78 / 431
第一章 大陸編
第78話 転生者、街道の目的を話す
しおりを挟む
街道の仕上がり具合をチェックしながら、マールンたちを使って宿場町を整備する場所に目星をつけていく。
人間たちを連れて来たというのは、こういうところで役に立つんだよな。足をあっちに合わせるから、その移動距離がそのまま目安になるって寸法だ。
うまいこと考えたな、キリエは。
そんな事を思いながら視線を向けると、キリエはキリっとした表情を俺に向けてきた。自慢げにドヤ顔じゃないあたりは頼れる参謀だよ。
トータルで7日ほどをかけて、俺たちは魔王城に戻ってきた。思った以上に近くなっていた。
「整地をするだけでこんなに早くなるんだな。どんだけガタガタしたのかよく分かるぜ」
「左様でございますね。途中にあった沼地なども移動させましたしね」
「沼地を移動?!」
しれっとしたキリエの告白に、思わず叫びながらキリエを見てしまう。
「以前は真っすぐ進めませんでしたが、キリエ様の命令で無理やり道を直線的にしました。なので、途中にあった障害物は全部移動させたのです」
工事に参加していたオークがそんなことを証言している。マジかよ。
確かによく思えば、ほぼほぼまっすぐ進んできた気がする。
俺は後方で作業の様子を見てただけだし、食事の時間になれば料理を作っていた。そのせいもあって、どのように城から進んでいたのかまったく分かっていなかったのだ。
まったく、魔族の最高責任者である魔王としてこれではいけないな。このやり取りで俺は反省をせざるを得なかった。
城に到着してマールンたちを中に案内すると、ピエラがやって来た。
「お帰りなさい、セイ。上から姿が見えたから走ってきちゃったわ」
「お、おう……。ただいま」
ピエラの出迎えにちょっと驚いてしまう。
そのピエラは、俺の後ろにいた人物に目を移していた。
「あら、マールンじゃないの。どうしたのよ、こんなところまで来て」
俺と接していた時と声のトーンが明らかに違う。なんとも冷たい突き放すような言い方だった。
「おいおい、セイの時とは明らかに態度が違うじゃないか。本当に昔っからそうだな、お前は」
マールンもさすがに苦笑いである。
すると、ピエラは腕を組んでぷいっと頬を膨らませて視線を外していた。まるで子どもである。
さすがのマールンも呆れたようにため息をつくが、とりあえずはピエラの質問に答えておく。
「魔族が領境までの街道を整備したというから、その状態を確かめに来たんだ。いや、参ったな。驚くほどにまっ平らだったよ」
素直な感想とともに話すマールンである。
「まあ、キリエさんですからね。彼女の手にかかれば、どんな事でも完璧にこなしてくれますよ」
「恐縮でございます」
ピエラが褒めれば、しっかりと頭を下げるキリエである。
「でも、ちょうどよかったわ。帰りはハミングウェイの馬車を引き取ってくれるかしら」
「それは構わないが、今どこにあるんだ?」
「城壁内の馬小屋にあるけれど、とりあえず後で案内するわね」
「分かった」
ひとまず馬車の話を終えるピエラたち。
そして、城の入口近くにある応接間にマールンたちを案内する。そこで、この街道を整備した理由を話す事となった。
「……というわけなんだ。俺はすっかり失念してたんだけどな」
俺は自分の格好を忘れてついつい足を組んで話をしていた。マールンこそ俺の顔を見ていたのだが、付き添いの兵士たちはどうにも落ち着かない様子だった。
「悪いんだが、兵士たちはどうしてそうも落ち着きがないんだ?」
気になってしょうがないというものだ。
俺の声にマールンが呆れたように頭を抱えてため息をつく。
「お前なあ……。今の自分の姿をよく考えろよ」
だが、マールンの言っている意味が俺には通じなかった。それを見たピエラが横からツッコミを入れてくる。
「セイ、自分の性別と服装を思い出してちょうだい」
肩を叩きながらいうものだから、俺は自分の姿を改めてみる。
ようやく俺は気が付いた。そうかそういうことかと。足を組む癖が分かっていたら服装は気を付けたのにな。何たる失態なのだろうか。
俺が視線を向けると、キリエは自分の服のエプロンを外して俺の膝に掛けてくれた。言葉がなくても通じるというのはいいことだ。あとでクローゼに新しい服を注文しておくか。
とりあえず、これで落ち着いて話ができるだろう。
そんなわけで、街道を整備した理由のほか、今後の展望などいろいろな事をマールンと兵士たちに話しておいた。
「まあそういうわけだ。俺としては今後とも王国とは仲良くしてはおきたい。他国との兼ね合いで難しいところもあるだろうが、そこら辺は俺たちでもできる限り対処するつもりだ」
キリエの方に視線を向けると、当然ですといわんばかりに頷いていた。
「だから、マールンたちは今の俺たちの話をそのまま国王に伝えてくれ。いいか、脚色とか一切なしだからな」
「分かった。俺とお前の仲だしな、それは約束しよう」
俺は少し笑みをこぼすと、マールンと拳をこつんと突き合わせた。
そして、魔王城で一泊すると、ハミングウェイ伯爵家の馬車で王都へと戻っていったのだった。
人間たちを連れて来たというのは、こういうところで役に立つんだよな。足をあっちに合わせるから、その移動距離がそのまま目安になるって寸法だ。
うまいこと考えたな、キリエは。
そんな事を思いながら視線を向けると、キリエはキリっとした表情を俺に向けてきた。自慢げにドヤ顔じゃないあたりは頼れる参謀だよ。
トータルで7日ほどをかけて、俺たちは魔王城に戻ってきた。思った以上に近くなっていた。
「整地をするだけでこんなに早くなるんだな。どんだけガタガタしたのかよく分かるぜ」
「左様でございますね。途中にあった沼地なども移動させましたしね」
「沼地を移動?!」
しれっとしたキリエの告白に、思わず叫びながらキリエを見てしまう。
「以前は真っすぐ進めませんでしたが、キリエ様の命令で無理やり道を直線的にしました。なので、途中にあった障害物は全部移動させたのです」
工事に参加していたオークがそんなことを証言している。マジかよ。
確かによく思えば、ほぼほぼまっすぐ進んできた気がする。
俺は後方で作業の様子を見てただけだし、食事の時間になれば料理を作っていた。そのせいもあって、どのように城から進んでいたのかまったく分かっていなかったのだ。
まったく、魔族の最高責任者である魔王としてこれではいけないな。このやり取りで俺は反省をせざるを得なかった。
城に到着してマールンたちを中に案内すると、ピエラがやって来た。
「お帰りなさい、セイ。上から姿が見えたから走ってきちゃったわ」
「お、おう……。ただいま」
ピエラの出迎えにちょっと驚いてしまう。
そのピエラは、俺の後ろにいた人物に目を移していた。
「あら、マールンじゃないの。どうしたのよ、こんなところまで来て」
俺と接していた時と声のトーンが明らかに違う。なんとも冷たい突き放すような言い方だった。
「おいおい、セイの時とは明らかに態度が違うじゃないか。本当に昔っからそうだな、お前は」
マールンもさすがに苦笑いである。
すると、ピエラは腕を組んでぷいっと頬を膨らませて視線を外していた。まるで子どもである。
さすがのマールンも呆れたようにため息をつくが、とりあえずはピエラの質問に答えておく。
「魔族が領境までの街道を整備したというから、その状態を確かめに来たんだ。いや、参ったな。驚くほどにまっ平らだったよ」
素直な感想とともに話すマールンである。
「まあ、キリエさんですからね。彼女の手にかかれば、どんな事でも完璧にこなしてくれますよ」
「恐縮でございます」
ピエラが褒めれば、しっかりと頭を下げるキリエである。
「でも、ちょうどよかったわ。帰りはハミングウェイの馬車を引き取ってくれるかしら」
「それは構わないが、今どこにあるんだ?」
「城壁内の馬小屋にあるけれど、とりあえず後で案内するわね」
「分かった」
ひとまず馬車の話を終えるピエラたち。
そして、城の入口近くにある応接間にマールンたちを案内する。そこで、この街道を整備した理由を話す事となった。
「……というわけなんだ。俺はすっかり失念してたんだけどな」
俺は自分の格好を忘れてついつい足を組んで話をしていた。マールンこそ俺の顔を見ていたのだが、付き添いの兵士たちはどうにも落ち着かない様子だった。
「悪いんだが、兵士たちはどうしてそうも落ち着きがないんだ?」
気になってしょうがないというものだ。
俺の声にマールンが呆れたように頭を抱えてため息をつく。
「お前なあ……。今の自分の姿をよく考えろよ」
だが、マールンの言っている意味が俺には通じなかった。それを見たピエラが横からツッコミを入れてくる。
「セイ、自分の性別と服装を思い出してちょうだい」
肩を叩きながらいうものだから、俺は自分の姿を改めてみる。
ようやく俺は気が付いた。そうかそういうことかと。足を組む癖が分かっていたら服装は気を付けたのにな。何たる失態なのだろうか。
俺が視線を向けると、キリエは自分の服のエプロンを外して俺の膝に掛けてくれた。言葉がなくても通じるというのはいいことだ。あとでクローゼに新しい服を注文しておくか。
とりあえず、これで落ち着いて話ができるだろう。
そんなわけで、街道を整備した理由のほか、今後の展望などいろいろな事をマールンと兵士たちに話しておいた。
「まあそういうわけだ。俺としては今後とも王国とは仲良くしてはおきたい。他国との兼ね合いで難しいところもあるだろうが、そこら辺は俺たちでもできる限り対処するつもりだ」
キリエの方に視線を向けると、当然ですといわんばかりに頷いていた。
「だから、マールンたちは今の俺たちの話をそのまま国王に伝えてくれ。いいか、脚色とか一切なしだからな」
「分かった。俺とお前の仲だしな、それは約束しよう」
俺は少し笑みをこぼすと、マールンと拳をこつんと突き合わせた。
そして、魔王城で一泊すると、ハミングウェイ伯爵家の馬車で王都へと戻っていったのだった。
10
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる