144 / 431
第一章 大陸編
第144話 転生者、自業自得に苦しむ
しおりを挟む
こうして、全部で5つある宿場町に配布する羽毛布団は完成した。
町長とその補佐、それと宿場町の四人部屋三室分と経営者の分、ひとつの宿場町につき全部で15セットの羽毛布団が配布される。
宿場町へのお届けはキリエとバフォメットの二人が担当する。俺はその間、兵士たちの訓練を見たり、事務作業をしたりといつものように過ごしていた。
「いやぁ、全部で80セットくらい作ったかな。さすがにやりすぎて肩が凝った気がするぜ」
肩に手を当てて、首を左右に振る。心なしか、何か音が鳴ったような気がした。まったく転生してから肩こりとは無縁とは思ってたが、やっぱりやりすぎはよくなかったな。
実質ほとんど魔法でやり遂げたとはいえ、あれだけ長時間魔法を使い続けていたのは実は初めてだった。そのせいで魔力に滞りが出て肩こりを引き起こしているようだ。まったく、肉体疲労と同じように魔力疲労が起きるとは思わなかったぜ。
普段の仕事に加えて、羽毛布団の製作にあれだけ打ち込んでたからな、体が悲鳴を上げるのも無理はないか。
というわけで、俺は無理をしないように仕事をしながら、キリエとバフォメットが戻ってくるのを待ったのだった。
そうして、配り終えた二人が5日後には戻ってくる。
「ただいま戻りました、魔王様」
執務室で作業をする俺の前に、二人揃って跪いていた。いや、確かに魔王と部下とはいえ、そこまで仰々しい態度を取らなくてもいいからな。
忠誠心は嬉しいのだが、俺はひとまず二人を立たせる。そして、テーブルを囲むソファーに座るように命じる。
二人はおとなしく従って、応接用のテーブルを囲む。
「では、報告を聞こうかな」
俺もソファーに座ると、二人からの報告を聞くことにした。
結果としては、やっぱり好評だったようだ。ただ、宿の方はお客がまだ泊まっていないとあって、感想を聞くにはまだ時間がかかりそうだった。それでも宿の経営者は早速使ってくれたようで、そちらからはいい感触が得られたようだ。
「ふむ、魔族の面々からは総じて好評というわけか」
「その通りでございますな。そもそも布団で眠るという習慣のない魔族もいますゆえ、広めるには苦労しそうですな」
「南方王国との間には、リザードマンとマーマンのいる街がありますからね。そちらは布団は要らないという反応はされましたね」
「まぁそうだろうな」
バフォメットの話を受けてのキリエの報告だ。リザードマンとマーマンという点から、二番目の宿場町の話で間違いはない。
町長のザルドンがリザードマンで、補佐をするモリーがマーマンだ。特にマーマンが布団で寝るという姿は、確かに想像できたものではなかった。
「ただ、ザルドン殿は羽毛布団を試されて絶賛しておりました。モリー殿はどうあがいても使われないでしょうから、その余った分はひとまず宿へと預けて参りました」
「うむ、それでいいだろうな。無駄にしないのが一番だ」
キリエの報告に、俺はこくりと頷いておいた。
とりあえず、モリー以外は羽毛布団が受け入れられたようなので、あとは経過の観察といったところだな。仕事に支障が出れば、それはそれでまた問題だし、改善する必要が出てくるもんな。
というわけで、俺は二人には定期的に報告をもらうように話をしておいた。だが、当然ながら優秀な二人はそれを既に実行していた。俺要らねえじゃん。
あまりにも優秀な二人ゆえに、俺はついつい悶々としてしまう。
俺が渋い表情をしていると、見かねたキリエとバフォメットは俺へと顔を向けて声を掛けてきた。
「そのような顔をしないで下さいませ、魔王様」
「そうですよ。魔王様がいらっしゃるからこそ、私どもはそれに沿って行動をすることができるのです。私たちのことは、手足のように使って下さいませ」
慰められてるのか責められているのよく分からんが、気を遣ってくれていることはよく分かった。
ここで荒れても意味がないので、俺はおとなしく二人の気遣いに屈することにしたのだった。
「しばらく俺は魔王城と魔王領のことに集中するから、街道の件は二人に任せるよ」
「はっ、お任せ下さいませ」
キリエとバフォメットは力強く返事をすると、部屋からバタバタと出ていった。
二人が出ていき、再び一人となった俺は疲れたように大きく息を吐く。
「ふぅ、よくあの二人も俺の思いつきの行動について来てくれるよな。俺ももっとしっかりしないとな、あの二人に申し訳なさすぎるぜ……」
大きく自己嫌悪のため息をついた俺は、執務机の方へと戻っていく。うだうだしているくらいなら、やることをやってやる。
社畜生活で身に付いた習慣だが、こういう時は実にありがたく思うぜ。
そんなわけで、俺は二人が街道に集中できるように、それ以外の魔王領に関する雑務の数々を片付けていく。
俺の思いつきのせいで、魔王領の中には処理しきれない状況がたくさん出てきていた。はっきり言って自業自得だ。
だからこそ、俺は自分でその尻拭いを頑張っているというわけだ。反発も予想できたのに、強引に進め過ぎたツケが回ってきたってわけだ。
過去の自分の軽薄な行動を反省しつつ、魔王領の安定のために俺はしばらくは不眠不休気味で頑張るのだった。
町長とその補佐、それと宿場町の四人部屋三室分と経営者の分、ひとつの宿場町につき全部で15セットの羽毛布団が配布される。
宿場町へのお届けはキリエとバフォメットの二人が担当する。俺はその間、兵士たちの訓練を見たり、事務作業をしたりといつものように過ごしていた。
「いやぁ、全部で80セットくらい作ったかな。さすがにやりすぎて肩が凝った気がするぜ」
肩に手を当てて、首を左右に振る。心なしか、何か音が鳴ったような気がした。まったく転生してから肩こりとは無縁とは思ってたが、やっぱりやりすぎはよくなかったな。
実質ほとんど魔法でやり遂げたとはいえ、あれだけ長時間魔法を使い続けていたのは実は初めてだった。そのせいで魔力に滞りが出て肩こりを引き起こしているようだ。まったく、肉体疲労と同じように魔力疲労が起きるとは思わなかったぜ。
普段の仕事に加えて、羽毛布団の製作にあれだけ打ち込んでたからな、体が悲鳴を上げるのも無理はないか。
というわけで、俺は無理をしないように仕事をしながら、キリエとバフォメットが戻ってくるのを待ったのだった。
そうして、配り終えた二人が5日後には戻ってくる。
「ただいま戻りました、魔王様」
執務室で作業をする俺の前に、二人揃って跪いていた。いや、確かに魔王と部下とはいえ、そこまで仰々しい態度を取らなくてもいいからな。
忠誠心は嬉しいのだが、俺はひとまず二人を立たせる。そして、テーブルを囲むソファーに座るように命じる。
二人はおとなしく従って、応接用のテーブルを囲む。
「では、報告を聞こうかな」
俺もソファーに座ると、二人からの報告を聞くことにした。
結果としては、やっぱり好評だったようだ。ただ、宿の方はお客がまだ泊まっていないとあって、感想を聞くにはまだ時間がかかりそうだった。それでも宿の経営者は早速使ってくれたようで、そちらからはいい感触が得られたようだ。
「ふむ、魔族の面々からは総じて好評というわけか」
「その通りでございますな。そもそも布団で眠るという習慣のない魔族もいますゆえ、広めるには苦労しそうですな」
「南方王国との間には、リザードマンとマーマンのいる街がありますからね。そちらは布団は要らないという反応はされましたね」
「まぁそうだろうな」
バフォメットの話を受けてのキリエの報告だ。リザードマンとマーマンという点から、二番目の宿場町の話で間違いはない。
町長のザルドンがリザードマンで、補佐をするモリーがマーマンだ。特にマーマンが布団で寝るという姿は、確かに想像できたものではなかった。
「ただ、ザルドン殿は羽毛布団を試されて絶賛しておりました。モリー殿はどうあがいても使われないでしょうから、その余った分はひとまず宿へと預けて参りました」
「うむ、それでいいだろうな。無駄にしないのが一番だ」
キリエの報告に、俺はこくりと頷いておいた。
とりあえず、モリー以外は羽毛布団が受け入れられたようなので、あとは経過の観察といったところだな。仕事に支障が出れば、それはそれでまた問題だし、改善する必要が出てくるもんな。
というわけで、俺は二人には定期的に報告をもらうように話をしておいた。だが、当然ながら優秀な二人はそれを既に実行していた。俺要らねえじゃん。
あまりにも優秀な二人ゆえに、俺はついつい悶々としてしまう。
俺が渋い表情をしていると、見かねたキリエとバフォメットは俺へと顔を向けて声を掛けてきた。
「そのような顔をしないで下さいませ、魔王様」
「そうですよ。魔王様がいらっしゃるからこそ、私どもはそれに沿って行動をすることができるのです。私たちのことは、手足のように使って下さいませ」
慰められてるのか責められているのよく分からんが、気を遣ってくれていることはよく分かった。
ここで荒れても意味がないので、俺はおとなしく二人の気遣いに屈することにしたのだった。
「しばらく俺は魔王城と魔王領のことに集中するから、街道の件は二人に任せるよ」
「はっ、お任せ下さいませ」
キリエとバフォメットは力強く返事をすると、部屋からバタバタと出ていった。
二人が出ていき、再び一人となった俺は疲れたように大きく息を吐く。
「ふぅ、よくあの二人も俺の思いつきの行動について来てくれるよな。俺ももっとしっかりしないとな、あの二人に申し訳なさすぎるぜ……」
大きく自己嫌悪のため息をついた俺は、執務机の方へと戻っていく。うだうだしているくらいなら、やることをやってやる。
社畜生活で身に付いた習慣だが、こういう時は実にありがたく思うぜ。
そんなわけで、俺は二人が街道に集中できるように、それ以外の魔王領に関する雑務の数々を片付けていく。
俺の思いつきのせいで、魔王領の中には処理しきれない状況がたくさん出てきていた。はっきり言って自業自得だ。
だからこそ、俺は自分でその尻拭いを頑張っているというわけだ。反発も予想できたのに、強引に進め過ぎたツケが回ってきたってわけだ。
過去の自分の軽薄な行動を反省しつつ、魔王領の安定のために俺はしばらくは不眠不休気味で頑張るのだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる