異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第114話 転生者、アラクネの説得を試みる

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 無事にアラクネの集落に入る俺たち。
 周りは深い森で薄暗いが、獣人となった俺は余裕で景色を見ることができている。

「よくこんな薄暗いところで生活できるな」

「アラクネは闇夜でも行動はできますわよ。魔力を感知して動きますからね」

「そうなのか」

 俺の呟きにクローゼが親切に答えてくれた。魔族もいろいろなんだな。
 しばらく進んでいると、シュトリンが立ち止まる。

「さあ、着きましたよ。歓迎致します、新たな魔王様」

 シュトリンが俺に頭を下げてくるが、どうにも周りの様子がおかしい。
 ざざざという音が聞こえたかと思うと、一気にたくさんのアラクネが降り注いできた。

「おいおい、手荒な歓迎だな」

 俺が拳に力を込めるが、キリエが俺の手を掴んで止める。

「魔王様、アラクネは本来木の上で生活しているものなんですよ」

「え、そうなのか?」

「そうですわよ」

 俺が驚いていたのだが、確かにアラクネたちには襲い掛かるような動きは見られなかった。本当に木の上から降りてきただけだったようだ。

「誰かと思えばクローゼか。そちらは魔王様の参謀のキリエ様ですね。それと……?」

 アラクネのリーダと思われる女性から、首を傾げられる。やっぱり俺のことは分からないらしい。見た目獣人で、内在魔力が大きいものだから困惑しているようだ。
 相手の反応を見ていても面白いが、時間を無駄にするわけにもいかないので、俺は一歩前に出る。

「俺はセイ。今は魔王をやってる」

「なんと、魔王様ですか!」

 あのキリエが同行している時点で察してはいたらしく、俺の言葉でアラクネたちは一斉に跪く。
 よく見るとアラクネとひとことで言っても二種類いるようだ。下半身が蜘蛛になっているやつもいれば、背中に蜘蛛の足を背負っているやつもいる。

(背中に足を背負ってるって、アラクネじゃなくて蜘蛛女なんじゃ……)

 ついつい前世の知識でツッコミを心の中でしてしまうぜ。でも、あえて口に出すような真似はしないぞ。一歩間違えれば襲い掛かってきそうな雰囲気があるからな。細い蜘蛛の糸をつかんでいる気分だぜ。

「それで魔王様。今回私どもの集落へと参られたのは、いかなる用件でございましょうか」

 アラクネのリーダーから質問をされる。その質問を受けて、俺はキリエとクローゼに確認をする。二人からは大丈夫というような反応をもらったので、本題へと切り込むことにした。

「うむ、用件というのは、今俺が着ている服に関係した事なんだ」

「と、申されますと?」

 当然のように聞き返される。

「今俺が着ている服は、ここにいるクローゼが仕立てたものでな、クローゼが出した糸を使っているんだ」

「そうですね。アラクネは自分の服は自分で仕立てますし、相手が魔王様であるなら喜んで作るのは当然でございます」

 しれっとした反応が返ってきた。どうやら、アラクネが自分の人を使って自分の服を仕立てるのは当たり前の話のようだった。
 これはちょっと誤算だっただろうか?
 しかし、自分の着る服にだけにしか糸を使わないということは、それは過剰に糸がある可能性を示しているってことだ。
 一か八か話をしてみるか。

「アラクネたちって、余った糸とかどうしているんだ?」

「余った糸?」

 きょとんとした顔を見せるアラクネたち。どうも趣旨が伝わっていない様子だ。

「服を作るにしても巣を作るにしても、糸って余ってしまうでしょう? それをどうしているのかと聞いていらっしゃるのよ」

「ああ、そういうことですか。必要な分しか出しませんし、もし余った場合は捨てるか焼くか、処分していますね」

 なんとももったいないことをしているようだった。
 そこで俺は、キリエとクローゼに持ってきていたものを出してもらった。

「それは、服のようですが?」

 出したものを見たリーダーが微妙な反応を示している。だが、興味は持ったように見える。

「ああ、服だ。クローゼに頼んでクローゼの出した糸を使って作ってもらったんだ」

「クローゼ?」

 シュトリンがじっとクローゼを見ている。

「わたくしは仕立て屋ですのよ。頼まれれば服は作りましてよ?」

 はっきりと言い切るクローゼである。実際、俺の服は肌着に至るまで全部クローゼのお手製だ。獣人であるとはいえ、その着心地は実感済みなんだよ。
 クローゼの言葉で、アラクネたちがどよめいている。その状況を見て、ここだと思って俺は話を続ける。

「アラクネたちの作る糸は手触りがとてもいい。無理にとは言わない。ここにあるような服を作って商売をしてみる気はないか?」

「商売?」

 アラクネのリーダーが驚いた表情で反応している。

「ああ、品質、着心地は俺たちが保証する。みんなにもちゃんとした報酬は用意する。どうだろうか、やってみる気はないか?」

「わたくしからもお勧めしますわよ。魔王様がわたくしの作った服を着て活動される様を見て、わたくし、とーっても幸せな気持ちになっていますもの」

 俺の提案とクローゼの現状。このふたつはアラクネたちの気持ちを十分に揺さぶっているようだ。もう一押しあれば、アラクネたちを落とす事ができそうだな。
 俺の考えた計画が無事に進展するのか、どうやら正念場を迎えているようだった。
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