異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
164 / 431
第一章 大陸編

第164話 進む建設と突然の来訪

しおりを挟む
 ドライアドが木を育て、オークとミノタウロスが伐採し、ノームが加工して聖国へと渡す。
 今回はここにゴブリンたちも加わっている。簡単な作業なら彼らも得意だといってきたので採用してやった。
 実際、その申し出通りに器用なところを見せていた。ノームの方が腕前は上なのだが、ゴブリンたちも負けないくらいの結果を出している。
 ゴブリンはそもそも魔族の中では下っ端にあたるので、おそらくは生存競争のために今回出てきたのだろう。普段の行動に問題がある連中が多いために、人間はおろか同じ魔族にすら蔑まれているくらいだからな。泣けてくるな。
 今回の作業でゴブリンの参加を認めたのは、聖国と隣接した場所というのもある。ここならゴブリンが逃げ出しても魔王領に戻るだけだからな。俺とて簡単には信用できんのだよ。

「思ったよりもみんなやってくれているな」

「はい。これもすべて魔王様のお力あってのことだと存じます。あのゴブリンたちですら真面目に働いているのですから」

 現場監督をしているミノタウロスと話をしている。
 そのミノタウロスですら、ゴブリンの働きにはとても驚いているような口ぶりだった。やっぱり、一般的なイメージと実際というのはそう大差がないらしい。

「我らですら、ゴブリンというのは手を焼いております。好き勝手に集落を作り、近隣を荒らし、めちゃくちゃになると再び移動してくような連中ですからね。しかも、その間に数を増やしていますし」

「なるほどな……」

 ミノタウロスの言い分に、ずいぶんと納得がいっていた。
 俺たち人間たちの間で広まっている話と、今ミノタウロスが話していた内容が寸分違わず一致していたからだった。
 それにしても、建築に必要な素材が現地調達できるとあって、聖国側の緩衝地帯の街もあっという間に建設が進んでいく。ドライアドの魔法で木材が、ノームの魔法で石材が簡単に手に入るんだからな。まったく商人泣かせな話っていうものだ。
 魔族側の緩衝地帯が広すぎたかと思ったが、聖国側も似たような規模で街を建設していっている。どうやら、この広さが必要最低限といった感じのようだ。
 一日、また一日と建設が進むたびに、辺りの景色がどんどんと変わっていっている。何もなかった広野にあっという間に石壁に囲まれ、石畳の敷かれた要塞のような街ができ上がっていってるんだからな。
 そうやって建設が進んでいるある日のこと、緩衝地帯にとある人物たちがやって来た。

「お姉ちゃん」

「デイジー? それとフラウゼル伯爵まで。どうしたんですか」

 そう、セーラー服を試着してくれた少女とその父親が視察にやって来たのだ。

「これはお久しぶりですな。魔族だということを含めても、相変わらずの美しい毛並みですな」

「いや、今はお世辞を言うような時かな。まぁ身だしなみには気を遣っているのは事実なんだが」

 フラウゼル伯爵のお世辞めいた言葉に、適当に返しておく。
 それにしても、デイジーはちょっと変わった服を着ているようだ。セーラー服のようだが、俺がプレゼントした試着品とはデザインが異なっている。

「デイジー、その服は?」

「これですか。お母さんに作ってもらいました。お姉ちゃんがくれた服を参考にしてドレス風に仕立ててくれたんです」

「ああ、なるほど。そういえば母親は服飾店のオーナーだったな」

 俺はデイジーの着ている服を見て唸っている。すごいな、あのセーラー服のデザインを活かしながら、ドレスに落とし込むとは。ただ、飾り気はやっぱり減ってしまうのは仕方なかったかな。あの襟に合わせるのは無理があるからな。
 それにしても、気が付いたら俺はまたデイジーの頭を撫でていた。なんだろうかな、なぜか落ち着くんだよな。理由は分からん。

「それにしても、どうしてデイジーがここに来ているんだ?」

 まだまだ子どものデイジーをここに向かわせる理由が分からない。俺はフラウゼル伯爵に詳しく話を聞くことにした。
 完成している魔王領側の建物の一室で俺たちはテーブルを囲む。
 その席で、フラウゼル伯爵はデイジーを連れてきた理由を話し始めた。
 それによれば、デイジーが持っている能力が関係しているらしい。

「予知をする能力、これが実は聖王を継ぐ条件としてあるのです」

「聖王って、世襲制じゃなかったのか」

 俺が確認するように喋ると、フラウゼル伯爵はこくりと頷いた。

「聖王となる条件は二つの能力があることとなります。一つが魔族を討つ聖なる力を有していること。そして、もう一つが先を見通す予知の能力を持っていることなのです」

「ふむ……」

「魔王に話す内容ではないのですが、あなたはどの魔族よりも信用ができるとの聖王様のご判断でございます。ですので、このように話をさせて頂いているのです」

「信用されているのは嬉しいことだな。とりあえず、もう少し詳しく聞かせてくれ」

 俺は北方聖国のトップである聖王について、フラウゼル伯爵からいろいろと話を聞くことができた。
 だが、その内容を聞く限り、正直なところ、まだデイジーには早いのではないかと思われた。

「私もそう思っております。予知の能力もまだ未熟ですし、魔族を討つ力などないに等しいですからな。この子の将来が心配になってきます」

「その気持ちは分かるな。……よし、一応敵対関係にはあるが、デイジーのことだったらできる限りの協力はしよう。俺もデイジーのことは気に入ってるしな」

「ありがとうございます」

 そんなこんなで、一時的ながらもフラウゼル伯爵とデイジーはこの緩衝地帯に滞在することとなったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...