異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第131話 転生者、久しぶりの土いじりをする

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 魔王領に来てからだいぶ経つというのに、まだまだ俺はやることに追われていた。
 自分の強さを示して魔王領内の平定はだいぶできたし、対人間国家に対しても、南方王国と西方王国に関してはほぼ決着がついた。
 東方帝国と北方聖国という懸念材料はあるものの、コモヤの報告では現状は問題なし。
 しばらくゆっくりできるかと思っていたのに、今の俺はまさかの制服づくりの真っ只中だった。
 いや、服飾事業を始めたのははっきりいって対人間の戦略のひとつにすぎなかったんだが、クローゼたちがかなり乗り気になってしまったがために、今ではその重要度が増してきてしまっていた。
 どうやら魔族たちもファッションには飢えていたようで、キリエやクローゼのお願いでやむなく着ている俺の衣装を見て、魔族たちのおしゃれ魂に火がついてしまったのだ。まったく、やれやれだぜ……。
 今日の俺は、デザイン画も大体描き終えたので、久しぶりにウネのところに顔を出していた。

「魔王様なのー」

 とててとウネが駆け寄ってくる。相変わらずドライアドは子どもみたいな姿だな。
 近寄ってきたウネの頭を、俺は笑顔で撫でる。ウネは嬉しそうに目を細めておとなしく撫でられていた。

「それにしても魔王様」

「なんだい、ウネ」

「今日の服、いつもと感じが違う。これどうしたの?」

 ウネが今俺が着ている服に興味津々のようだった。
 なにせ今の俺の格好は、普段の威厳も色気もすべてを投げ捨てた畑仕事用の服装だからな。
 その格好は、まるで前世の学校で着ていたようなジャージ姿なのだ。もちろん、ファスナーなんてものは再現できなかったので、そこだけは違った感じになっているがな。

「ああ、クローゼに作ってもらったんだ。畑仕事は汚れるから、そうなってもいいような服装をな」

「へえ、かっこいい」

「ほえ?」

 ウネから予想外な反応をもらって困惑する。ジャージがかっこいい?

「いいな。私も欲しいのー」

 予想外なことにウネからせがまれる。これは一体どうしたものだろうかな。俺は困った表情でしばらく立ち尽くしてしまった。
 俺がウネの相手で困り果てていると、薬草を収穫にしに来た薬師が俺たちを見つけて声を掛けてきた。

「魔王様、ごきげんようでございます」

「ああ、ごきげんよう」

 少々呆然としていた俺は、オウム返しのように挨拶を返す。

「あら、今日のお召し物も素敵でございますね、魔王様」

 薬師からもこう言われる始末だ。お世辞ではあるにしても、ジャージをそう評価されるのはなんともくすぐったくて困ったものだ。
 前世のイメージでは手軽でずぼらな格好というイメージが強いからな。学生時代はそんな事はなかったんだが、大人になってからすっかりそういうイメージで定着してしまっていたな。

「まぁ畑作業をしに来たからな。動きやすくて汚れてもいい格好をしてきたってわけだよ」

「なるほど、そういうわけなのですね」

 明るい表情で納得する薬師である。俺はなんとも複雑な気持ちになった。
 でも、ちょうどいいところに薬師が来てくれたので、密かに進行していることを話す。

「そうだ、薬師のみんなにお知らせがある。それとなしにみんなに伝えておいて欲しいんだ」

「なんでございましょうか」

 俺の言葉に、不思議そうな表情をして首を傾げている。

「ああ、魔王城の薬師だってわかるように、統一した服装を用意させてもらってるんだ。制服っていうやつなんだけど」

「まぁ、それは素晴らしいですね」

 両手をあごの前あたりで合わせて、ぱあっと明るい表情をする薬師。どうやら本気で嬉しいらしい。でもまあ、喜んでくれているのならいいかな。

「まぁ今はクローゼとニーナの姉妹が頑張って服を作ってくれている。でき上がりを楽しみにしていてくれ」

「はい!」

 満面の笑顔で大きな返事をする薬師。

「で、何をしに来たんだっけか。俺も手伝うよ」

 話が終わったところで、本来の話題に切り替える。

「ああ、そうでした。緑精の広葉を50枚ほど集めに来たんでした」

「分かった。緑精の広葉だな」

 話を聞き終わって、俺は薬師の要望を応えるために緑精の広葉を黙々と摘み取っていく。
 必要量を摘み終えると、ポンと薬師に手渡した。

「ありがとうございます」

「いいってことよ。その代わり、無理ない程度に薬の製作を頑張ってくれよ」

「はい、承知致しました」

 薬師は大事に緑精の広葉を抱きかかえて、研究室の方へと小走りに去っていった。

「さて、薬師の用事は終わったし、たまにはのんびりと畑をいじり倒して過ごすかな」

「わーいなのー」

 改めて腰に手を当てて畑を見る俺。
 結局、ウネと一緒に時間を忘れて畑どころか草花までいろいろと面倒を見ていた。
 気が付いたらもう空が赤く染まり始めていて、様子を見に来たキリエに怒られてしまった。

「それじゃあな、ウネ。今日は楽しかったよ」

「うん、魔王様。またなのー」

 俺が小さく手を振ると、ウネは両手を大きく掲げて元気よく左右に振っていた。
 久しぶりの畑いじりで気分転換ができた俺は、今日もまた魔王領のたまった仕事をにらめっこをして過ごしたのだった。
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