異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
130 / 431
第一章 大陸編

第130話 転生者、思いつく

しおりを挟む
 国境の街の出来ばえに、マネケンはとても満足した様子だった。
 すぐさま移住者を募ろうと言い出すものだから、街に駐在していた兵士たちは困り果てた様子を見せていた。
 兵士たちの反応が普通なんだろうなと思いながら、俺は呆れたようにマネケンを見ている。

「大臣」

「何かな、魔王殿」

「ここは任せてもいいか?」

「もちろんですとも。ここはまだ我々王国の国土ですからな。はっはっはっはっ」

 高らかに笑って任されるマネケンである。

「そうか。ならここから俺たちは全員退去するから、好きに使ってくれ」

「心得ましたぞ。双方にとっていい結果になるように、私も尽力させて頂きますとも」

 自信たっぷりな様子のマネケンに、俺は少し安心したような気がした。
 胸を張るマネケンに街のことを任せ、俺たちは一路魔王城へと戻っていった。

 魔王城に戻ると、クローゼがいきなり襲い……じゃなかった抱きついてきた。

「お帰りなさい、魔王様。待ちくたびれましたわよ」

「お、おう。どうしたっていうんだよ、クローゼ」

 あまりにも唐突なことに、思わずしっぽをピンと立ててしまう。

「もちろん、魔王様のデザインされた服についてですわよ。頑張らせて頂きましたわ」

 どうやらクローゼは、俺が出ている間ずっと服を作り続けていたらしい。結構な数のデザイン画を置いていったはずなのだが、その全部を作り終えたというのだ。
 どういうことなのか確認するために、俺はクローゼに連れられてその部屋を訪れる。
 部屋の中を見て納得した。
 いやまぁ、並べられた服の数々を見て圧巻というべきだろうか。よく見ると肌着の類まで全部作られている。いや、さすがにやりすぎだろう。

「ささっ、魔王様。早速試して下さいな」

「へ?」

 クローゼから飛び出た言葉に、俺は思わず耳を疑った。
 だが、次の瞬間、俺は体を押さえつけられてしまう。
 何事かと思って見てみると、そこにはカスミとニーナの妹コンビの姿があった。

「ささ、魔王様。クローゼ様がせっかく作って下さったんです。お着替えしましょうね」

「そうですよ。お姉ちゃんってば、魔王様に着せようと一生懸命頑張ってくれたんですからね」

「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんで俺が、着なくちゃいけないんだよ!」

 二人にがっちりつかまれて身動きが取れない俺だが、必死に抵抗を試みる。俺のことの時の感情は耳にしっかりと表れていて、すっかり垂れ下がってしまっていた。

「ダメですよ、魔王様。クローゼの気持ちを無駄にしないで下さいませ」

「お、おい。キリエまでそっち側なのかよ」

「はい。魔王様が考案なさったデザインなのですから、魔王様にまずは着て頂きませんとね」

「そういう理屈かよ。おい、放せ。頼むからやめてくれ!」

 ところが、俺がどんなに叫ぼうとも、カスミもニーナも一向に放そうとしないし、キリエはクローゼと一緒にどれから着せようかと真剣に悩んでいた。
 結果、俺が描いたデザイン画数十枚分の衣装を着せ替えられる羽目になってしまった。
 終わった後の俺は、放心した状態で椅子に座っていた。

「さすがは魔王様。どの衣装もよくお似合いでしたわ」

「実際に着て頂くと、イメージが分かりやすいですね。弟や妹にプレゼントしてあげましょうかね」

「それはいいわね、キリエ姉。アラレとかシズクとか喜びそうだわ」

 知らない名前が出てくる。どうやらキリエの兄弟は人数が多いらしい。
 それにしてもアラレやシズクって、キリエの家ってそういう系統の名前で統一されているのだろうか。父親だってヒョウムだったし。
 とはいっても、ここは俺が前世でいた世界とは違うんだし、考えるだけ無駄だな。うん、やめやめ。

「気に入ってくれたなら嬉しい限りだよ。服装っていってもいろんなバリエーションがあるからな」

「ええ、楽しみにしております」

「ただ、俺を着せ替え人形にするのはやめてくれ。俺だってやることはたくさんあるんだ、こんな事でいちいち疲れてられないぜ……」

 俺は耳もしっぽも力なくだらりとさせて落ち込む。さっきの着せ替え人形状態は、本気で俺の心かなり抉ってくれたからな。元男として、女物の服装を大量に着させられるのはダメージがでかいんだ。
 じゃあなんで女物の服をたくさんデザインしたかと言ったら、周りに女が多いからだよ。キリエたちもそうだし、ピエラもそうだし、ウネだっているしな。それに薬師もほとんど女性だ。男といったら兵士たちがいるが……。
 その時、俺に衝撃が走る。

「魔王様、どうなさったのですか?」

「そうだよ、制服。制服があるじゃないか」

「制服、でございますか?」

 唐突な俺の発言に、顔をしかめるキリエ。

「そうそう、キリエたちが着ている侍女服のような制服。兵士と薬師たちにも作ってやれないかな」

「それはいいかもしれませんね。魔王様の配下ということを、しっかりと周りに示せますからね」

 キリエは考え込むような仕草をしながら、俺の意見に賛同してくれていた。
 そんなわけで、せっかく服を作る事業を始めたのだからと、魔王城の一部の面々に共通の意匠の服、制服を作ることになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...