り立った地面は砂がいい音を立てている。

「てか、砂浜なんてあったんだな」

「蘇らせていくと、自然とここは砂浜になりましたね。つまり、以前からここは砂浜だったということですね」

「なるほど……」

 レーヴェンたちは蘇らせたと言っていたの。だから、元の地形に戻ったと理解するのが普通だろう。となるならば、俺たちが今いる場所は、元から砂浜であったということになるわけだ。
 しっかりと砂の海岸を踏みしめた俺は、東の大陸をじっと見つめる。

「ははっ、レーヴェンの樹の異質っぷりがすげえな」

「まあ、そうですね。私の力を宿した樹は、植生に関係なく生やすことができますからね。ですから、地域によってはものすごく目立つんですよ」

「ああ、そういうことね」

 俺はレーヴェンの言い分にものすごく納得していた。
 俺たちが話をしている間に、船に乗っていた面々が全員浜辺に降り立っていた。

「さて、荷物はすべて降ろしましたかね。人も物も空になったのでしたら、一度これはしまわせて頂きます」

 俺たちに一切の欠けがないことを確認すると、レーヴェンは指を鳴らして船をその場から消してしまっていた。

「セイが持つその厄災のうろこと同じですね。神の使徒ですから、このような力も持ち合わせているのですよ」

「へえ、便利だわね」

「ふふっ、私たち特有の権限のようなものだと思って下さいね」

 ピエラが覚えたそうにしているものの、レーヴェンはそう言って諦めさせようとしていた。
 しかし、この程度で諦めるようなピエラじゃねえ。絶対極めようとするだろうな。ハミングウェイってそういう家なんだよ。

 さて、いろいろと話をした俺たちは、東の大陸の拠点となるサージェント遺跡を目指す。
 サージェント遺跡以外は人間たちが住んでいた頃の形跡がほぼなかったし、一千年前から生きている人やその子孫たちがその場所にはいる。つまり、外の世界の再生の拠点としてはもってこいなのだ。
 しかし、サージェント遺跡までの移動にはずいぶんと苦労させられた。植物のがあちこち生えているせいで、道というものがないんだよ。
 でも、これもレーヴェンの力のおかげで、無理やり切り開きながら進むことができた。
 こうして、どうにかこうにかサージェント遺跡へとたどり着くことができたのだ。

「ああ、またここに来れる時が来るとはな。しかも、父上と一緒に外に出ることができる。こんな喜ばしいことがあるだろうか」

 ネラールは感動に打ち震えているようだ。
 なにせこのサージェント遺跡の地下は、ネラールにとって一千年前のスタートの地だったのだからな。そこで再び新たなスタートを切れるとあれば、当然感慨深くなるだろう。
 地下空間へ入り、まずはマーシャルと会うことになる。外の世界に戻るとなれば、やはりリーダーの判断というものが必要だろうからな。
 三使徒の一人、レーヴェンが先頭になって地下へと降りていく。だが、さすがに馬車が進むには狭いので、残念ながら、馬車と荷物はここで待機となった。

「私とキリエさんで見ているから、セイたちは地下に行って」

「分かった。任せるよ」

 移動するにも誰かが見ている必要がある。そんなわけで、ピエラとキリエがその役を買って出ていた。
 ピエラはケモナーだからな。馬だって例外じゃない。だから、自分に任せろというわけなんだよ。
 俺はピエラたちに任せて、地下空間へと降りていく。
 さすがにこれだけ真っ暗で狭い空間だ。聖国の人間とはいえども、怖く感じる人たちは少なからずいた。
 移住者たちは身を寄せ合いながら、俺たちと一緒に地下へと降りていく。
 一番下まで降りると、リヒテルに守られた空間が急に目の前に広がる。一気に明るくなり、人の営みの声が聞こえてくる。

「セイ、一番奥まで。そこでリヒテルとマーシャルが待っています」

「分かった。それじゃみんな、一番奥まで進むぞ」

「は、はい」

 移住者たちを全員引き連れて、俺たちは地下空間の最奥へと向かって歩いていく。
 途中には俺たち以外の見慣れない姿がたくさんあって、地下の住民たちはじろじろと眺めているようだった。
 移住者たちも逆に、この空間で暮らしている人たちに驚いていた。
 うん、どっちもどっちだよな。外の俺たちからすれば、こんなところに人が住んでるなんて思わないし、ここにいる人たちからすれば、外から人がやってくるなんて思わないからな。
 俺は互いの反応ににこにこと笑顔を浮かべながら、地下空間の最奥へとやってきた。

 さあ、一千年前の魔王、マーシャルとのご対面だぜ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...