異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第133話 転生者、里帰りを目論む

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「バフォメット、西方王国との間の街道の整備の仕上げを頼む」

 その日の執務を終えた俺は、バフォメットを呼び出してそのように伝える。

「はて、なにゆえでわたくしめでございましょうか」

 急な話なので、さすがのバフォメットも疑問を感じているようだ。

「いやな、俺とピエラで一度里帰りしておこうと思ってな。それで南方王国に向かうことになるから、その間西方王国のことを頼みたいんだ」

「なるほどでございますね。そういうことでございましたら、お引き受け致しましょう」

「うむ、デザストレも使って構わないからな。俺からの命令だっていえばおとなしく聞いてくれるはずだ」

「承知致しました」

 バフォメットは深々と頭を下げて、早速そのための準備を始めたのだった。まったく、いつも行動が早くて助かるよ。
 バフォメットが行動を始めたのを確認すると、俺はその日は休んで翌日からに備えた。

 翌朝、朝食を食べ終えると、俺はカスミに伝える。

「カスミ、俺はピエラと一緒に南方王国に戻ってくる。なので、その間の城のことを頼むよ」

「えっ……、また唐突ですね。キリエ姉もいないっていうのに」

 露骨に嫌がる表情を見せるカスミ。まぁ、唐突なんで気持ちは分からなくはない。
 キリエはアラクネのところへ布地の取引に出ているし、バフォメットは西方王国への街道の整備に乗り出して不在だ。そこで俺まで居なくなると、一時的にではあるが、責任者が一切不在という状況ができ上がってしまうのだ。不安になるのも当然だった。

「ひとまずピエラが魔王城に戻ってくるまでは、俺は動くつもりはない。その間にやれるだけはやっておくつもりさ」

「まったく、魔王様ってば、結構思いつきで動きますね」

「……反省はしてるよ」

 カスミに痛いところを突かれて、俺はひとまず反省はする。
 だが、反省はしても繰り返さないかといったら、多分またやらかすだろうなと俺はつい笑ってしまう。

「まったく、振り回されるあたしたちの身にもなって下さいよ。多少の無茶は聞きますけれど、あまりやらかしますと、せっかくまとまりかかった魔族が分裂しかねませんからね」

「……反省するよ、うん」

 カスミから繰り出された正論に、俺はただただ頷くことしかできなかった。
 しかしだ。里帰りとは言ってはおいたが、バフォメットに任せておいた南方王国とのやり取りも、そろそろ直に俺が入って最終的に詰めておきたいのだ。
 南方王国内のことは、幼馴染みであるマールン一人にほぼ任せっきりだし、幼馴染みとして頼りきりはもう限界に来ているってわけなんだよ。
 俺たちの両親はそれこそ南方王国内では権力を持った家柄だし、両親を説得できれば南方王国との問題はほぼなくなる。西方王国との間の問題が落ち着いてきた今だからこそ、一気に問題を畳みかけておきたいというわけだ。

「とりあえず、バフォメットは昨日出ていったばかりだ。早くても今日の夕方までピエラはこっちに来ない。となると、南方王国へ発つのは、明日の朝が最速ってわけだな。それまでにやれるだけやって、十分な状態で出発するさ」

「本当に頼みますからね、魔王様」

 カスミはまだまだお怒りモードのようだ。
 思いつきでの行動は否めないので、俺は甘んじてその説教を受けておいた。

 その日の夕方、バフォメットから話を聞いたピエラが魔王城に戻ってきた。すぐさま俺の執務室にやってくる。

「ちょっと、セイ。聞いたわよ」

「やあ、ピエラ。早いお帰りだな」

 慌てた様子のピエラに、俺は落ち着いた様子で出迎える。

「そりゃ急いで帰ってくるわよ。南方王国に戻るですって? 正気なのかしら」

「ああ、正気も正気さ。心配事は早めに潰しておく方がいいからな」

 両肘をついて、目を光らせながらピエラに話す。俺の話を聞いて、ピエラは顔を押さえながら頭を左右に振っている。

「それに、魔王領にやって来てずいぶんと経っているから、たまの里帰りも悪くないと思うんだよ。俺の方はともかくとして、ピエラの両親は心配してただろう?」

「まぁ、うちの両親は確かにそうだけど……。それにしても急すぎるのよ」

 一瞬納得しかけたピエラだったが、やっぱり急だったことに再び怒り出してしまった。これは完全にタイミングが悪かったかな。

「せめて、キリエさんが戻ってきてからにしましょう。魔王城の中を統治できる人がいないと、いろいろと問題が起きるわよ」

「ああ、カスミとおんなじことを言ってやがる……」

「当たり前よ、セイ」

 俺は思わず虚無の顔になってしまう。
 結局この後は、ピエラから延々と説教と報告を受ける羽目になってしまった。そんなわけで、南方王国への里帰りは、キリエがニーナと一緒にアラクネの集落から戻ってくるまで延期された。
 なにせピエラが納得してないんだ。こればっかりは強行するというわけにはいかなかった。
 数日後、ようやくキリエたちがアラクネの集落から戻ってきた。なので、布地の扱いと魔王城のことをそのまま任せた俺は、ピエラと一緒に南方王国へ帰省するために魔王城を発ったのだった。
 当然のごとく、キリエに飽きられながらにはなったが、それでも快く送り出してもらえたことに少し安心したものだった。
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