異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第113話 転生者、アラクネの集落へ向かう

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 服の事を売り込もうとしたのに、新たな問題が発生してしまった。
 そんなわけで、俺はキリエとクローゼと一緒にアラクネの住処へと向かっている。クローゼも本来はそこに住んでいるらしいのだが、服飾を扱っている関係で集落から外れて普段は生活していたらしい。

「わたくしたちアラクネはそれほど頭は悪くありませんわ。ちゃんと事情を説明すれば、おそらく理解はしてもらえるはずですわよ」

「ふーん、そうなのか」

 クローゼは自信たっぷりな様子である。
 だが、俺には今までの経験からして少々ばかりの不安があった。
 獣人たちの集落もそうだし、純魔族の街でもそうだし、すんなりと事が運んだ覚えがないのだ。そりゃまあ、不安になるってもんだよ。
 それにしても、アラクネの住処への道は、以前訪れたドライアドの集落と似たような感じだった。道なき道を突き進んでいく感じだ。
 何度も足を運んでいるキリエとアラクネであるクローゼは平然としていたが、さすがに俺は移動に苦戦していた。

「おい、ちょっと待て。どうして魔族に会いに行こうとしたらこういう道ばかりになるんだよ」

「仕方ありませんよ、魔王様。アラクネはうっそうとした場所を好みますので、未開の土地に住みたがるんです。クローゼがちょっと特殊なだけなのですよ」

 俺の質問に、キリエから淡々と答えが返ってきた。なるほどなぁ、納得できねえぜ。
 警戒をして動きやすい格好にはしてきたが、それでも苦戦する道のりだ。俺は息を切らせながらも、どうにか二人について行った。

「ふぅ、ドレスにヒールはやめといて正解だったぜ……」

 キリエにクローゼがようやく立ち止まったので、俺は肩で息をしながら愚痴をこぼしていた。靴はハイヒールではないものの、それでも踵が5cmくらいある靴を履いている。前世でも今世でもそこまでの上げ底は履いた事がなかったので、これくらいでもまともに歩くのはひと苦労だった。

「魔王様は鍛え方が足りませんね」

「靴が慣れないだけだよ!」

 無表情で喋るキリエに、俺は精一杯訴えておいた。
 そこからしばらく歩くと、一気に周りの空気が張り詰める。これだけで集落に到着した事はよく分かるというものだ。感じとしては獣人たちの集落に着いた時と同じ感じだった。

「お久しぶりだわね、我が同胞たち」

 大きく息を吸い込んだクローゼが森の中へ向かって呼び掛ける。しばらくすると、ガサガサという音とともに何かが迫ってくる気配が感じられた。
 音がやんだかと思うと、大きな黒い影が俺たちの目の前へと飛び出してきた。

「あら、シュトリン。何年ぶりかしらね」

「のんきなことを言うんじゃないわよ、クローゼ」

 飛び出してきたアラクネが、クローゼと普通に話をしている。この様子だと友人のようだった。

「お久しぶりですね、シュトリン。先日はクローゼの居場所を教えて頂きありがとうございます」

「これはキリエ様。いえいえ、魔王城からの要請とあれば、きちんと従います。今の私たちがあるのは、歴代の魔王様たちとキリエ様のおかげでございます」

 おっと、どうやらシュトリンと呼ばれたアラクネはキリエとも知り合いのようだ。これなら話はスムーズに進むかな?
 俺が楽観的に構えていると、シュトリンは俺に対してものすごいきつい視線を向けてきた。おやぁ、一体どうしたんだよ。

「キリエ様、この獣人は一体誰なのですか。強い魔力は感じますけれど」

 なんか戦闘態勢と取られちまってるな。どうやら、俺のことをただの獣人だと思っているようだ。

「シュトリン、刃を収めて下さい。こちらの方は今代の魔王様で、セイ様と申します。見た目は獣人ではございますけれど、正式に魔王の刻印も受け継がれた正真正銘の魔王様です」

「な、なんですって……」

 キリエに真実を告げられたシュトリンが驚愕の表情を浮かべている。まったく、どれだけ魔族の中で獣人は立場が低いんだよ。
 とりあえず余計な口出しはしないで、俺はキリエとシュトリンのやり取りを見守っている。魔族たちのことをよく知らない俺が口出しをすると、かえって事態が悪化しそうなんでな。こういう時は黙っているのが吉ってもんだ。
 しばらくすると、キリエとシュトリンの話し合いが終わったようで、二人が距離を取った。

「魔王様、無事に集落への受け入れの了承を取り付けました。私と同じ純魔族なら苦労はしないのですが、やはり獣人となると少々ばかり面倒なようでございます」

「やっぱそうなのか。獣人ってそんなに嫌われてるのか?」

「ええ、まあ。ヴォルフ殿くらいとなれば多少はマシなのですけれどね……」

 なんとも歯切れの悪いキリエである。
 まあ、魔族の中も一枚岩ではないという証拠なのだろう。
 俺が魔王になってからだいぶたつものの、魔王領の中にはまだまだ根深い問題がたくさん眠っているということなのだろう。
 まったく、対外的にも対内的にもまだまだ問題が山積のようである。
 やらなきゃいけないことを再確認しつつ、俺はキリエたちと一緒にアラクネの集落へと足を踏み入れたのだった。
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