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第一章 大陸編
第11話 転生者、メイドの姉妹に会う
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「おはようございます、魔王様」
俺の耳に聞き慣れない声が入ってくる。
「ん……まぶしい」
「ええ、もう朝でございますよ。獣人は朝が早いと聞きますので、失礼ながらもカーテンを開けさせて頂きました」
「はっ!」
俺はがばっと起き上がる。
辺りを見回すと、身に覚えのない部屋だった。
「……ここは、どこだ?」
俺が漏らした言葉に、メイドがくすりと笑っている。
「寝ぼけていらっしゃいますか、魔王様。ここは魔王様の自室の中でございますよ」
「魔王……」
メイドの発した単語に、俺が顔を押さえて記憶を探る。しばらくすると、ある事実に行き当たった。
「あ、そうか。俺は魔族たちに担ぎ上げられて魔王になったんだっけか……」
ぼーっとする頭ではあるものの、どうにか自分の身に起きた事を思い出せた。
そうだよ。魔王領に入ってしばらくして魔族に遭遇して、そいつらにさらわれるようにして魔王城まで来たんだった。で、あれよあれよという間に魔王を継がされたんだったな、思い出したぜ。
「思い出されましたか、魔王様」
「ああ、しっかりと全部な。お手柔らかに頼むよ、キリエ」
俺が顔を押さえたまま視線を向けると、黒い巻き角が特徴的な魔族のメイドであるキリエはにこりと柔らかな笑みを浮かべていた。
ベッドから起き抜けた俺は、キリエの手によって服を着替えていく。
さすがにあれから1か月近く経っているので、さすがに全身毛むくじゃらの獣人の姿には慣れたものだ。しかし、キリエの手によって着せられていく服装というものには、まだ慣れないものだ。女の体になったとはいえ、女物の服にすぐに馴染むというかというと、そう簡単にはいかないのである。それはそれ、これはこれだ。
「うーん、さすがに魔王様のために新しい服を仕立てないといけませんね。前の魔王様がご用意されていた服では、魔王様の魅力が活かしきれません」
キリエが頭を捻っていた。あまりに真剣だし、女物の服はよく分からないので、俺は口がはさめなかった。
「ひとまずはこの服装で我慢下さいませ。今の魔王様には少々地味かと存じますが、今日は特に予定もございませんですから」
「あ、ああ。そうなんだな」
キリエの言葉にどう反応していいのか、俺は困惑していた。
「魔王様の体型は把握致しましたし、朝食は他の使用人にお任せをして、私は仕立て屋のところへ行って参ります。妹のカスミが午前中は担当致しますので、いいように使って下さいませ」
俺の世話をしながら淡々と話すキリエである。職務に忠実というべきなんだろうな、こういうのって。
「分かった。頼りにさせてもらうよ」
「そう仰って頂けるとは光栄でございます」
キリエの態度は、根っからの使用人といった感じだった。主に仕えて奉仕するのが幸せといった感じなのがよく分かる。
「それでは、私は仕立て屋と話をして参ります。しばらくお待ち頂ければカスミがやって参りますので、そのままお待ち下さい」
キリエは深く頭を下げて部屋を出ていった。
妹であるというカスミが来るまでしばらく時間がある。なので、俺は今着せられている自分の服を確認することにする。
確かに、昨日のお披露目の時の服に比べれば地味な印象は受ける。胸元もしっかり隠れているし、靴は踵の低いブーツだ。かなり対照的な服装だった。
(獣の足で靴って要るのかと思ったけど、今まで人間だったから問題ないか……)
なんでもないような事を気に掛けてしまう俺だった。
しばらくすると、部屋の扉が叩かれる。
「誰だ?」
「カスミでございます。キリエ姉から紹介されていたと存じますが」
「ああ、俺のもう一人の使用人か。入ってきていいぞ」
さっきのキリエの言葉を思い出した俺は、入室の許可を出す」
「失礼致します」
その言葉が聞こえると、部屋の扉が開いてメイドが入ってきた。
髪色が違うだけで、キリエによく似た女性が入ってきた。
「キリエ姉の妹のカスミと申します。最初の仕事として朝食をお持ち致しました」
ぺこりと頭を下げるカスミ。それは快く迎え入れる。
食事は食堂で取るものかと思ったが、まさか自室まで持ってくるとは思わなかった。魔王はそのくらいに忙しい仕事なのかもしれないな。
俺がおいしそうにもぐもぐと食事を取っていると、カスミはキリエとは違った視線を俺に向けてくる。
キリエは尊敬というか敬愛に満ちていたのに対し、カスミの視線は警戒に近しい感じだった。
「……ませんから」
「うん?」
カスミがぼそりと呟く。よく聞き取れないので、俺はカスミに視線を向ける。すると、カスミは俺をキッと睨んできた。
「認めませんからね、あなたが魔王だなんて。仕事だから従いますけれど、ぜーったいに認めてあげないんですから」
あまりに突然の言葉だっただけに、俺は思わず面食らってしまう。そのせいか、尻尾は驚きでピーンと逆立っていた。
肩で息をするカスミを眺めていると、俺は少しずつ落ち着いてくる。
「そっか。まぁ突然の事だからよく分かるよ。俺も魔王とか言われてもまだピンとこないからな」
そういって、手に持ったままになっているパンを口へと放り込む。そして、ごくりと飲み込んで言葉を続ける。
「でも、この魔王領の統治を任された以上は、ここを良くしていきたいと思ってる。だからさ、カスミも力を貸してほしい。頼む」
俺がいきなり頭を下げたせいで、カスミはかなり戸惑っているようだった。
そして、腕を組んで顔を背けた状態で俺にこう言った。
「しょ、しょうがないわね。そんなに言うんだったら、手伝ってあげない事もないわ」
「ああ、頼むよ」
カスミのツンデレな態度に、思わず笑ってしまう俺だった。
俺の耳に聞き慣れない声が入ってくる。
「ん……まぶしい」
「ええ、もう朝でございますよ。獣人は朝が早いと聞きますので、失礼ながらもカーテンを開けさせて頂きました」
「はっ!」
俺はがばっと起き上がる。
辺りを見回すと、身に覚えのない部屋だった。
「……ここは、どこだ?」
俺が漏らした言葉に、メイドがくすりと笑っている。
「寝ぼけていらっしゃいますか、魔王様。ここは魔王様の自室の中でございますよ」
「魔王……」
メイドの発した単語に、俺が顔を押さえて記憶を探る。しばらくすると、ある事実に行き当たった。
「あ、そうか。俺は魔族たちに担ぎ上げられて魔王になったんだっけか……」
ぼーっとする頭ではあるものの、どうにか自分の身に起きた事を思い出せた。
そうだよ。魔王領に入ってしばらくして魔族に遭遇して、そいつらにさらわれるようにして魔王城まで来たんだった。で、あれよあれよという間に魔王を継がされたんだったな、思い出したぜ。
「思い出されましたか、魔王様」
「ああ、しっかりと全部な。お手柔らかに頼むよ、キリエ」
俺が顔を押さえたまま視線を向けると、黒い巻き角が特徴的な魔族のメイドであるキリエはにこりと柔らかな笑みを浮かべていた。
ベッドから起き抜けた俺は、キリエの手によって服を着替えていく。
さすがにあれから1か月近く経っているので、さすがに全身毛むくじゃらの獣人の姿には慣れたものだ。しかし、キリエの手によって着せられていく服装というものには、まだ慣れないものだ。女の体になったとはいえ、女物の服にすぐに馴染むというかというと、そう簡単にはいかないのである。それはそれ、これはこれだ。
「うーん、さすがに魔王様のために新しい服を仕立てないといけませんね。前の魔王様がご用意されていた服では、魔王様の魅力が活かしきれません」
キリエが頭を捻っていた。あまりに真剣だし、女物の服はよく分からないので、俺は口がはさめなかった。
「ひとまずはこの服装で我慢下さいませ。今の魔王様には少々地味かと存じますが、今日は特に予定もございませんですから」
「あ、ああ。そうなんだな」
キリエの言葉にどう反応していいのか、俺は困惑していた。
「魔王様の体型は把握致しましたし、朝食は他の使用人にお任せをして、私は仕立て屋のところへ行って参ります。妹のカスミが午前中は担当致しますので、いいように使って下さいませ」
俺の世話をしながら淡々と話すキリエである。職務に忠実というべきなんだろうな、こういうのって。
「分かった。頼りにさせてもらうよ」
「そう仰って頂けるとは光栄でございます」
キリエの態度は、根っからの使用人といった感じだった。主に仕えて奉仕するのが幸せといった感じなのがよく分かる。
「それでは、私は仕立て屋と話をして参ります。しばらくお待ち頂ければカスミがやって参りますので、そのままお待ち下さい」
キリエは深く頭を下げて部屋を出ていった。
妹であるというカスミが来るまでしばらく時間がある。なので、俺は今着せられている自分の服を確認することにする。
確かに、昨日のお披露目の時の服に比べれば地味な印象は受ける。胸元もしっかり隠れているし、靴は踵の低いブーツだ。かなり対照的な服装だった。
(獣の足で靴って要るのかと思ったけど、今まで人間だったから問題ないか……)
なんでもないような事を気に掛けてしまう俺だった。
しばらくすると、部屋の扉が叩かれる。
「誰だ?」
「カスミでございます。キリエ姉から紹介されていたと存じますが」
「ああ、俺のもう一人の使用人か。入ってきていいぞ」
さっきのキリエの言葉を思い出した俺は、入室の許可を出す」
「失礼致します」
その言葉が聞こえると、部屋の扉が開いてメイドが入ってきた。
髪色が違うだけで、キリエによく似た女性が入ってきた。
「キリエ姉の妹のカスミと申します。最初の仕事として朝食をお持ち致しました」
ぺこりと頭を下げるカスミ。それは快く迎え入れる。
食事は食堂で取るものかと思ったが、まさか自室まで持ってくるとは思わなかった。魔王はそのくらいに忙しい仕事なのかもしれないな。
俺がおいしそうにもぐもぐと食事を取っていると、カスミはキリエとは違った視線を俺に向けてくる。
キリエは尊敬というか敬愛に満ちていたのに対し、カスミの視線は警戒に近しい感じだった。
「……ませんから」
「うん?」
カスミがぼそりと呟く。よく聞き取れないので、俺はカスミに視線を向ける。すると、カスミは俺をキッと睨んできた。
「認めませんからね、あなたが魔王だなんて。仕事だから従いますけれど、ぜーったいに認めてあげないんですから」
あまりに突然の言葉だっただけに、俺は思わず面食らってしまう。そのせいか、尻尾は驚きでピーンと逆立っていた。
肩で息をするカスミを眺めていると、俺は少しずつ落ち着いてくる。
「そっか。まぁ突然の事だからよく分かるよ。俺も魔王とか言われてもまだピンとこないからな」
そういって、手に持ったままになっているパンを口へと放り込む。そして、ごくりと飲み込んで言葉を続ける。
「でも、この魔王領の統治を任された以上は、ここを良くしていきたいと思ってる。だからさ、カスミも力を貸してほしい。頼む」
俺がいきなり頭を下げたせいで、カスミはかなり戸惑っているようだった。
そして、腕を組んで顔を背けた状態で俺にこう言った。
「しょ、しょうがないわね。そんなに言うんだったら、手伝ってあげない事もないわ」
「ああ、頼むよ」
カスミのツンデレな態度に、思わず笑ってしまう俺だった。
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