113 / 431
第一章 大陸編
第113話 転生者、アラクネの集落へ向かう
しおりを挟む
服の事を売り込もうとしたのに、新たな問題が発生してしまった。
そんなわけで、俺はキリエとクローゼと一緒にアラクネの住処へと向かっている。クローゼも本来はそこに住んでいるらしいのだが、服飾を扱っている関係で集落から外れて普段は生活していたらしい。
「わたくしたちアラクネはそれほど頭は悪くありませんわ。ちゃんと事情を説明すれば、おそらく理解はしてもらえるはずですわよ」
「ふーん、そうなのか」
クローゼは自信たっぷりな様子である。
だが、俺には今までの経験からして少々ばかりの不安があった。
獣人たちの集落もそうだし、純魔族の街でもそうだし、すんなりと事が運んだ覚えがないのだ。そりゃまあ、不安になるってもんだよ。
それにしても、アラクネの住処への道は、以前訪れたドライアドの集落と似たような感じだった。道なき道を突き進んでいく感じだ。
何度も足を運んでいるキリエとアラクネであるクローゼは平然としていたが、さすがに俺は移動に苦戦していた。
「おい、ちょっと待て。どうして魔族に会いに行こうとしたらこういう道ばかりになるんだよ」
「仕方ありませんよ、魔王様。アラクネはうっそうとした場所を好みますので、未開の土地に住みたがるんです。クローゼがちょっと特殊なだけなのですよ」
俺の質問に、キリエから淡々と答えが返ってきた。なるほどなぁ、納得できねえぜ。
警戒をして動きやすい格好にはしてきたが、それでも苦戦する道のりだ。俺は息を切らせながらも、どうにか二人について行った。
「ふぅ、ドレスにヒールはやめといて正解だったぜ……」
キリエにクローゼがようやく立ち止まったので、俺は肩で息をしながら愚痴をこぼしていた。靴はハイヒールではないものの、それでも踵が5cmくらいある靴を履いている。前世でも今世でもそこまでの上げ底は履いた事がなかったので、これくらいでもまともに歩くのはひと苦労だった。
「魔王様は鍛え方が足りませんね」
「靴が慣れないだけだよ!」
無表情で喋るキリエに、俺は精一杯訴えておいた。
そこからしばらく歩くと、一気に周りの空気が張り詰める。これだけで集落に到着した事はよく分かるというものだ。感じとしては獣人たちの集落に着いた時と同じ感じだった。
「お久しぶりだわね、我が同胞たち」
大きく息を吸い込んだクローゼが森の中へ向かって呼び掛ける。しばらくすると、ガサガサという音とともに何かが迫ってくる気配が感じられた。
音がやんだかと思うと、大きな黒い影が俺たちの目の前へと飛び出してきた。
「あら、シュトリン。何年ぶりかしらね」
「のんきなことを言うんじゃないわよ、クローゼ」
飛び出してきたアラクネが、クローゼと普通に話をしている。この様子だと友人のようだった。
「お久しぶりですね、シュトリン。先日はクローゼの居場所を教えて頂きありがとうございます」
「これはキリエ様。いえいえ、魔王城からの要請とあれば、きちんと従います。今の私たちがあるのは、歴代の魔王様たちとキリエ様のおかげでございます」
おっと、どうやらシュトリンと呼ばれたアラクネはキリエとも知り合いのようだ。これなら話はスムーズに進むかな?
俺が楽観的に構えていると、シュトリンは俺に対してものすごいきつい視線を向けてきた。おやぁ、一体どうしたんだよ。
「キリエ様、この獣人は一体誰なのですか。強い魔力は感じますけれど」
なんか戦闘態勢と取られちまってるな。どうやら、俺のことをただの獣人だと思っているようだ。
「シュトリン、刃を収めて下さい。こちらの方は今代の魔王様で、セイ様と申します。見た目は獣人ではございますけれど、正式に魔王の刻印も受け継がれた正真正銘の魔王様です」
「な、なんですって……」
キリエに真実を告げられたシュトリンが驚愕の表情を浮かべている。まったく、どれだけ魔族の中で獣人は立場が低いんだよ。
とりあえず余計な口出しはしないで、俺はキリエとシュトリンのやり取りを見守っている。魔族たちのことをよく知らない俺が口出しをすると、かえって事態が悪化しそうなんでな。こういう時は黙っているのが吉ってもんだ。
しばらくすると、キリエとシュトリンの話し合いが終わったようで、二人が距離を取った。
「魔王様、無事に集落への受け入れの了承を取り付けました。私と同じ純魔族なら苦労はしないのですが、やはり獣人となると少々ばかり面倒なようでございます」
「やっぱそうなのか。獣人ってそんなに嫌われてるのか?」
「ええ、まあ。ヴォルフ殿くらいとなれば多少はマシなのですけれどね……」
なんとも歯切れの悪いキリエである。
まあ、魔族の中も一枚岩ではないという証拠なのだろう。
俺が魔王になってからだいぶたつものの、魔王領の中にはまだまだ根深い問題がたくさん眠っているということなのだろう。
まったく、対外的にも対内的にもまだまだ問題が山積のようである。
やらなきゃいけないことを再確認しつつ、俺はキリエたちと一緒にアラクネの集落へと足を踏み入れたのだった。
そんなわけで、俺はキリエとクローゼと一緒にアラクネの住処へと向かっている。クローゼも本来はそこに住んでいるらしいのだが、服飾を扱っている関係で集落から外れて普段は生活していたらしい。
「わたくしたちアラクネはそれほど頭は悪くありませんわ。ちゃんと事情を説明すれば、おそらく理解はしてもらえるはずですわよ」
「ふーん、そうなのか」
クローゼは自信たっぷりな様子である。
だが、俺には今までの経験からして少々ばかりの不安があった。
獣人たちの集落もそうだし、純魔族の街でもそうだし、すんなりと事が運んだ覚えがないのだ。そりゃまあ、不安になるってもんだよ。
それにしても、アラクネの住処への道は、以前訪れたドライアドの集落と似たような感じだった。道なき道を突き進んでいく感じだ。
何度も足を運んでいるキリエとアラクネであるクローゼは平然としていたが、さすがに俺は移動に苦戦していた。
「おい、ちょっと待て。どうして魔族に会いに行こうとしたらこういう道ばかりになるんだよ」
「仕方ありませんよ、魔王様。アラクネはうっそうとした場所を好みますので、未開の土地に住みたがるんです。クローゼがちょっと特殊なだけなのですよ」
俺の質問に、キリエから淡々と答えが返ってきた。なるほどなぁ、納得できねえぜ。
警戒をして動きやすい格好にはしてきたが、それでも苦戦する道のりだ。俺は息を切らせながらも、どうにか二人について行った。
「ふぅ、ドレスにヒールはやめといて正解だったぜ……」
キリエにクローゼがようやく立ち止まったので、俺は肩で息をしながら愚痴をこぼしていた。靴はハイヒールではないものの、それでも踵が5cmくらいある靴を履いている。前世でも今世でもそこまでの上げ底は履いた事がなかったので、これくらいでもまともに歩くのはひと苦労だった。
「魔王様は鍛え方が足りませんね」
「靴が慣れないだけだよ!」
無表情で喋るキリエに、俺は精一杯訴えておいた。
そこからしばらく歩くと、一気に周りの空気が張り詰める。これだけで集落に到着した事はよく分かるというものだ。感じとしては獣人たちの集落に着いた時と同じ感じだった。
「お久しぶりだわね、我が同胞たち」
大きく息を吸い込んだクローゼが森の中へ向かって呼び掛ける。しばらくすると、ガサガサという音とともに何かが迫ってくる気配が感じられた。
音がやんだかと思うと、大きな黒い影が俺たちの目の前へと飛び出してきた。
「あら、シュトリン。何年ぶりかしらね」
「のんきなことを言うんじゃないわよ、クローゼ」
飛び出してきたアラクネが、クローゼと普通に話をしている。この様子だと友人のようだった。
「お久しぶりですね、シュトリン。先日はクローゼの居場所を教えて頂きありがとうございます」
「これはキリエ様。いえいえ、魔王城からの要請とあれば、きちんと従います。今の私たちがあるのは、歴代の魔王様たちとキリエ様のおかげでございます」
おっと、どうやらシュトリンと呼ばれたアラクネはキリエとも知り合いのようだ。これなら話はスムーズに進むかな?
俺が楽観的に構えていると、シュトリンは俺に対してものすごいきつい視線を向けてきた。おやぁ、一体どうしたんだよ。
「キリエ様、この獣人は一体誰なのですか。強い魔力は感じますけれど」
なんか戦闘態勢と取られちまってるな。どうやら、俺のことをただの獣人だと思っているようだ。
「シュトリン、刃を収めて下さい。こちらの方は今代の魔王様で、セイ様と申します。見た目は獣人ではございますけれど、正式に魔王の刻印も受け継がれた正真正銘の魔王様です」
「な、なんですって……」
キリエに真実を告げられたシュトリンが驚愕の表情を浮かべている。まったく、どれだけ魔族の中で獣人は立場が低いんだよ。
とりあえず余計な口出しはしないで、俺はキリエとシュトリンのやり取りを見守っている。魔族たちのことをよく知らない俺が口出しをすると、かえって事態が悪化しそうなんでな。こういう時は黙っているのが吉ってもんだ。
しばらくすると、キリエとシュトリンの話し合いが終わったようで、二人が距離を取った。
「魔王様、無事に集落への受け入れの了承を取り付けました。私と同じ純魔族なら苦労はしないのですが、やはり獣人となると少々ばかり面倒なようでございます」
「やっぱそうなのか。獣人ってそんなに嫌われてるのか?」
「ええ、まあ。ヴォルフ殿くらいとなれば多少はマシなのですけれどね……」
なんとも歯切れの悪いキリエである。
まあ、魔族の中も一枚岩ではないという証拠なのだろう。
俺が魔王になってからだいぶたつものの、魔王領の中にはまだまだ根深い問題がたくさん眠っているということなのだろう。
まったく、対外的にも対内的にもまだまだ問題が山積のようである。
やらなきゃいけないことを再確認しつつ、俺はキリエたちと一緒にアラクネの集落へと足を踏み入れたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる