異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
79 / 431
第一章 大陸編

第79話 転生者、様子を見に行く

しおりを挟む
 街道の整備が一段落したこともあって、俺は薬師たちの様子を見に行く。二週間は経ったはずだし、いい加減に今の環境にも慣れてくれているだろう。
 というわけで、俺はキリエとピエラを伴って薬師たちの詰所を覗きに行く。
 構成としては男性が圧倒的に少ないし、魔族の女性陣はメズレスたちからあれこれ嫌がらせを受けていた。うまくいってるのか心配になってきたってわけだ。
 そうやってやって来たウネのいる庭園。相変わらずいろんな種類の植物が育っている。

「あー、魔王様なのー」

 ちょっと気の抜けたような声で話し掛けてくるウネ。
 街道の工事に参加していたみんなはそうでもなかったので、おそらくはこういう喋り方はウネの特徴なのだろうな。

「おう、ウネ。どうだ、やって来た薬師たちの様子は」

「ええ、特に問題なくやってるのよー。ただ、ちょっと質問が多いかなー。草もよく知らずに薬師なんてよくできるのよー」

 俺が問い掛けると、ウネはそんなふうに眉間にしわを寄せながらぼやいていた。
 どうやら、薬草の知識が足りなくて文句があるようだった。

「仕方ありませんよ。薬師が扱うのはなにも植物だけとは限りませんからね。魔物たちの一部分も使うことだってありますからね」

「あらー、そうなのー」

 キリエから指摘されて、ぽけっとした表情になるウネである。本当にこいつはかなりのマイペースだな。
 こういう態度を見ていると、よく魔王城にやって来る事を了承してくれたものだと考えてしまう。

「元々、この魔王城のお庭の世話はわちがしてたのよー。だから、呼び掛けに応じたのよー」

「おい、俺の考えを読むな」

「魔王様は顔に出るのよー」

「ウネ、それを言ったらしっぽに出るですよ」

 俺が咎めると、ウネはにんまりとした表情でからかってくる。そして、キリエ。それはフォローになってねえ、とどめだよ。
 頭の痛くなる俺に対して、ピエラは横でおかしそうにお腹を抱えながら笑っている。笑い過ぎだよ。

「まあいい。とりあえず薬師たちの様子を見るか」

 ウネと会話をしていても進展はしないと見た俺は、詰所の方へと向かっていく。
 さすがに急に扉を開けると驚かせるだけなので、ちゃんとノックをして事前の合図をする。

「はーい、今出ます」

 中から女性の声と足音が聞こえてくる。
 扉が開くと、俺の姿を見た女性が思いきり後ろに飛び退いていた。どうやら対応に出てきたのは人間の薬師のようだった。

「ひっ、じゅ、獣人……って、魔王様でしたか。これは失礼致しました」

 一瞬怯えていたものの、俺だと分かると何事もなかったかのように落ち着き払っていた。早い変わり身だな。
 まあ、世話になっている場所の主相手なので、ちゃんと対応しないといけないものな。俺はそういうことをしようとは思わないが、人によっては機嫌を損ねたら即刻追い出すとか手打ちにするとかあるらしいもんな。

「まぁ、俺相手だったら多少の無礼を働いても大丈夫だ。もちろん程度はあるがな」

 俺は気にしてないといわんばかりに、手をパタパタと振りながら気さくに話す。だが、薬師の女性は少し怯えているようだった。

「そう構えないでくれ。君たちの思う通りに研究してくれれば構わないんだからな。ただ、時々でいいから、俺かキリエ、それかピエラに成果のほどを報告してほしい」

「承知致しました。その程度でよろしいのでしょうか」

 俺がはにかみながら言うと、女性は受け入れながらも問い掛けてくる。人間からしたら魔王城は敵地のど真ん中だもんな。疑問に思ってもしょうがないか。
 俺はつい頭を強くかいてしまう。

「ああ。その代わり、研究に没頭し過ぎない事だな。食事と休憩、それと睡眠はちゃんととってくれ。健康的な状態じゃないと、どんな失敗をやらかすか分からないんだからな」

「しょ、承知致しました。他のみんなにも伝えておきます」

 怯えながら返事をする薬師の女性である。さすがに同じ王国の民だったんだから、その反応はショックしかないんだよなぁ……。

「魔王様、どうなさったのですか、そのような暗い顔をして」

「ああ、キリエか。いやなに、文化の違いみたいなものに驚いていただけだ。気にしないでくれ」

「左様でございますか」

 質問に対する俺の答えに、不思議そうな顔で首を傾げるキリエである。

「それはそうと魔王様、あちらでピエラ様がお呼びでございますので、薬師の対応はこのキリエにお任せ下さい」

「うん、そうか。それじゃ頼むよ」

「畏まりました」

 薬師たちをキリエに任せた俺は、何の用だろうかとピエラの方へと近付いていく。
 すると、ピエラは驚いた様子で俺の方へと顔を向けて来ていた。

「どうしたんだよ、ピエラ」

「ちょっと、これを見てよ……」

 ピエラが困惑した表情で指差す草へと視線を移す。だが、俺にはただの草にしか見えない。

「これがどうしたっていうんだ?」

 ピエラが震える理由が分からなくて、俺は率直にピエラに尋ねる。

「嘘でしょ……。これが何か分からないなんて」

「これはー、アルラウネの主食だよー。わちの知り合いにあげるのよー」

 怯えるピエラとマイペースなウネ。まったく状況が理解できずに、俺はただただ困惑するだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...