異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
7 / 431
第一章 大陸編

第7話 転生者、魔王になる

しおりを挟む
 キリエに連れられて俺が広間に向かうと、そこには今までどこに居たんだというくらいにたくさんの魔族たちが集まっていた。よくよく見れば、見た事のある魔族もちょろちょろと見かける。

(魔王城に侵入した時に対峙してた連中も居るじゃねえか。でも、キリエみたいな反応もあるし、あの時の侵入者だとばらさなきゃ大丈夫かな?)

 たくさん居る魔族を前に、つい俺はびびっちまっていた。
 しかしだ、連中は新たな魔王の登場を待ちわびている。今の俺はあの時と全然姿が違うから言っても分からないだろうし、堂々としてれば大丈夫だよな。
 それにしても、手を取ってもらっているとはいえ、今着ている服というのはとても歩きにくい。特に靴。なんで女性というのはこんな歩きにくい靴を履くんだよ。
 そう、今の俺は10cmはあろうかというハイヒールを履かされている。ピエラの履いていたものよりも高いんだよな、これ。
 男だとここまで踵の不安定な靴はそう履かないからぐらつきはするのだが、そこは獣人の体幹なのか意外と転ぶ事はなかった。

「さあ、魔王様。こちらへどうぞ」

 キリエがにこやかに俺を誘導する。
 ここまで来ていざ尻込みするなんて、なんか前世から変わってないんだな。

「魔王様?」

 キリエが心配そうに顔を覗き込んでくる。
 その様子を察した俺は、キリエの顔を見た後に頭を左右に激しく振った。
 俺はここの統治を言い渡されてきたんだ。だったら、領主だろうが魔王だろうが変わらない。
 改めて覚悟を決めた俺は、広間へと強く踏み出した。
 意識しているわけではないが、さすがに魔族たちの前に出るとなるとかなり緊張する。それを悟らせないためにも、俺は耳をピンと立てて姿勢を真っすぐにして歩み出ていく。
 目の前には俺が倒した魔王が座っていた玉座がある。
 俺はその前に立つと、広間に集まっている魔族たちを目の前にする。
 こいつらはちょっと前に俺やマールン、ピエラと戦っていた連中ばかりだ。改めて見てみると、魔族たちの姿ってのは恐ろしいものだ。いくら魔王を打ち倒すために必死だったとはいえ、こんな奴らを目の前にして戦えたものだよ、本当に。
 ともかく俺は、感情を悟られないようにぐっと力を込めながら、しっかりとした視線を魔族たちへと向けた。

「おおお、お美しい……」

「あの方が新しい魔王様」

「まさか、獣人の中から新たな魔王様が生まれるなんて、思ってもみなかったぜ」

 俺の姿を見た魔族たちは、それぞれに反応を見せている。キリエの言った通り、新たな魔王の誕生に喜んでいるような反応ばかりが目立つ。
 キリエの言葉が嘘じゃないというのがよく分かる。そのくらいに、魔族にとって魔王というのは重要な存在という事なのだろう。
 なんか、これだけ期待されているのを見ると、ここまで怖気づきそうだったのが嘘みたいに気持ちが軽くなった。
 そこで、俺は気合いを入れ直すために自分の頬を両手で叩いた。
 思ってもみなかった俺の行動で、広間の中がしんと静まり返る。
 よし、みんな黙り込んだし、視線が集まった。ここはいっちょ魔王の最初の行動としてきちんと締めてやりますか。
 俺は胸を張って魔族たちに向き合う。真下の膨らみにはまだ違和感はあるものの、今はそんな事を気にしていられない。

「よく集まってくれた、皆の者」

 俺は第一声を放つ。
 これだけの大勢の前で発言するとか、小学校の卒業式の答辞以来かな。緊張に震えているが、期待には応えなきゃな。

「おお、これが魔王様の声……。なんという美しい声なんだ……」

「おい黙れ。魔王様のお言葉が聞こえなくなるじゃないか」

 一部の魔族が騒いでいる。
 うん、どこ行ってもあるんだな、こういう光景って。

「俺……、っと私はセイという。先代の魔王が倒れた跡を引き継ぐ事になるとは思っていなかった。それゆえに未熟ではあるが、この魔王領の未来のためにみんなの力を貸してほしい。よろしく頼む」

 混乱していたせいであんまり言葉がまとまっていなかった気がするが、侯爵家の嫡男として育てられてきたせいか、なんとか形にはなっていたと思う。
 ところが、魔族たちの反応は意外だった。
 驚いて沈黙してしまっているのである。
 なぜかと思って、俺は自分の姿勢を確認する。すると、思わぬ事が判明した。

(ぬわあああっ! 頭を思いっきり下げているじゃないか。くそっ、社畜時代の癖が、こんなところで!)

 そう、折り目正しく90度のお辞儀をしていたのである。
 魔王といえば魔族の頂点に立つ存在だ。そんな人物が頭を下げるとか、普通はありえない話だ。実際、国王や侯爵も、自分より下の身分を相手に頭を下げているところなど見た事がない。
 やっちまったと思った俺だったが、じわじわと広間から拍手が沸き起こってきた。

「そうだよなぁ。魔王様という立場のせいで忘れちまってたが、獣人は魔族の中でも下っ端だものな。頭も下げちまうもんだぜ」

「ええ、初々しくてつい感動してしまいました」

「新しい魔王様。もちろん、力を貸しますぜ」

「魔王様、万歳!」

 広間を拍手と歓声が包み込んでいく。その光景に、俺は思わず笑ってしまうほどだった。
 こうして俺は、無事に魔族たちのトップである魔王として迎え入れられたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...