138 / 431
第一章 大陸編
第138話 転生者、気まずさを覚える
しおりを挟む
翌朝、俺は小鳥のさえずりで目が覚める。
どうやら使用人の部屋は外の音がよく聞こえるようになっているようだ。
「ふわぁ~……。よく寝たは寝たが、寝付くまでが大変だったな……」
俺はぼりぼりと頭をかいている。よく寝たはずなんだが、どうも眠くてたまらない。
それというのも、昨夜はピエラの思わぬ行動でびっくりしたからだ。そのせいで寝つきが悪かったので、寝起きもこの様というわけだ。
(まったく、あんな事があったんじゃ、どんな顔をしてピエラと会えばいいんだよ……)
上半身だけ起こして悩むが、この後はどのみち食事で顔を合わせなければならない。俺はいつまでもぐずってられないなと、意を決してベッドから抜け出した。
寝間着から服を着替えるが、まったく女物の服装に抵抗がなくなったあたり、慣れというものを実感させられる。一体どういう感情でピエラと向き合っているのか、段々と分からなくなってきた気がして怖いぜ。
「すぅ……はぁ~……」
俺は気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。
「よし!」
最後に両頬を手で叩いて気合いを入れ直すと、使用人の部屋を出てピエラに会うことにした。
「あ……」
部屋を出るや否や、俺とピエラの目がばっちり合ってしまった。思わずピエラの口からこぼれた言葉に、俺たちの現状がすべて詰まっている気がする。
まったくもって気まずいばかりだな。
「おはようございます、お嬢様、セイ様」
「どわっ!」
突然現れた侍女に、俺は大声で驚いてしまう。心臓がバクバクいうくらいだから、本当にマジでびびったというものだ。
ただ、そのびっくりした動作に、ピエラと侍女から冷たい視線を向けられてしまった。なんかやらかしたか、俺。
「まったく、セイ様も大げさでございますね」
侍女は頬に手を当ててため息をついている。
そういえばこの侍女は、昔っからずっとピエラに仕えていた侍女だ。ピエラが家を飛び出した今、一体どうしているのだろうか。
「なんですか、セイ様」
俺がじっと視線を向けると、侍女はむっとした顔をする。ちょっと凝視し過ぎちまったか。
「いや、確かピエラの専属侍女だったなと思い出してな。今はどうしてるのか気になったんだ」
「そういえばそうだったわね。どうしているのかしら」
ピエラも思い出したのか、心配した様子で侍女の顔を見ている。そのピエラの表情に侍女は困惑した表情を見せている。
「今は侍女長の補佐をしております。本来は置かれていなかった地位なのですが、お嬢様がいつ戻られてもいいようにと、旦那様がご用意くださったのです」
「そうなのですね。元気そうで安心しました」
侍女の話を聞いて、ほっと安心するピエラである。
「本当はお嬢様についていきたかったのですが、魔王領とあっては一般人の私には無謀でしたからね」
主を目の前にして本音を漏らす侍女である。
「おほん、世間話をしている場合ではありませんでした。朝食の準備が整いましたので、支度をお願い致します」
「分かりました。すぐに向かいます」
ようやく本来の用件を伝え終えた侍女に、ピエラはにこやかに答えていた。
その表情のままに俺の方へと顔を向けるピエラ。さっきまでの気まずさはどこへやら。俺はこくりと頷いてピエラと一緒に侍女の後ろをついていった。
伯爵との朝食の席。
そこではやっぱり国王との謁見の話が飛び出してきた。昨夜俺が話した内容を、もう一度国王とじっくり話をするためだ。
「やっぱり、国家事業レベルになりますかね」
「それは当然だ。魔王であるセイが勝手にやった事とはいえ、魔王領は今は南方王国の領土の一部だ、南方王国が管理しなければならない話なんだよ」
「対外的にはまだ発表してませんよね。それで他の国は納得すると思われますか?」
伯爵の説明に、ピエラが疑問を呈している。これには伯爵も険しい表情をしている。
「そこなのだよな、結局は。以前の魔王を討伐したことを他の国に一切公表していない、これが問題をややこしくしているのだよ」
伯爵は大きなため息をついている。
ただ、本来ならば大々的に発表したかったはずである。それがこんな風になったのは、どうも魔王を討伐した俺の状況が影響しているらしい。
「セイが魔王の呪いを受けて眠り続けた上に、獣人となってしまった。このことで、陛下は魔王を討伐したことを対外的に話すタイミングを失ってしまったのだ」
「俺のせいだっていうんですか?!」
当然ながら、俺は声を荒げて反論する。伯爵も渋い顔をするくらい、俺の反論を重く受け止めているようだ。
「私としてはそうは考えていない。偶然が重なった結果だと思う」
伯爵は言葉を選んでいるようだ。眉間に寄りまくったしわが、伯爵の苦悩を物語っている。
「ともかく、ここは一度陛下とお会いしてきちんと話をしておく必要がある。今回は私も参列して話をするから、この件には一度ちゃんと決着をつけておこう」
「分かりました。伯爵にそこまで言われては、俺としてもちゃんと決着はつけておきたいですね。戻るなり連行されるのは勘弁ですよ」
「まったくだわ」
巻き込まれたピエラも険しい表情で頷いている。
そんなこんなで、食事を終えた俺たちはこの件に決着をつけるべく、再び王城へと向かうこととなったのだった。
どうやら使用人の部屋は外の音がよく聞こえるようになっているようだ。
「ふわぁ~……。よく寝たは寝たが、寝付くまでが大変だったな……」
俺はぼりぼりと頭をかいている。よく寝たはずなんだが、どうも眠くてたまらない。
それというのも、昨夜はピエラの思わぬ行動でびっくりしたからだ。そのせいで寝つきが悪かったので、寝起きもこの様というわけだ。
(まったく、あんな事があったんじゃ、どんな顔をしてピエラと会えばいいんだよ……)
上半身だけ起こして悩むが、この後はどのみち食事で顔を合わせなければならない。俺はいつまでもぐずってられないなと、意を決してベッドから抜け出した。
寝間着から服を着替えるが、まったく女物の服装に抵抗がなくなったあたり、慣れというものを実感させられる。一体どういう感情でピエラと向き合っているのか、段々と分からなくなってきた気がして怖いぜ。
「すぅ……はぁ~……」
俺は気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。
「よし!」
最後に両頬を手で叩いて気合いを入れ直すと、使用人の部屋を出てピエラに会うことにした。
「あ……」
部屋を出るや否や、俺とピエラの目がばっちり合ってしまった。思わずピエラの口からこぼれた言葉に、俺たちの現状がすべて詰まっている気がする。
まったくもって気まずいばかりだな。
「おはようございます、お嬢様、セイ様」
「どわっ!」
突然現れた侍女に、俺は大声で驚いてしまう。心臓がバクバクいうくらいだから、本当にマジでびびったというものだ。
ただ、そのびっくりした動作に、ピエラと侍女から冷たい視線を向けられてしまった。なんかやらかしたか、俺。
「まったく、セイ様も大げさでございますね」
侍女は頬に手を当ててため息をついている。
そういえばこの侍女は、昔っからずっとピエラに仕えていた侍女だ。ピエラが家を飛び出した今、一体どうしているのだろうか。
「なんですか、セイ様」
俺がじっと視線を向けると、侍女はむっとした顔をする。ちょっと凝視し過ぎちまったか。
「いや、確かピエラの専属侍女だったなと思い出してな。今はどうしてるのか気になったんだ」
「そういえばそうだったわね。どうしているのかしら」
ピエラも思い出したのか、心配した様子で侍女の顔を見ている。そのピエラの表情に侍女は困惑した表情を見せている。
「今は侍女長の補佐をしております。本来は置かれていなかった地位なのですが、お嬢様がいつ戻られてもいいようにと、旦那様がご用意くださったのです」
「そうなのですね。元気そうで安心しました」
侍女の話を聞いて、ほっと安心するピエラである。
「本当はお嬢様についていきたかったのですが、魔王領とあっては一般人の私には無謀でしたからね」
主を目の前にして本音を漏らす侍女である。
「おほん、世間話をしている場合ではありませんでした。朝食の準備が整いましたので、支度をお願い致します」
「分かりました。すぐに向かいます」
ようやく本来の用件を伝え終えた侍女に、ピエラはにこやかに答えていた。
その表情のままに俺の方へと顔を向けるピエラ。さっきまでの気まずさはどこへやら。俺はこくりと頷いてピエラと一緒に侍女の後ろをついていった。
伯爵との朝食の席。
そこではやっぱり国王との謁見の話が飛び出してきた。昨夜俺が話した内容を、もう一度国王とじっくり話をするためだ。
「やっぱり、国家事業レベルになりますかね」
「それは当然だ。魔王であるセイが勝手にやった事とはいえ、魔王領は今は南方王国の領土の一部だ、南方王国が管理しなければならない話なんだよ」
「対外的にはまだ発表してませんよね。それで他の国は納得すると思われますか?」
伯爵の説明に、ピエラが疑問を呈している。これには伯爵も険しい表情をしている。
「そこなのだよな、結局は。以前の魔王を討伐したことを他の国に一切公表していない、これが問題をややこしくしているのだよ」
伯爵は大きなため息をついている。
ただ、本来ならば大々的に発表したかったはずである。それがこんな風になったのは、どうも魔王を討伐した俺の状況が影響しているらしい。
「セイが魔王の呪いを受けて眠り続けた上に、獣人となってしまった。このことで、陛下は魔王を討伐したことを対外的に話すタイミングを失ってしまったのだ」
「俺のせいだっていうんですか?!」
当然ながら、俺は声を荒げて反論する。伯爵も渋い顔をするくらい、俺の反論を重く受け止めているようだ。
「私としてはそうは考えていない。偶然が重なった結果だと思う」
伯爵は言葉を選んでいるようだ。眉間に寄りまくったしわが、伯爵の苦悩を物語っている。
「ともかく、ここは一度陛下とお会いしてきちんと話をしておく必要がある。今回は私も参列して話をするから、この件には一度ちゃんと決着をつけておこう」
「分かりました。伯爵にそこまで言われては、俺としてもちゃんと決着はつけておきたいですね。戻るなり連行されるのは勘弁ですよ」
「まったくだわ」
巻き込まれたピエラも険しい表情で頷いている。
そんなこんなで、食事を終えた俺たちはこの件に決着をつけるべく、再び王城へと向かうこととなったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる