異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第145話 転生者、次の戦略を練る

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 羽毛布団を配布してからしばらくのこと、ちらほらと宿場町の話が俺たちのもとに届き始めた。
 そのほとんどは南方王国との間にある二番目の宿場町からのものだ。
 二番目の宿場町はリザードマンとマーマンの多い街で、釣りがちょっとしたブームになっている。その釣りをしにきた人間たちが例の高級宿を使っていて、そこからの感想が届いているというわけだ。
 ちなみにだが、その通り道にあるハナたちの三番目の宿場町も同様のようである。

「ふむ、エサで魚を釣るために、エサに釣られた人間たちがやってきてるのか。なんなんだろうな、この皮肉たっぷりな状況は……」

 キリエからの報告を聞きながら、俺はついつい呆れた反応をしてしまう。

「しかし、一番魔王城に近い宿場町までは人間は来てないんだな」

「そのようですね。魔族ばかりでこれといって人間たちが来たという報告は上がっていません」

「そうか……。なら戦略は決まったな」

 キリエからの報告に、俺は商機を見出した。

「羽毛布団や新しい服を、第一の宿場町で売り出す。そうすれば、一番奥までやって来てくれることになる。このままじゃ他の宿場町に水をあけられて、ティコたちが可哀想だからな」

「そうでございますね。第一の宿場町まで来るのなら、残りは必ず通りますからね。実にいい戦略だと思います」

 キリエからも同意を得られた事で、俺はクローゼとニーナのところに出向いて話をする。
 俺からの説明を聞いた二人は、特に驚く様子もなく淡々とした様子で作業を続けている。

「それはひとつの戦略ですわね。人間たちに魔王領の奥まで見てもらうというのには、わたくしは賛同いたしますわ」

「私は反対。人間なんてのは信じられないもの。魔王様は魔王様だから仕方ないし、ピエラとかいう女は魔王様が信用してるからしょうがないって感じ」

 クローゼはまったく反対していないのに対し、ニーナの方はまったく人間を信じていないといった感じだ。まあ、ニーナの方の反応が魔族として普通だろうな。
 キリエたちならまだしも、魔族たちの中にはニーナと同じように、俺がいうから渋々従っている連中はいるだろうな。
 まったく、人間もそうだが、魔族も一筋縄じゃないかないよな。

「まっ、そうだよな。感情があるからこそ争いを失くすなんてのは無理だな」

 ニーナの様子に、俺はため息を吐くしかなった。分かってはいても、現実はやっぱりつらいというものだよ。
 とはいえ、俺は自分のやりたい事を曲げるつもりはない。

「ニーナの言いたい事は分かる。でも、お互いの理解を深めるためには、やっぱり知ってもらわないといけないんだ。多少奥地まで来てもらうのは容認してほしい」

 俺がニーナに話し掛けると、ニーナは不機嫌そうな顔をしたまま黙り込んでいた。

「会いたくないのなら、俺だって無理に会わせるつもりはない。俺は魔王だ。魔族たちを守る責務というのがあるからな」

「魔王様……」

 ここまではっきり言うと、ニーナもさすがにちょっと気持ちが揺れたような様子を見せていた。

「しょうがありませんね。魔王様がそこまで仰られるのでしたら、その理想のお手伝いをして差し上げようじゃありませんか」

 両手を腰に当てて、偉ぶりながら喋り出すニーナ。まったく、どうしてこうも妹キャラっていうのツンデレになる傾向があるんだ?
 ニーナの態度がおかしくて、ついつい俺は笑いを堪えきれなくなってしまった。

「な、なにがおかしいんですか、魔王様!」

 当然の反応として怒り出すニーナ。
 両手を下に突き出して腰を引いた、テンプレ的な姿勢で怒り出すものだから、余計俺の笑いのツボにはまってしまっていた。おかげで笑いが止まらないぜ。

「はいはいニーナ、あっちに行きましょう。わたくしたちにできることは、服や布団を作ることですわよ」

「ちょっと、お姉ちゃん? 放して、放してよ!」

 クローゼに無理やり連れられて、自分たちの部屋へと連れ戻されるニーナ。しばらくの間、その騒ぐ声が廊下から響き渡っていた。元気で賑やかな限りだな。
 とりあえず、クローゼとニーナから了承がもらえた俺は、計画を実行に移すためにキリエやバフォメットと話し合いをする。
 人間たちを呼び込みために、目玉となるものは魔王城から最も近い宿場町で売りに出すことになった。
 だが、服や布団だけではどうにも弱い。一緒に何か売り出せるものはないかと、俺は必死に考えた。

「魔王様、やはり料理ではないでしょうか」

 悩む俺に対して、キリエはそのような提案をしてきた。

「料理かぁ……。こっちの世界じゃ貴族で作った事はないし、うーん、俺にできるものはあるかな」

「大丈夫でございますよ。魔王様はアイディアを出して頂ければ、私どもで作ってみせます」

 大きくもたれ掛かりながら呟いていると、キリエは相当自信たっぷりに答えている。
 自信たっぷりなのはいいのだが、問題は俺が覚えている料理はすべてが前世の料理で、調理法すらも把握していないものが多い。それを伝えたところで、再現できるかどうかまったく分からない。

「お任せ下さい。魔王様は思い浮かべて頂くだけで十分ですから」

 ところが、キリエは自信たっぷりにさらに詰め寄ってくる。

「分かった。ならキリエに任せようか」

「はい、必ずや魔王様の期待にお応えいたしましょう。それが参謀でありメイド長でもある、私キリエの責務なのですから」

 にやりと笑うキリエ。一体何をするつもりなのか、俺にはまったく想像がつかなかった。
 俺が困惑していると、キリエは部下のメイドに誰かを呼ぶように指示を出していたのだった。
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