異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第135話 転生者、ハミングウェイ伯爵邸に入る

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 ピエラの家へやって来ると、つい懐かしい感覚になってしまう。最後にやって来たのは一体いつのことやら。
 魔王を倒してからそんなに時間は経っていないはずなんだが、いろいろありすぎてもう何年も経ってしまったように感じてしまうぜ。
 それは隣にいるピエラも同じようで、懐かしさのあまり棒立ちしてしまっている。

「ピエラ?」

「あっ、うん? ごめんなさい、ちょっと久しぶりだったから……」

 俺が声を掛けると、ピエラはとても驚いたように反応をしていた。これだけ呆然としている方が俺としてはびっくりだったぜ。
 ピエラというのはしっかりしているし、戦いにおいても的確に動いていたから、あまり呆然としているイメージがないんだよな。そのくらい、今回の里帰りは緊張しているのかもしれないな。

「ピエラ。とりあえず中に入ろうぜ」

「え、ええ。そうね」

 俺の言葉にもどこか上の空だ。まったくどうしたというのだろうか。気にはなるが、とりあえずハミングウェイ家の門へと進んで行く。
 屋敷の門に近付くと、門番がピエラに近付いて駆け寄ってくる。

「ピエラお嬢様、よくお戻りで」

 当然だけど、俺のことはガン無視でピエラに声を掛けている。自分が仕える家の令嬢だからな、ピエラは。そりゃ心配するか。

「ささっ、旦那様のところまでご案内致します。あっ、そちらの獣人の方もどうぞどうぞ」

「おいおい、俺はただの獣人扱いかよ」

 門番の扱いに、つい愚痴をこぼしてしまう。
 先日もやって来た時に結構印象付けたつもりだったんだがな。門番相手じゃこんなもんかよ。

「え……と?」

 本気で俺のことが分からないのか、門番は首を捻っている。まったく困ったもんだな。

「俺はセイだ。この姿になったせいで廃嫡されちまったが、コングラート家の長男だ。今は魔王領で魔王をしている」

「なんと、セイ様でしたか。これは失礼しました」

 俺が名乗ると、門番は大きく後退っていた。ビビりすぎだろ、おい。
 さっきまでとはまるっきり態度が変わった門番に案内されて、俺とピエラはハミングウェイ伯爵に会うことになった。

「伯爵様、お嬢様がお戻りになられました」

 扉を叩いて部屋の中に呼び掛ける門番。

「通せ」

 部屋の中からは短く返答があった。これに従って、門番は扉を開け、俺とピエラはハミングウェイ伯爵と顔を合わせた。

「うん? その姿はセイか。すっかり女性が板についてしまっておるな」

「お久しぶりです、伯爵」

 言われた言葉への反応に困りながら、俺はとりあえず挨拶をしておく。
 一応今の俺は魔王であり女性であるので、挨拶は女性型で行う。

「しかし、本当にもったいないことになったな」

「何がでございましょうか」

 伯爵の言葉に、俺は思わず首を傾げる。

「いやな、セイが男のままだったらピエラと結婚させようと考えていたのだよ。だが、今は罪人扱いの上に女性だろう? ピエラの嫁ぎ先をすっかり失ってしまってな……」

「お父様、それはここで今話す事ですか!」

 伯爵の言葉にピエラが真っ赤になりながら文句を言っている。自分の身の上話をされて恥ずかしがっているようだ。

「まあまあ、ピエラ落ち着けって。里帰り早々に親子ゲンカはやめような?」

 俺はピエラの前に立ってひとまず落ち着かせる。そのかいあってか、ピエラは徐々に落ち着きを取り戻していった。

「伯爵もひどいですよ。門番もいるっていうのにピエラの身の上を暴露するのは、さすがに可哀想ですって」

「いやはや、すまんな。セイの姿を見てつい……な」

 俺のせいかとあんぐりとしてしまう。さすがに頭が痛くなってくるぜ。

「まったく、そんなんじゃせっかくこっちに来たっていうのに、話をするのに躊躇してしまいますよ。デリカシーのかけらもないのかって」

「ほう、どういう話をしに来たというのかな」

 腕を組んで足をパタパタとしながら話すと、伯爵は興味を示したようだ。
 伯爵の態度を見て、俺は体の動きを止める。ただ、だからといってすぐには本題に切り込まない。ここは少しじらすというものだ。

「話をしたいのは山々ですが、俺たちは長旅を終えてきたばかりなのです。少し休ませて頂いて、食事の席でその話をさせて頂いてもよろしいですか?」

「ふむ、それもそうだな。すぐさま湯浴みの準備もさせるからピエラの部屋で休んでいてくれ」

 伯爵はこう告げると、使用人を呼んで湯浴みと夕食の支度の指示を出していた。
 それと同時に、俺はピエラと一緒に部屋へと移動する。ただ、俺とピエラを一緒の部屋にしていいのかという疑問がある。だが、今は女性同士だからと時に気にした様子は見受けられなかった。えぇ……。
 何気に初めて入るピエラの部屋は、きれいにされていてピカピカだった。部屋の主であるピエラはすっかり魔王領の住人だというのに、いつ戻ってきてもいいように手入れは怠っていなかったようだ。
 それからしばらくの間、俺たちは湯浴みに呼ばれるまでの間、ひと言も交わすことなく体を休めて過ごしたのだった。
 湯浴みを終えてさっぱりした後は、服を着替えていよいよ伯爵との夕食の席だ。
 いろいろと話をする事が多いので、俺は頬を打って気合いを入れて食事に向かったのだった。
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