異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
3 / 431
第一章 大陸編

第3話 転生者、一難去ってまた一難

しおりを挟む
(うう……、まぶたが重い、体も重い……)

 魔王を倒したはずの俺は、どことも分からない場所で動けずにいた。

(魔王を倒して、その後どうなったんだっけか……)

 気怠さが全身を襲う中、俺は必死にあれこれ思い出そうと必死に頭を働かせる。
 しかし、思い出そうとしても全身の意識が、深みに引きずり込まるれるようにして集中する事を拒んでいた。

 意識がいよいよ怪しくなってきた。

(やばい……。せっかく転生したっていうのに、俺の人生はこんなところで終えちまうのか?)

 二度目の死が迫ってきている感覚に、俺はつい恐怖を感じてしまう。
 だが、急速に意識が遠のいていき、とても抗えそうにない。
 もう終わりだ。そう思った瞬間、俺の耳にかすかに何かの音が聞こえてきた。

(……なんだ、この声?)

 意識が遠のきすぎて、はっきりとその声が聞き取れない。なんとかして聞き取ろうと、俺は気をしっかりとさせようと必死になった。
 すると、その声の正体がようやく分かるようになってきた。

(これは、犬の鳴き声か?)

 かすかに「ワン」という音が聞こえてきたのだ。それは間違いなく、犬の鳴き声だった。
 ところが、ただの犬の鳴き声だと思っていたのに、なんとなく懐かしい感じがした。
 まさかと思った俺は、ぐっと体に力を入れる。
 するとどうした事だろうか。さっきまでほとんど力が入らなかったのに、今はしっかりと体に力が入れられるのだ。

(これは……、もしかしたら目を覚ます事ができるか?)

 俺はさっきまで諦めかけていたのが嘘のように希望を取り戻す。
 すると、その犬の鳴き声はよりはっきり聞き取れるようになり、その声の主が誰なのかを思い出したのだ。

(そうか、この声……。前世の中学生頃に飼っていた犬か。確か名前は……)

「ワン!」

(そうだ。自分の名前からとってつけたセイ太だ。あとでメスだと分かって怒られたっけかな。セイ太が喜んでたからそのままになってたけど)

 はっきりと聞こえた鳴き声に、俺は完全に思い出していた。
 しかし、同時にどうしてその犬の鳴き声が聞こえてきたのか。それが疑問で仕方なかった。
 まさか、ここはあの世だというのだろうか。
 せっかく取り戻した希望が、再び絶望へと切り替わっていく。

「ワン(諦めちゃダメ)」

 うん?
 今一瞬、犬の鳴き声に紛れて、女性の声が聞こえた気がする。

「ワンワン(私はセイを助けに来たんだから)」

 空耳じゃない?
 さっきよりもはっきりと聞こえてくる。
 セイ太、お前って喋れたのか……。

「ワンワワン(神様に言われて、セイを助けに来たんだよ)」

 俺を助けに?
 一体どうするつもりなのだろうか。

「ワンワワンワン(さあ、私を受け入れてちょうだい、セイ)」

(ちょっと待て、一体何を……)

 戸惑う俺だったが、その瞬間、体に何かがぶつかるような感触があった。
 そして、体から力がみなぎってくるのを感じた。
 ところが、それも束の間。俺の意識はそこでまたぱたりと途切れてしまった。

 ―――

「う……ん……」

 俺の目の前が、うっすらと明るくなる。
 魔王との戦いの後、二度も消えた意識だったが、目の前が明るいという状況は久しぶりだった。
 それにしても、ここは一体どこだというのだろうか。
 まぶたがはっきり開かないので、周りのすべてがぼやけて見える。おかげでまったく状況の確認ができないという。これは困ったものだな。
 その時だった。
 扉が開いて誰かが入ってくる。
 しかし、問い掛けようにもうまく声が出ない。まったく、どうなっているというのだろうか。

「今日は、起きてくれてるかな……」

 小さくながら呟く声が聞こえてくる。
 この声は聞き覚えがある。幼馴染みのピエラの声だ。

「あ……う……」

 声を出して反応しようとしても、思うように声が出ない。なんとももどかしい気分だ。

「セイ?」

 ところが、ピエラにはこの声が届いたらしくて反応している。
 そして、小走りに近付いてくる靴音が聞こえてくる。

「セイ、目を覚まし……って。誰よ、あなた!」

 ピエラが叫んでいる。そんなに取り乱してどうしたというんだ。
 俺だ、幼馴染みのセイだ。そう告げようにも、俺の声がうまく出てくれない。

「誰か、誰か来て下さい。知らない人がベッドで寝ています」

 叫びながら去ろうとするピエラ。すると、俺の体がとっさに動いてピエラの腕を掴んでいた。
 そのおかげか、ようやく視界がはっきりしてきた。
 だが、そこで俺の目に飛び込んできたのは、信じられないものだった。

(ピエラの腕を掴んでいるこの手、一体誰の手なんだよ)

 見た事のない手が視界に入ってきたのだ。
 冷静に手から腕の方へと視線を動かすと、なんとその見た事のない手の正体は俺のものだった。

(何だ、この毛むくじゃらな手は……!)

 驚いた俺はピエラから手を離し、自分の体をぺたぺたと触り始める。
 すると、俺の体は全身が毛に覆われた姿となってしまっていたのだ。
 おいおい、何が起きたっていうんだよ。
 俺が混乱していると、ピエラの声を聞きつけた連中が部屋へと駆け込んできた。

「なっ、魔族だと?!」

「なぜ獣人がここに居るんだ。セイ殿はどこに行ったのだ」

 毛むくじゃらな俺を見た兵士たちが叫んでいる。

(獣人? 魔族? 一体何の事なんだよ)

 反論したいのは山々だが、今の俺はちゃんとした言葉が喋れない。
 訳も分からないうちに俺は拘束され、そのまま地下牢へと放り込まれてしまったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...