異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第128話 転生者、国境の街を見せる

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 俺が馬を駆って単身西方王国の王都に乗り込む。警戒はされるかと思ったが、意外とすんなりと王都に入れたし、王城内も実にスムーズだった。聞けば大臣がかなり説得に走っていたらしい。
 国王への謁見もかなり順番をすっ飛ばしてすぐに会う事ができた。手短に話を終えると、結構な数の兵士を連れて国境まで戻ることになってしまった。相当警戒しているな、これは。
 俺とデザストレの二人だけで、簡単にあしらわれたからな。まぁ当然かな。
 というわけで、全部で百人クラスの兵士たちを率いて国境へと戻った。

 俺たちが国境に戻った頃には、もうすっかり街ができ上がっていた。往復で十日間もあれば、魔族たちにとっては余裕のある時間だったのだ。

「いやまぁ、ここまですっかり街ができちまっているとは驚いたな……」

「どうですか、魔王様。南方王国との国境の街を真似てみたんですが」

 建設に関わった魔族の一人が得意げに俺に話し掛けてきた。
 なんか見た事のある感じだと思ったら、そういうことだったのか。
 魔族たちとの街とは一風違った街ができ上がったのは、ここが人間たちとの生活圏の境界に位置しているからだろう。だから、人間たちの街である南方王国の国境の街を参考に、そこに似せた街を造ったということなのだろう。
 この魔族たちの頭の柔軟性に、俺はただただ唸るだけだった。
 これに関しては、俺についてきた人間たちも同じ感想を持ったらしい。

「とりあえず、街の中を確認してみてくれ。人間の街を模して造ったということは、俺たちがお前たちに敵意がないという証拠になる」

 俺の言葉を受けて、百人少々いる西方王国の兵士たちは街の中を見て回った。
 結果、確かに人間たちの街の造りに似ているということが認められたのだった。

「確認終わりました。どこも異常はありません」

「そうか、ご苦労」

 報告を受けた隊長格がこくりと頷いている。
 そして、俺の方へと向き直る。

「敵意がないことは確認できました。今回の申し出、しかと受け入れさせて頂きます」

「そっか、それなら安心というものだな」

 どことなく偉そうではあるものの、ひとまず認めさせられたのは前進と見ていいのだろう。
 造られた国境の街から東側を見る。きれいに整えられた平坦な道が、地平線までずっと続いている。

「ひとまず、こんな状態の道が魔王城まで続いている。あんたたち兵士たちは荒れた道も慣れているだろうが、不慣れな商人たちでも快適に旅ができるようにしてあるからな」

「これは驚きだな。こんなまっ平らな道が造れるなんて、どんな技術があればできるのだ」

 俺から説明を受けた隊長格は、街道の路面を確かめながら驚きの声を上げている。
 俺だってよく分からない。だが、俺の部下である魔族たちは、それを平然とやってのけているのだ。これは誰の疑う余地もない事実なのである。すんなり信じろ。

「信じる信じないは勝手だが、現実として目の前に平らな街道が整備されている。これだけは受け入れてくれ」

「う、ううむ……」

 真剣な表情で迫ると、さすがに隊長格も黙り込むしかなかった。実際手に触れていたし、足で何度も踏んで確かめていたんだからな。
 ひとまず、西方王国と魔王領との間の取引はこの街道を使うことになる。宿場町の間は魔族たちが護衛に就くという方向性で進めるつもりだ。
 人間たちの戦力を信じないわけじゃないが、俺とデザストレだけで蹴散らされるようでは、強さが不十分だからな。下手な魔物が出てきたら、あっという間に商人ごとあの世行きだ。さすがにそれは展開としてよろしくないので、魔族の護衛をつけるのだよ。
 その代わり、この国境の街の運営は西方王国に任せることになった。一応魔王領の外側なんでな、この街の位置はな。西方王国の国土にあるから、彼らに任せるというわけだ。
 しかし、ずいぶんと渋々といった反応を見せつけられたな。魔族との間のわだかまりがよく分かる態度だ。
 なので、俺はこの街を魔族たち側で整備したこと、本気になれば俺一人で西方王国を壊滅させられることという、飴と鞭の同時打ちで西方王国の兵士たちを無理やり納得させた。以前に実力を見せつけておいたのが役に立ったな。
 まったく、兵士ども相手は疲れる。こんな事なら大臣を連れてくればよかったぜ。ずいぶんと俺たちに興味を示していたからな。
 だが、その大臣は国の仕事で忙しそうにしてたから、今回ばかりは仕方なかったな。
 ひとまずでき上がった国境の街はもうしばらく俺の部下に任せることにして、俺は再び西方王国の王都へと向かう。本題である交渉を行うためだ。
 兵士たちはそのまま国境の街に滞在してもらう。しばらくは魔族と一緒にいることになるから、うまくいけば和解してくれるだろう。
 いろいろと多くの目論見を抱えて、俺は王都を目指して馬を走らせる。
 西方王国との交渉も、いよいよ大詰めだ。
 なんとしても和平を勝ち取るために、俺は改めて気を引き締めながら西方王国の王都へと足を踏み入れたのだった。
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