異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
10 / 431
第一章 大陸編

第10話 転生者、幼馴染みに心配される

しおりを挟む
 セイが魔王領の中心地である魔王城に到着して歓迎を受けている頃、王都では……。

「ああ、セイの事が心配です!」

 テーブルを強く叩いて立ち上がるピエラ。置かれたカップがガチャンと音を立てている。
 魔王領まで遠く、これでも20日以上が経過している。それだけにピエラは心配でたまらないようだった。

「ピエラ、セイは死んだのではなかったのですか?」

 お茶会に参加しているピエラの友人、ミリエルはものすごく落ち着いた様子でツッコミを入れている。
 ミリエルがこう話すのも無理はない。対外的にセイは魔王と刺し違えになって死んだという風に公表されているのだから。
 真実を知るピエラではあるが、セイが実は生きているという事はかん口令が敷かれており、いくら友人相手とはいえ話す事はできない。
 それゆえ、ミリエルの言葉に反論したくても口ごもることしかできなかった。

「ピエラ……、一体どうしたのですか?」

 様子がおかしいピエラを気遣うミリエル。

「なんでもありません」

 頬を膨らませて不機嫌そうに答えるピエラ。その様子を見たミリエルは首を傾げてピエラを見ていた。

 やがてお茶会が終わり、ミリエルは帰っていく。
 その後、ピエラは使用人を自分のところに呼びつけていた。

「どうなさいましたのでしょうか、お嬢様」

「今から魔王城へと向かいます。さすがにセイももうたどり着いているでしょうから、様子を見に行きましょう」

「えっ、ええ?!」

 ピエラの急な思いつきに、使用人が困惑した声を上げる。
 そりゃまあ、魔王城なんて恐ろしい場所に向かいたくもないのだから、仕方のない当然の反応だろう。
 しかし、ピエラの決意は固かった。
 こうなるともう誰にも止められないし、魔王を打ち倒した英雄の一人の発言ゆえに逆らえないのだ。
 使用人たちは渋々ではあるものの、ピエラの要望に応えるための準備を粛々と始めたのだった。

「セイ、待っていなさいよ。私があなたを手伝いますからね」

 自室で服を着替えながら、ピエラは叫ぶ。

「お嬢様。じっとしていないと着替えられませんよ」

 服の着替えをしてくれている使用人から叱られて、ピエラは思わず苦笑いを浮かべて縮こまってしまうのだった。

「それにしても、この服装に再び袖を通されるなんて……。お嬢様は本気なのでございますのね」

「ええ、もちろんですよ。これから向かう場所は危険な場所ですから、気合いを入れるためにもこの服装でないといけないのです」

 そう使用人に答えるピエラ。着ている服装は、セイやマールンと一緒に魔王討伐に向かった時の魔法使い風のドレスである。
 着替え終わったピエラのところへ、一人の使用人が少し大きめの木箱を持って近付いてくる。
 その木箱の蓋を開けると、そこには宝石のついた杖が納められていた。

「これを再び手にしなければいけないなんて……。でも、セイに会うためですから、仕方ありませんよね」

 箱から取り出して杖を握りしめたピエラは、思い詰めたような表情を浮かべる。その表情を見た使用人たちは、それはとても心配になったようである。だが、使用人の誰も、ピエラを止めようとはしなかった。止めても無駄だと悟っているのだ。
 そして、一度深呼吸をしたピエラ。すぐさま使用人たちに向けて命令を出す。

「最低限を用意してすぐに出ます。すぐに支度を」

「馬車はいかがなさいますか?」

「馬で参りましょう。少しでも早く行きたいですから」

「畏まりました」

 ピエラの命令に従い、使用人たちが忙しく動き始める。ピエラ自身も準備に取り掛かる。
 なぜピエラがこれだけ大急ぎで出ていく準備をするのか。それには理由があった。

(魔王を打ち倒した英雄としてもてはやされるのも、もう疲れました。マールンには悪いですけれど、私は魔王領に逃げます)

 そう、連日のように浮かれて騒ぐ王国民たちへの対応に疲れたのである。
 隣国に逃げるとかの手もあるだろうが、そこが人間の国であるのなら対応はさして変わらないだろう。
 そこで目を付けたのが、セイの追放先である魔王領だったのだ。そこであれば人間たちも簡単にはやって来ないだろうと考えたのだ。
 元々幼馴染みとして気になっていた相手であるセイである。彼に会えるのであるのならば多少の危険など知った事ではないのだ。
 それに、魔族の頂点たる魔王を倒したのだから、魔族の方がまだ可愛げがあるというわけなのだ。

「準備が整いました。ただ食材などが足りませんので、道中で補給する必要がございます」

「分かりました。それで問題ありません、すぐに出ましょう」

 ピエラはすぐさま馬小屋の方まで歩いていく。
 今着ている服装はスカートではあるものの、騎乗に関してはまったく問題がなかった。
 元々、戦闘において激しい動きをする事が想定されていたので、そのための対策が施されているのである。
 ピエラが馬に跨ったかと思うと、すぐさま走り出してしまう。そして、その後ろには数名の使用人がついて来ていた。さすがはピエラの使用人、鍛えられているようである。

(さあ待っていなさい、セイ。私がすぐに参りますからね)

 ピエラは馬を駆って、一路魔王城を目指したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...