異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第138話 転生者、気まずさを覚える

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 翌朝、俺は小鳥のさえずりで目が覚める。
 どうやら使用人の部屋は外の音がよく聞こえるようになっているようだ。

「ふわぁ~……。よく寝たは寝たが、寝付くまでが大変だったな……」

 俺はぼりぼりと頭をかいている。よく寝たはずなんだが、どうも眠くてたまらない。
 それというのも、昨夜はピエラの思わぬ行動でびっくりしたからだ。そのせいで寝つきが悪かったので、寝起きもこの様というわけだ。

(まったく、あんな事があったんじゃ、どんな顔をしてピエラと会えばいいんだよ……)

 上半身だけ起こして悩むが、この後はどのみち食事で顔を合わせなければならない。俺はいつまでもぐずってられないなと、意を決してベッドから抜け出した。
 寝間着から服を着替えるが、まったく女物の服装に抵抗がなくなったあたり、慣れというものを実感させられる。一体どういう感情でピエラと向き合っているのか、段々と分からなくなってきた気がして怖いぜ。

「すぅ……はぁ~……」

 俺は気持ちを落ち着かせるために深呼吸をする。

「よし!」

 最後に両頬を手で叩いて気合いを入れ直すと、使用人の部屋を出てピエラに会うことにした。

「あ……」

 部屋を出るや否や、俺とピエラの目がばっちり合ってしまった。思わずピエラの口からこぼれた言葉に、俺たちの現状がすべて詰まっている気がする。
 まったくもって気まずいばかりだな。

「おはようございます、お嬢様、セイ様」

「どわっ!」

 突然現れた侍女に、俺は大声で驚いてしまう。心臓がバクバクいうくらいだから、本当にマジでびびったというものだ。
 ただ、そのびっくりした動作に、ピエラと侍女から冷たい視線を向けられてしまった。なんかやらかしたか、俺。

「まったく、セイ様も大げさでございますね」

 侍女は頬に手を当ててため息をついている。
 そういえばこの侍女は、昔っからずっとピエラに仕えていた侍女だ。ピエラが家を飛び出した今、一体どうしているのだろうか。

「なんですか、セイ様」

 俺がじっと視線を向けると、侍女はむっとした顔をする。ちょっと凝視し過ぎちまったか。

「いや、確かピエラの専属侍女だったなと思い出してな。今はどうしてるのか気になったんだ」

「そういえばそうだったわね。どうしているのかしら」

 ピエラも思い出したのか、心配した様子で侍女の顔を見ている。そのピエラの表情に侍女は困惑した表情を見せている。

「今は侍女長の補佐をしております。本来は置かれていなかった地位なのですが、お嬢様がいつ戻られてもいいようにと、旦那様がご用意くださったのです」

「そうなのですね。元気そうで安心しました」

 侍女の話を聞いて、ほっと安心するピエラである。

「本当はお嬢様についていきたかったのですが、魔王領とあっては一般人の私には無謀でしたからね」

 主を目の前にして本音を漏らす侍女である。

「おほん、世間話をしている場合ではありませんでした。朝食の準備が整いましたので、支度をお願い致します」

「分かりました。すぐに向かいます」

 ようやく本来の用件を伝え終えた侍女に、ピエラはにこやかに答えていた。
 その表情のままに俺の方へと顔を向けるピエラ。さっきまでの気まずさはどこへやら。俺はこくりと頷いてピエラと一緒に侍女の後ろをついていった。

 伯爵との朝食の席。
 そこではやっぱり国王との謁見の話が飛び出してきた。昨夜俺が話した内容を、もう一度国王とじっくり話をするためだ。

「やっぱり、国家事業レベルになりますかね」

「それは当然だ。魔王であるセイが勝手にやった事とはいえ、魔王領は今は南方王国の領土の一部だ、南方王国が管理しなければならない話なんだよ」

「対外的にはまだ発表してませんよね。それで他の国は納得すると思われますか?」

 伯爵の説明に、ピエラが疑問を呈している。これには伯爵も険しい表情をしている。

「そこなのだよな、結局は。以前の魔王を討伐したことを他の国に一切公表していない、これが問題をややこしくしているのだよ」

 伯爵は大きなため息をついている。
 ただ、本来ならば大々的に発表したかったはずである。それがこんな風になったのは、どうも魔王を討伐した俺の状況が影響しているらしい。

「セイが魔王の呪いを受けて眠り続けた上に、獣人となってしまった。このことで、陛下は魔王を討伐したことを対外的に話すタイミングを失ってしまったのだ」

「俺のせいだっていうんですか?!」

 当然ながら、俺は声を荒げて反論する。伯爵も渋い顔をするくらい、俺の反論を重く受け止めているようだ。

「私としてはそうは考えていない。偶然が重なった結果だと思う」

 伯爵は言葉を選んでいるようだ。眉間に寄りまくったしわが、伯爵の苦悩を物語っている。

「ともかく、ここは一度陛下とお会いしてきちんと話をしておく必要がある。今回は私も参列して話をするから、この件には一度ちゃんと決着をつけておこう」

「分かりました。伯爵にそこまで言われては、俺としてもちゃんと決着はつけておきたいですね。戻るなり連行されるのは勘弁ですよ」

「まったくだわ」

 巻き込まれたピエラも険しい表情で頷いている。
 そんなこんなで、食事を終えた俺たちはこの件に決着をつけるべく、再び王城へと向かうこととなったのだった。
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