異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
129 / 431
第一章 大陸編

第129話 転生者、無駄骨を折りかける

しおりを挟む
 国境までやって来た兵士のうちの一人だけを一緒の馬に乗せて、俺は西方王国の王都まで戻ってきた。
 普通、敵対者を背後に乗せれば危険なものだが、そんな余裕はないようにしっかりと対策はしておいたので問題はなかったぜ。
 さて、なんで一人だけ兵士を連れて戻って来たかというと、国境の街と街道の整備の証言をさせるためだ。俺一人だけでは説得力はそこまで強くない。そこで、同じ王国民である兵士を連れてきたってわけだ。

「えっと、俺はお前に発言の強制はしない。どう思ったか、それを正直に話をすればいいからな」

 馬から降ろす際に、俺は兵士に念を押しておく。自分の立場で隙に証言すればいい。ただし、嘘は許さないぞと。
 兵士はぶんぶんと勢いよく首を縦に振っている。脅すつもりはなかったが、魔王領の馬の速さを見た後じゃまぁしょうがないか。
 王城に入り、俺は再び国王と謁見する。さすがに魔王相手ともなればすぐに対応してくれるので助かる。

「もう戻って来たか……」

「まあね。魔王領の馬は足が速いからな」

 俺と国王の間には、険悪な雰囲気が漂っている。俺としてはなんとも思ってないが、さすがに国王からしたら警戒するよな。あれだけの実力差を見せつけられたわけだし、何か企んでるんじゃないかってね。
 とはいえ、相手が構えていようとも、俺としては交渉を始めるしか選択肢はなかった。

「改めて西方王国の国王に報告させてもらう。魔王領との国境まで、魔王城からの街道を整備させてもらった。あと、その国境部分に街も整備させてもらった。詳細はそこの兵士から聞いてもらいたい」

「ふむ。その方、相違ないか?」

「は、はい。間違い、ございません」

 びびっているのか、ものすごく歯切れが悪い。おかげで無理やり言わされている感が強く出てるぞ。
 しかし、国王と魔王という二人の権力者に挟まれれば、そりゃ一介の兵士にはおそれ多い状況だわな。ある程度理解を示している俺は、とりあえず黙って反応を見ている。

「それでだが、国境の街は西方王国で運営してもらいたいんだ。領地的にはそちらに存在しているんでな」

「なんと?」

 ものすごく驚いた表情を見せる国王。
 勝手に魔族が自分の領地で街を造ったわけだから、そういう反応になるのは当然だろう。とはいえ、人間たちが生活することを前提に造らせてもらったから、何も問題ないはずだ。

「勝手な真似をしたのは謝罪するが、今回の交渉における譲歩だと思ってもらいたい。俺が目指すのはあくまでも平和的な交流なんだからな」

「う、うむぅ……」

 俺が主張すると、どういうわけか国王は唸って黙り込んでしまった。なんだっていうんだろうかな。

「何が不満かは分からないが、これでも不満だというのならちょっと欲張り過ぎだと思うぞ。ぶっちゃけて言うと、俺たちから提供するものは、俺たち自身を不利にするものばかりなんだからな」

 俺はしっかりと釘は刺しておく。
 基本的に交渉はギブアンドテイクだ。一方的に与えるだけでは交渉にならない。
 まったく結論を出そうとしない国王に、さすがの俺も耐えかねる。

「まったく、大臣たちには悪いが、この交渉は決裂だな。俺だって暇じゃないからな」

 俺は立ち上がって帰ろうとすると、国王は絞り出すようにして俺を呼び止めてきた。

「待ってくれ。私は国王としてその話に結論は出せない」

「……そうか。国民感情に配慮ってわけか」

 俺が呟くように言うと、国王はこくりと頷いた。

「大臣は魔王領に対して興味津々だ。ならば、こういうことは彼に任せようと思う。国がいい方に転ぶのであれば、私は黙認しよう」

「まぁ、しょうがないか。なら、ある程度成果が出るまでは一切口を出さないでくれ。もちろん、王国内部の反発も含めてだ」

「……約束しよう」

 国王はそう弱々しく答えている。
 ひとまず国王は静観という立場を取ったので、挨拶もほどほどに俺は大臣であるマネケンの元へと出向く。その際に、国王はちゃんと案内役の兵士をつけてくれた。
 だがな、今の俺は獣人なんだ。この鼻さえあればにおいで大臣を追跡できるんだよな。
 まっ、せっかく気を利かせてくれたので、黙っておくがな。
 兵士の案内で、俺は無事にマネケンと会うことができた。

「おお、魔王殿。今日はいかような用件ですかな」

 ものすごく上機嫌のマネケンである。

「ああ、国境まで街道を整備して、そこに街も造ったから、改めて交渉に来たってわけなんだ」

「なんと街を!」

 マネケンが驚いている。

「まぁいろいろあって国王が全部大臣に投げちまったせいでな。これから大臣といろいろと話をしなきゃいけないんだ」

「はっはっはっ、それでしたら喜んでお相手致しましょう。なに、魔王殿との取引は、必ずこちらの国益になる。私の勘がそう告げているのですからな、はっはっはっはっ」

 国王の対応に不機嫌になると思ったら、かえって喜んでいた。変わった人間もいるものだと、元人間ながらに思ってしまう。
 結局、最終的にはマネケンが国境の街を直に見たいと言い出したので、連れていくことになってしまった。
 前回ついてこなかったのは案件を抱えていたかららしく、今回はそれが片付いてのでついて来れるそうだ。
 というわけで、マネケンを連れて再び国境の街に戻ることになったのだった。
 一体何往復すればいいんだよ……。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...