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第一章 大陸編
第71話 転生者、新たな薬師の迎え入れ準備をする
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俺が乗り込んで新人のふりをした事で、薬師どもの悪だくみは全部露呈した。
あとはキリエに任せていればいいのだろうが、そうなると城の薬師はすっかりいなくなってしまう。その穴埋めのために、俺はピエラに頼むことにした。
「えっ、魔王城の薬師を?!」
「ああ、頼めないだろうかな。事情あってみんないなくなっちまったから、どうしたものかと思うんだよ」
獣人の村から呼び戻したピエラに事情を話したところ、全力で驚かれた。そもそも魔王軍に薬師が居たことからして驚きだったからな。
とはいえ、魔王城にある薬草や毒草類をそのまま腐らせるのもなんだし、ハミングウェイの名を使って人間を呼べないかとも打診しておいた。
ピエラはとても悩んではいたものの、珍しい薬草、特に『緑精の広葉』を餌にすれば呼び寄せるかもとは言っていた。俺は薬に詳しいわけではないので、こっちはピエラに丸投げする形になった。逃げたわけじゃない、適材適所だよ。
けれど、ピエラは頼りにされたのが嬉しいのか、思いの外笑顔を見せていた。
「分かったわ。すぐにでも王都に戻って人員を募集してみるわ」
「あ、ああ。よろしく頼むよ」
ピエラがものすごく乗り気なので、ついその勢いに押されてしまった。
そして、魔界の馬にまたがると、あっという間に王都に向けて走り出してしまった。
まったく、あいつはいつの間に魔界の馬を乗りこなせるようになったんだかな……。ピエラの無茶苦茶っぷりに呆れた表情を浮かべつつ、俺は王都へと向かうその姿を見送った。
今日の執務をこなすために部屋に戻った俺の目に、すっきりした表情のキリエが立っていた。
どうやら厄介払いができて非常に満足できたらしい。まったく、どんな事をしたのか怖くて聞けないな。
俺はあえて何も聞かずに今日の執務に取り掛かった。
「んー、今日の執務も無事に終わったぜ」
ようやく事務処理から解放されるとあって、俺は限界まで大きく伸びをする。
「お疲れ様です、魔王様」
俺を労ってくるキリエだが、メイドの仕事と参謀の仕事を同時並行していたのだから、キリエの方がよっぽどお疲れ様という状況だった。
「ああ、キリエもお疲れ様だよ。よく俺の手伝いをしながらメイドとしても動けるな。尊敬するぜ」
「そ、そんな事はございませんよ」
俺が褒めると、どういうわけか照れるキリエである。珍しい姿だな。
「あ、そうです、魔王様」
「うん、なんだ?」
急に思い出したかのように話し掛けてくるキリエ。俺はつい反射的に聞いてしまった。
「あの汚ぶ……、こほん、変態たちですけれども、きっちり処罰しておきましたのでご安心下さい」
「お、おう。それはよかった……」
何がどうなったのか、怖くて聞けなかった。すっきりとした笑顔を浮かべるキリエが怖すぎるのだ。なにせ、汚物といいかけたんだからな。
「ですが、困りましたね」
笑顔だったと思うと、突然困った表情を浮かべる。あまりにころころと表情の変わるキリエが珍しくて、俺はつい問い掛けてしまう。
「いえですね。あの汚ぶ……変態たちが使っていた部屋ということでして、誰も使いたがらないと思うのですよ。ですので、新しく薬師たちの部屋を用意しなければならないのです」
ああ、そういうことか。精神的に追いやられた女性もいるだろうし、そんないかがわしい部屋でおとなしく作業はできないってわけだな。
それに、あの部屋にはまだみょうちくりんな薬品のにおいが漂っている。
「じゃあ、あの部屋から薬草類を運び出して封鎖だな。嫌な思い出は埋めるに限る」
「そうでございますね」
というわけで、俺とキリエの二人だけで、薬草や毒草を運び出した上で薬師の部屋を完全封鎖することが決まった。
ただ問題は、新しい薬師たちの部屋をどこに置くかだった。
「薬草となるのでしたら、やっぱりウネの庭園の近くがいいでしょうかね」
「いいのか?」
「この際構いません。あれでいていろんな種類の植物が育てられる魔族ですから、薬師との相性はばっちりといえるでしょう」
キリエからの思わぬ提案に驚く。
「『緑精の広葉』をあまり広めたくなかったんじゃないのか?」
「この際は目をつぶります。それに、薬師は基本的にレシピを公開しませんから、簡単に外に漏れることはないでしょう」
「なるほど、それなら安心できるってわけか」
どうやら俺には知らないことばかりのようだった。
結局、そのキリエの提案に乗って、庭園の近くに薬師のための部屋を用意することになった。
ピエラが人間の薬師を連れてくるだろうから、後の問題は人間と魔族の薬師が仲良くできるかどうかということくらいだろう。
人間たちと魔族たちとの和解という点では、これからが本番だろう。
「よし、そうなれば明日にでもウネと相談するか。どの辺なら増築できるかとか、どんな植物なら用意できるのかとか、相談しなきゃいけないことがたくさんあるからな」
「左様でございますね。これはしばらく忙しくなりそうです」
俺が気合いを入れて立ち上がると、キリエもやる気十分な表情を見せていた。
こうして、魔王城のちょっとした改築が行われることになったのだった。
あとはキリエに任せていればいいのだろうが、そうなると城の薬師はすっかりいなくなってしまう。その穴埋めのために、俺はピエラに頼むことにした。
「えっ、魔王城の薬師を?!」
「ああ、頼めないだろうかな。事情あってみんないなくなっちまったから、どうしたものかと思うんだよ」
獣人の村から呼び戻したピエラに事情を話したところ、全力で驚かれた。そもそも魔王軍に薬師が居たことからして驚きだったからな。
とはいえ、魔王城にある薬草や毒草類をそのまま腐らせるのもなんだし、ハミングウェイの名を使って人間を呼べないかとも打診しておいた。
ピエラはとても悩んではいたものの、珍しい薬草、特に『緑精の広葉』を餌にすれば呼び寄せるかもとは言っていた。俺は薬に詳しいわけではないので、こっちはピエラに丸投げする形になった。逃げたわけじゃない、適材適所だよ。
けれど、ピエラは頼りにされたのが嬉しいのか、思いの外笑顔を見せていた。
「分かったわ。すぐにでも王都に戻って人員を募集してみるわ」
「あ、ああ。よろしく頼むよ」
ピエラがものすごく乗り気なので、ついその勢いに押されてしまった。
そして、魔界の馬にまたがると、あっという間に王都に向けて走り出してしまった。
まったく、あいつはいつの間に魔界の馬を乗りこなせるようになったんだかな……。ピエラの無茶苦茶っぷりに呆れた表情を浮かべつつ、俺は王都へと向かうその姿を見送った。
今日の執務をこなすために部屋に戻った俺の目に、すっきりした表情のキリエが立っていた。
どうやら厄介払いができて非常に満足できたらしい。まったく、どんな事をしたのか怖くて聞けないな。
俺はあえて何も聞かずに今日の執務に取り掛かった。
「んー、今日の執務も無事に終わったぜ」
ようやく事務処理から解放されるとあって、俺は限界まで大きく伸びをする。
「お疲れ様です、魔王様」
俺を労ってくるキリエだが、メイドの仕事と参謀の仕事を同時並行していたのだから、キリエの方がよっぽどお疲れ様という状況だった。
「ああ、キリエもお疲れ様だよ。よく俺の手伝いをしながらメイドとしても動けるな。尊敬するぜ」
「そ、そんな事はございませんよ」
俺が褒めると、どういうわけか照れるキリエである。珍しい姿だな。
「あ、そうです、魔王様」
「うん、なんだ?」
急に思い出したかのように話し掛けてくるキリエ。俺はつい反射的に聞いてしまった。
「あの汚ぶ……、こほん、変態たちですけれども、きっちり処罰しておきましたのでご安心下さい」
「お、おう。それはよかった……」
何がどうなったのか、怖くて聞けなかった。すっきりとした笑顔を浮かべるキリエが怖すぎるのだ。なにせ、汚物といいかけたんだからな。
「ですが、困りましたね」
笑顔だったと思うと、突然困った表情を浮かべる。あまりにころころと表情の変わるキリエが珍しくて、俺はつい問い掛けてしまう。
「いえですね。あの汚ぶ……変態たちが使っていた部屋ということでして、誰も使いたがらないと思うのですよ。ですので、新しく薬師たちの部屋を用意しなければならないのです」
ああ、そういうことか。精神的に追いやられた女性もいるだろうし、そんないかがわしい部屋でおとなしく作業はできないってわけだな。
それに、あの部屋にはまだみょうちくりんな薬品のにおいが漂っている。
「じゃあ、あの部屋から薬草類を運び出して封鎖だな。嫌な思い出は埋めるに限る」
「そうでございますね」
というわけで、俺とキリエの二人だけで、薬草や毒草を運び出した上で薬師の部屋を完全封鎖することが決まった。
ただ問題は、新しい薬師たちの部屋をどこに置くかだった。
「薬草となるのでしたら、やっぱりウネの庭園の近くがいいでしょうかね」
「いいのか?」
「この際構いません。あれでいていろんな種類の植物が育てられる魔族ですから、薬師との相性はばっちりといえるでしょう」
キリエからの思わぬ提案に驚く。
「『緑精の広葉』をあまり広めたくなかったんじゃないのか?」
「この際は目をつぶります。それに、薬師は基本的にレシピを公開しませんから、簡単に外に漏れることはないでしょう」
「なるほど、それなら安心できるってわけか」
どうやら俺には知らないことばかりのようだった。
結局、そのキリエの提案に乗って、庭園の近くに薬師のための部屋を用意することになった。
ピエラが人間の薬師を連れてくるだろうから、後の問題は人間と魔族の薬師が仲良くできるかどうかということくらいだろう。
人間たちと魔族たちとの和解という点では、これからが本番だろう。
「よし、そうなれば明日にでもウネと相談するか。どの辺なら増築できるかとか、どんな植物なら用意できるのかとか、相談しなきゃいけないことがたくさんあるからな」
「左様でございますね。これはしばらく忙しくなりそうです」
俺が気合いを入れて立ち上がると、キリエもやる気十分な表情を見せていた。
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