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第一章 大陸編
第28話 転生者、ある事に気が付く
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「はあ、気に入ったわ、ここ」
「そ、そうか」
話し合いが終わった直後、つやっつやな笑顔を見せるピエラの姿に、俺は本気で引いていた。なにせその横には、もふられ尽くした獣人たちがげっそりとした様子で転がっていたのだから。
「ねえ、セイ」
後ろ手に組みながら、上目遣いに俺を見てくるピエラ。なんとも嫌な予感がするのはなんでだろうか。
「な、なんだよ、ピエラ」
おそるおそる尋ねてみる。
「うん、私ここに住むわ。私だって魔王を討伐した一人だし、魔王領の統治に関わってもいいわよね?」
なんかとんでもない事を言い出したピエラだ。
俺は思わずバフォメットやライネスたちの方へと視線を向ける。
「わたくしめとしましては、一向に構いませんよ」
「俺としても、別に構いませんよ。一人ではどうしても目が届きませんからな」
なんともまぁ、二人揃って拒否することがなかった。こいつは予想外だぜ。
だが、それよりも飛び跳ねて喜ぶピエラの姿の方が衝撃的だった。そんなにもふもふがいいのかよ、こいつ……。
今まで見たこともなかったピエラの姿に、俺はただただ唖然として見ているばかりだった。
その日の夜は、ライネスの屋敷で晩餐会が開かれ、遅くまで騒いだのだった。
無事に夜が明けると、俺たちは次の目的地へと向けて出発することになる。
すると、ピエラはとても名残惜しそうに集落に目を向けていた。どんだけなんだよ。
「はははっ、魔王様のご友人は、相当にここを気に入られたようですな。魔王様の毛並みだけでは足りぬと申すのであれば、ほれ来なさい」
ライネスは指笛を鳴らす。すると、一人のメイド服に身を包んだ獣人がやって来た。
「あら、ラビリアではないですか」
「キリエ、知っているのか?」
出てきた獣人に対して、キリエが反応をしている。ついつい俺は尋ねてしまう。
「はい、この子も魔王城で働いていた同僚ですよ。ただ、前魔王様が亡くなられた際に、こちらに戻ってしまったのです」
「そうなのか……」
「その通りでございます。お久しぶりでございますキリエ先輩、カスミ先輩」
ぺこりと頭を下げるラビリア。
名前が示す通り、長い耳が特徴的なウサギ型の獣人のようである。ただ、骨格に関して俺たちと同じように人間と同様のようだ。
ピエラの反応はどうなのかと、俺はちらりと横に目をやる。
すると、両頬に手を当てながら、目を輝かせるピエラの姿があった。お前、獣人なら何でもいいのかよ。
ぶっちゃけ、俺は頭が痛くなった。
「その子を専属のメイドとしてつけさせて頂きます。構いませんでしょうか」
「はい、問題ありません」
ライネスが確認しようとすると、ピエラは驚くほど即答だった。
「うふふ、いい感じのもふもふだわ……。うふふ」
ああ、ピエラが怖い。先が思いやられそうなくらい頭が痛くなってきた。
「よ、よろしくお願いします」
ラビリアはそんな怪しい状態のピエラに臆することなく挨拶をしていた。さすが獣人、肝っ玉が据わってるぜ……。
そんなわけで、獣人の集落での話が終わって、俺たちは魔王領をめぐる視察を再開したのだった。
「ああ、両手にもふもふで幸せ……」
もはや隠す事なく堂々と言い放つピエラである。おかげで馬車の中の雰囲気はなんとも妙な空気に包まれていた。
「好きなのは構いませんけれど、統治を行うとなれば公平に行って頂かないと困りますからな」
「それは分かっています。これでも伯爵令嬢ですから、その辺りは弁えているつもりです」
バフォメットが苦言を呈すれば、ピエラはしっかりと答えていた。
「この視察の旅が終われば、私は一度王国に戻らねばなりません。勝手に出てきたのですから、お父様たちにたくさん怒られそうですけれどもね」
「それはそうだろうな。ハミングウェイ伯爵はずいぶんとお前の事を大事にしていたようだしな」
「ええ、それはそうですわよ。私、一人娘ですからね」
「お前のところもか……。王国の中もだいぶ頭の痛い事情を抱えることになりそうだな」
ピエラの話を聞いて、俺は苦笑いをしてしまう。
コングラート侯爵家とハミングウェイ伯爵家という、王国内でもそれなりに力のあるふたつの家が、揃って唯一の子どもを失うという事態なのだからな。
「このまま放っておくと、王国内の混乱は避けられそうにないな……」
「ですが、我々の予定を今さら変えるわけには参りませんし、先の戦いもありますので、魔族を送り込むわけにも参りません。今は堪えるしかございませんね」
「まぁそうだな。残っているマールンに賭けるしかないか。とはいえ、あいつは子爵家だから、どこまで影響力があるか……。ああ、もやもやする」
今さらながらに王都の事は心配になって、俺は頭をわしゃわしゃと掻きむしってしまう。さすがにこれはキリエにすぐ咎められてしまったがな。
俺の様子を見たバフォメットは、決断を下す。
「これは仕方ありませんね。一度視察を切り上げまして、お二人の心配事を解消してくるとよろしいでしょう」
「いいのか?」
「集中できない方が問題でございますのでね。わたくしめとしては、万全の態勢で視察に臨んで頂きたいのです」
バフォメットの言い分は納得のいく話だった。
なので、俺は決断を下すことにした。
「一度王都に戻ろう。少なくともピエラの事は話をつけておかなきゃいけないからな」
俺の命令によって、視察は中断。ひとまずは魔王城に戻ることにしたのだった。
「そ、そうか」
話し合いが終わった直後、つやっつやな笑顔を見せるピエラの姿に、俺は本気で引いていた。なにせその横には、もふられ尽くした獣人たちがげっそりとした様子で転がっていたのだから。
「ねえ、セイ」
後ろ手に組みながら、上目遣いに俺を見てくるピエラ。なんとも嫌な予感がするのはなんでだろうか。
「な、なんだよ、ピエラ」
おそるおそる尋ねてみる。
「うん、私ここに住むわ。私だって魔王を討伐した一人だし、魔王領の統治に関わってもいいわよね?」
なんかとんでもない事を言い出したピエラだ。
俺は思わずバフォメットやライネスたちの方へと視線を向ける。
「わたくしめとしましては、一向に構いませんよ」
「俺としても、別に構いませんよ。一人ではどうしても目が届きませんからな」
なんともまぁ、二人揃って拒否することがなかった。こいつは予想外だぜ。
だが、それよりも飛び跳ねて喜ぶピエラの姿の方が衝撃的だった。そんなにもふもふがいいのかよ、こいつ……。
今まで見たこともなかったピエラの姿に、俺はただただ唖然として見ているばかりだった。
その日の夜は、ライネスの屋敷で晩餐会が開かれ、遅くまで騒いだのだった。
無事に夜が明けると、俺たちは次の目的地へと向けて出発することになる。
すると、ピエラはとても名残惜しそうに集落に目を向けていた。どんだけなんだよ。
「はははっ、魔王様のご友人は、相当にここを気に入られたようですな。魔王様の毛並みだけでは足りぬと申すのであれば、ほれ来なさい」
ライネスは指笛を鳴らす。すると、一人のメイド服に身を包んだ獣人がやって来た。
「あら、ラビリアではないですか」
「キリエ、知っているのか?」
出てきた獣人に対して、キリエが反応をしている。ついつい俺は尋ねてしまう。
「はい、この子も魔王城で働いていた同僚ですよ。ただ、前魔王様が亡くなられた際に、こちらに戻ってしまったのです」
「そうなのか……」
「その通りでございます。お久しぶりでございますキリエ先輩、カスミ先輩」
ぺこりと頭を下げるラビリア。
名前が示す通り、長い耳が特徴的なウサギ型の獣人のようである。ただ、骨格に関して俺たちと同じように人間と同様のようだ。
ピエラの反応はどうなのかと、俺はちらりと横に目をやる。
すると、両頬に手を当てながら、目を輝かせるピエラの姿があった。お前、獣人なら何でもいいのかよ。
ぶっちゃけ、俺は頭が痛くなった。
「その子を専属のメイドとしてつけさせて頂きます。構いませんでしょうか」
「はい、問題ありません」
ライネスが確認しようとすると、ピエラは驚くほど即答だった。
「うふふ、いい感じのもふもふだわ……。うふふ」
ああ、ピエラが怖い。先が思いやられそうなくらい頭が痛くなってきた。
「よ、よろしくお願いします」
ラビリアはそんな怪しい状態のピエラに臆することなく挨拶をしていた。さすが獣人、肝っ玉が据わってるぜ……。
そんなわけで、獣人の集落での話が終わって、俺たちは魔王領をめぐる視察を再開したのだった。
「ああ、両手にもふもふで幸せ……」
もはや隠す事なく堂々と言い放つピエラである。おかげで馬車の中の雰囲気はなんとも妙な空気に包まれていた。
「好きなのは構いませんけれど、統治を行うとなれば公平に行って頂かないと困りますからな」
「それは分かっています。これでも伯爵令嬢ですから、その辺りは弁えているつもりです」
バフォメットが苦言を呈すれば、ピエラはしっかりと答えていた。
「この視察の旅が終われば、私は一度王国に戻らねばなりません。勝手に出てきたのですから、お父様たちにたくさん怒られそうですけれどもね」
「それはそうだろうな。ハミングウェイ伯爵はずいぶんとお前の事を大事にしていたようだしな」
「ええ、それはそうですわよ。私、一人娘ですからね」
「お前のところもか……。王国の中もだいぶ頭の痛い事情を抱えることになりそうだな」
ピエラの話を聞いて、俺は苦笑いをしてしまう。
コングラート侯爵家とハミングウェイ伯爵家という、王国内でもそれなりに力のあるふたつの家が、揃って唯一の子どもを失うという事態なのだからな。
「このまま放っておくと、王国内の混乱は避けられそうにないな……」
「ですが、我々の予定を今さら変えるわけには参りませんし、先の戦いもありますので、魔族を送り込むわけにも参りません。今は堪えるしかございませんね」
「まぁそうだな。残っているマールンに賭けるしかないか。とはいえ、あいつは子爵家だから、どこまで影響力があるか……。ああ、もやもやする」
今さらながらに王都の事は心配になって、俺は頭をわしゃわしゃと掻きむしってしまう。さすがにこれはキリエにすぐ咎められてしまったがな。
俺の様子を見たバフォメットは、決断を下す。
「これは仕方ありませんね。一度視察を切り上げまして、お二人の心配事を解消してくるとよろしいでしょう」
「いいのか?」
「集中できない方が問題でございますのでね。わたくしめとしては、万全の態勢で視察に臨んで頂きたいのです」
バフォメットの言い分は納得のいく話だった。
なので、俺は決断を下すことにした。
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