135 / 431
第一章 大陸編
第135話 転生者、ハミングウェイ伯爵邸に入る
しおりを挟む
ピエラの家へやって来ると、つい懐かしい感覚になってしまう。最後にやって来たのは一体いつのことやら。
魔王を倒してからそんなに時間は経っていないはずなんだが、いろいろありすぎてもう何年も経ってしまったように感じてしまうぜ。
それは隣にいるピエラも同じようで、懐かしさのあまり棒立ちしてしまっている。
「ピエラ?」
「あっ、うん? ごめんなさい、ちょっと久しぶりだったから……」
俺が声を掛けると、ピエラはとても驚いたように反応をしていた。これだけ呆然としている方が俺としてはびっくりだったぜ。
ピエラというのはしっかりしているし、戦いにおいても的確に動いていたから、あまり呆然としているイメージがないんだよな。そのくらい、今回の里帰りは緊張しているのかもしれないな。
「ピエラ。とりあえず中に入ろうぜ」
「え、ええ。そうね」
俺の言葉にもどこか上の空だ。まったくどうしたというのだろうか。気にはなるが、とりあえずハミングウェイ家の門へと進んで行く。
屋敷の門に近付くと、門番がピエラに近付いて駆け寄ってくる。
「ピエラお嬢様、よくお戻りで」
当然だけど、俺のことはガン無視でピエラに声を掛けている。自分が仕える家の令嬢だからな、ピエラは。そりゃ心配するか。
「ささっ、旦那様のところまでご案内致します。あっ、そちらの獣人の方もどうぞどうぞ」
「おいおい、俺はただの獣人扱いかよ」
門番の扱いに、つい愚痴をこぼしてしまう。
先日もやって来た時に結構印象付けたつもりだったんだがな。門番相手じゃこんなもんかよ。
「え……と?」
本気で俺のことが分からないのか、門番は首を捻っている。まったく困ったもんだな。
「俺はセイだ。この姿になったせいで廃嫡されちまったが、コングラート家の長男だ。今は魔王領で魔王をしている」
「なんと、セイ様でしたか。これは失礼しました」
俺が名乗ると、門番は大きく後退っていた。ビビりすぎだろ、おい。
さっきまでとはまるっきり態度が変わった門番に案内されて、俺とピエラはハミングウェイ伯爵に会うことになった。
「伯爵様、お嬢様がお戻りになられました」
扉を叩いて部屋の中に呼び掛ける門番。
「通せ」
部屋の中からは短く返答があった。これに従って、門番は扉を開け、俺とピエラはハミングウェイ伯爵と顔を合わせた。
「うん? その姿はセイか。すっかり女性が板についてしまっておるな」
「お久しぶりです、伯爵」
言われた言葉への反応に困りながら、俺はとりあえず挨拶をしておく。
一応今の俺は魔王であり女性であるので、挨拶は女性型で行う。
「しかし、本当にもったいないことになったな」
「何がでございましょうか」
伯爵の言葉に、俺は思わず首を傾げる。
「いやな、セイが男のままだったらピエラと結婚させようと考えていたのだよ。だが、今は罪人扱いの上に女性だろう? ピエラの嫁ぎ先をすっかり失ってしまってな……」
「お父様、それはここで今話す事ですか!」
伯爵の言葉にピエラが真っ赤になりながら文句を言っている。自分の身の上話をされて恥ずかしがっているようだ。
「まあまあ、ピエラ落ち着けって。里帰り早々に親子ゲンカはやめような?」
俺はピエラの前に立ってひとまず落ち着かせる。そのかいあってか、ピエラは徐々に落ち着きを取り戻していった。
「伯爵もひどいですよ。門番もいるっていうのにピエラの身の上を暴露するのは、さすがに可哀想ですって」
「いやはや、すまんな。セイの姿を見てつい……な」
俺のせいかとあんぐりとしてしまう。さすがに頭が痛くなってくるぜ。
「まったく、そんなんじゃせっかくこっちに来たっていうのに、話をするのに躊躇してしまいますよ。デリカシーのかけらもないのかって」
「ほう、どういう話をしに来たというのかな」
腕を組んで足をパタパタとしながら話すと、伯爵は興味を示したようだ。
伯爵の態度を見て、俺は体の動きを止める。ただ、だからといってすぐには本題に切り込まない。ここは少しじらすというものだ。
「話をしたいのは山々ですが、俺たちは長旅を終えてきたばかりなのです。少し休ませて頂いて、食事の席でその話をさせて頂いてもよろしいですか?」
「ふむ、それもそうだな。すぐさま湯浴みの準備もさせるからピエラの部屋で休んでいてくれ」
伯爵はこう告げると、使用人を呼んで湯浴みと夕食の支度の指示を出していた。
それと同時に、俺はピエラと一緒に部屋へと移動する。ただ、俺とピエラを一緒の部屋にしていいのかという疑問がある。だが、今は女性同士だからと時に気にした様子は見受けられなかった。えぇ……。
何気に初めて入るピエラの部屋は、きれいにされていてピカピカだった。部屋の主であるピエラはすっかり魔王領の住人だというのに、いつ戻ってきてもいいように手入れは怠っていなかったようだ。
それからしばらくの間、俺たちは湯浴みに呼ばれるまでの間、ひと言も交わすことなく体を休めて過ごしたのだった。
湯浴みを終えてさっぱりした後は、服を着替えていよいよ伯爵との夕食の席だ。
いろいろと話をする事が多いので、俺は頬を打って気合いを入れて食事に向かったのだった。
魔王を倒してからそんなに時間は経っていないはずなんだが、いろいろありすぎてもう何年も経ってしまったように感じてしまうぜ。
それは隣にいるピエラも同じようで、懐かしさのあまり棒立ちしてしまっている。
「ピエラ?」
「あっ、うん? ごめんなさい、ちょっと久しぶりだったから……」
俺が声を掛けると、ピエラはとても驚いたように反応をしていた。これだけ呆然としている方が俺としてはびっくりだったぜ。
ピエラというのはしっかりしているし、戦いにおいても的確に動いていたから、あまり呆然としているイメージがないんだよな。そのくらい、今回の里帰りは緊張しているのかもしれないな。
「ピエラ。とりあえず中に入ろうぜ」
「え、ええ。そうね」
俺の言葉にもどこか上の空だ。まったくどうしたというのだろうか。気にはなるが、とりあえずハミングウェイ家の門へと進んで行く。
屋敷の門に近付くと、門番がピエラに近付いて駆け寄ってくる。
「ピエラお嬢様、よくお戻りで」
当然だけど、俺のことはガン無視でピエラに声を掛けている。自分が仕える家の令嬢だからな、ピエラは。そりゃ心配するか。
「ささっ、旦那様のところまでご案内致します。あっ、そちらの獣人の方もどうぞどうぞ」
「おいおい、俺はただの獣人扱いかよ」
門番の扱いに、つい愚痴をこぼしてしまう。
先日もやって来た時に結構印象付けたつもりだったんだがな。門番相手じゃこんなもんかよ。
「え……と?」
本気で俺のことが分からないのか、門番は首を捻っている。まったく困ったもんだな。
「俺はセイだ。この姿になったせいで廃嫡されちまったが、コングラート家の長男だ。今は魔王領で魔王をしている」
「なんと、セイ様でしたか。これは失礼しました」
俺が名乗ると、門番は大きく後退っていた。ビビりすぎだろ、おい。
さっきまでとはまるっきり態度が変わった門番に案内されて、俺とピエラはハミングウェイ伯爵に会うことになった。
「伯爵様、お嬢様がお戻りになられました」
扉を叩いて部屋の中に呼び掛ける門番。
「通せ」
部屋の中からは短く返答があった。これに従って、門番は扉を開け、俺とピエラはハミングウェイ伯爵と顔を合わせた。
「うん? その姿はセイか。すっかり女性が板についてしまっておるな」
「お久しぶりです、伯爵」
言われた言葉への反応に困りながら、俺はとりあえず挨拶をしておく。
一応今の俺は魔王であり女性であるので、挨拶は女性型で行う。
「しかし、本当にもったいないことになったな」
「何がでございましょうか」
伯爵の言葉に、俺は思わず首を傾げる。
「いやな、セイが男のままだったらピエラと結婚させようと考えていたのだよ。だが、今は罪人扱いの上に女性だろう? ピエラの嫁ぎ先をすっかり失ってしまってな……」
「お父様、それはここで今話す事ですか!」
伯爵の言葉にピエラが真っ赤になりながら文句を言っている。自分の身の上話をされて恥ずかしがっているようだ。
「まあまあ、ピエラ落ち着けって。里帰り早々に親子ゲンカはやめような?」
俺はピエラの前に立ってひとまず落ち着かせる。そのかいあってか、ピエラは徐々に落ち着きを取り戻していった。
「伯爵もひどいですよ。門番もいるっていうのにピエラの身の上を暴露するのは、さすがに可哀想ですって」
「いやはや、すまんな。セイの姿を見てつい……な」
俺のせいかとあんぐりとしてしまう。さすがに頭が痛くなってくるぜ。
「まったく、そんなんじゃせっかくこっちに来たっていうのに、話をするのに躊躇してしまいますよ。デリカシーのかけらもないのかって」
「ほう、どういう話をしに来たというのかな」
腕を組んで足をパタパタとしながら話すと、伯爵は興味を示したようだ。
伯爵の態度を見て、俺は体の動きを止める。ただ、だからといってすぐには本題に切り込まない。ここは少しじらすというものだ。
「話をしたいのは山々ですが、俺たちは長旅を終えてきたばかりなのです。少し休ませて頂いて、食事の席でその話をさせて頂いてもよろしいですか?」
「ふむ、それもそうだな。すぐさま湯浴みの準備もさせるからピエラの部屋で休んでいてくれ」
伯爵はこう告げると、使用人を呼んで湯浴みと夕食の支度の指示を出していた。
それと同時に、俺はピエラと一緒に部屋へと移動する。ただ、俺とピエラを一緒の部屋にしていいのかという疑問がある。だが、今は女性同士だからと時に気にした様子は見受けられなかった。えぇ……。
何気に初めて入るピエラの部屋は、きれいにされていてピカピカだった。部屋の主であるピエラはすっかり魔王領の住人だというのに、いつ戻ってきてもいいように手入れは怠っていなかったようだ。
それからしばらくの間、俺たちは湯浴みに呼ばれるまでの間、ひと言も交わすことなく体を休めて過ごしたのだった。
湯浴みを終えてさっぱりした後は、服を着替えていよいよ伯爵との夕食の席だ。
いろいろと話をする事が多いので、俺は頬を打って気合いを入れて食事に向かったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる