異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第112話 転生者、服の交渉をする

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「失礼致します。魔王様をお連れ致しました」

 キリエが会議室に突入していく。ノックくらいしたらどうなんだ。

「ああ、キリエ。戻ってきましたか」

「やあ、調子はどうだ」

 バフォメットが反応すると、俺はすかさず会議室に顔を覗かせる。

「これは魔王様、おはようございます」

「おはようございます。なかなかに快適でしたぞ」

 バフォメットに続いて大臣も挨拶をしてくる。明らかに今日の大臣の血色はよかった。普段はそれなりに苦労していたのだろうな。

「そうか、満足してもらえているのなら、こちらとしても嬉しい限りだ。普段の取引などのように俺たち魔族たちにも普通に接してもらえるなら、こちらとしてもまったく人間たちに危害を加えるないから安心してくれ」

「ははっ、滅相もない事を」

 俺の言い分に、大臣は笑いながら答えている。

「私が必ず説得してみせますよ。あれだけの戦力差を見せつけられて、まだ攻撃を仕掛けようとするのであれば相当です。主力があっさり壊滅させられているのですからね」

「心強いものだな」

 俺もつられて笑う。

「それはそうと、魔王は一体何を持っていらっしゃるのですかな」

 大臣は俺やキリエが抱えているものが気になっているらしい。
 あまりにも凝視してくるので、俺たちは仕方なく持っているものを見せることにする。

「トルソーはあるかな」

「なんですか、それは。こんなのは魔法でどうにでもできます、見ていて下さい」

 キリエが魔法を使うと、服が浮かび上がって人の着ている状態へと変化していく。これには大臣もだが、俺もとてもびっくりしている。
 あっという間に、俺とキリエで運んできた服が空中に浮かんだ状態でずらりと並んでしまった。魔法って便利なんだなと改めて思った瞬間だった。

「ほう、これは見かけないタイプの服装ですね」

 大臣がかなり食いついている。

「魔王様がいろいろ考えられたようです。それを私の知り合いの服飾職人が形にしたとのことらしいですよ。今は疲れて眠っておりますので、当人への面会はお控え下さいませ」

 説明と同時に釘まで刺すキリエである。さすがはメイドで参謀、ちゃっかりしてやがる。
 クローゼは徹夜の影響で爆睡中だもんな。さすがに起こすのは可哀想というものだ。なので、俺も大臣をしっかりと見ながら、数回頷いておいた。

「分かりました。では、正式な交渉に関しては、一度国に持ち帰ってから使節を派遣して詰めさせて頂きましょう。ひとまず見させて頂きます」

 大臣は早速見本となる服を一つ一つ確認していく。

「ふむ、見た感じは御婦人方の衣装でございましょうかね。こちらのひとつだけが殿方用と思われますが、いかがでしょうか」

「ああ、その通りだ。まぁ見た目に分かりやすいからな。デザインが見た事ないだけで」

 俺が肯定しておくと、大臣はひとまず安心したようである。

「ふむ、今までにない斬新なデザインでございますので、おそらくは物珍しさが手伝ってよく売れると思われます」

 大臣が一つ一つ評価を下していく。大臣という割にはだいぶ細かいな。

「しかし、何でしょうか、この光沢と手触りは。近しい繊維はないことはありませんが、そのどれとも特徴が違っています。ふむむむ……」

 注目点がデザインから生地へと移ると、途端に大臣は悩み始めた。
 もう視点が一国の大臣じゃねえよ。商人かよ。俺はそうツッコミを入れたくなった。でも、下手にツッコミを入れると場を荒れさせそうな気がしたので、一応我慢しておく。
 その代わりと言ってはなんだが、俺は大臣の悩みを解決するために大臣に近付いて声を掛けた。

「それはアラクネが生み出す糸を使った生地なんだ。あいつら種族的に糸を出したりそれで服を作ったりというのが得意らしいんでな」

「なんと、アラクネですか。いやはや、危険と言われる魔族の糸が、まさかこのようなものとは……」

 かなり驚いた様子を見せる大臣。その姿にちょっと意外な感じがしていた。なにせ、俺が現在着ている服もそのアラクネの糸を使った服なのだからな。

「そうなるでしょうね。アラクネは人間たちにとっては討伐対象であり、害をなすものとして知られております。その糸を自分の身にまとうなど、とても考えられないでしょうね」

「なるほど。確かに、南方王国の方でもちらりとそういう話は聞いたことがあるな」

 キリエに言われてふと思い出す。しかし、俺は別に着るのに抵抗はなかったな。いや、別の意味では抵抗はあったか……。
 だが、こういう話が出てくると次の課題が出てくるというものだな。

「よし、キリエ」

「なんでしょうか、魔王様」

「アラクネ族と話をする場を設けることができるか?」

「畏まりました。手配致しましょう」

 俺からの指示を受けて、キリエが部屋を出ていく。魔法を使った本人がいなくなったのに、見本となった服たちはそのまま宙に浮かんだままだ。魔法ってすげえな。
 その後、クローゼが起きてきた事で服に関する話し合いは進んでいく。最終的には服を見本として持って帰ってもらうことになったものの、アラクネの糸を使った生地やデザインに関しての結論は保留となった。
 大臣はデザストレに送り届けてもらい、今回の和平交渉はひとまず終了したのだった。
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