異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第165話 転生者、緩衝地帯を案内する

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 フラウゼル伯爵とデイジーが滞在するようになった緩衝地帯は、相変わらず建設が進んでいっていた。
 魔族たちの分業で作り出した建築素材が、人間たちの手によって組み上がっていく。
 魔族たちは特に気にしている様子はないものの、人間たちを見るとやはりまだまだ魔族に対する負の感情があるのだろうと思わされる。
 とはいえども、次々と建築資材を用意してくるものだから、そうも言ってられない状況にあった。放置すればその分建築資材に埋もれてしまうからだ。やめさせるには必要量を判明させて止めるしかない。
 作業員たちが駆け引きをしている間、俺は既に完成してた魔王領側の緩衝地帯の街並みを、フラウゼル伯爵とデイジーに見せている。

「この街は、南方王国との国境の街を参考にさせてもらったんだ。ただ、俺がいなくても指示だけ出しておけばあっという間にやってくれたんだがな。うちの土木班は優秀で困るよ」

「すごいですな。これだけの規模がほんの数日間で完成ですか」

「魔族ってものすごく優秀だったりするんですか?」

「多分、やる気次第だろうな」

 優秀かどうかという話となると、俺にはこうとしか言えなかった。
 なにせ、魔王のためならという魔族が多いからだ。
 おそらく、俺が魔王でなければいうことも聞いてくれないだろう。俺の種族は獣人だし、獣人は魔族の中では下の方から数えた方が早い種族だからな。
 だが、こうやって働いている魔族たちを見ていると、本当に優秀というか仕事が早すぎるだろう。これはちょっと報酬をちゃんと考えておかないといけないな。
 いろいろと考えながら、俺は緩衝地帯の街の中を案内し終えたのだった。
 案内を終えると、俺は二人を聖国側へと送り届ける。聖国の人間を魔族側に置いておくとどうなるか分からない。俺がいるとはいえ、その自制がいつまでももつとは限らないからだ。
 それに、デイジーは次期聖王候補の一人。何かあっては大問題になる。余計な問題は起こさせない、これは基本的なことだからな。
 無事に送り届けた後は、俺は近所を巡って魔物を狩りに行く。いい加減に食事の材料もなくなってくるだろうと思ったからだ。
 魔族たちの活躍で作業は予想以上の速さで進んでいる。その頑張りの労いくらいできなくて、どうして頂点に立っていられようかというものだ。
 近くで採集したり魔物を倒したりしては、俺は足しげく狩場と緩衝地帯を行き来した。

 ―――

 一方、人間側の緩衝地帯の建設現場では。

「驚いたな。私たちが魔族側の緩衝地帯を見物している間に、ここまで建設が進んでいようとは……」

 フラウゼル伯爵は、目の前の状況が信じられなかった。
 自分たちが来た時には更地だったはずが、すでに何棟もの建物の基礎ができ上がっていたからだ。あの短時間からでは想像のできない作業の進行具合だった。一部にはすでに石畳も敷かれている。

「すごい……。これも建築素材を提供してもらえているからなのかな」

 デイジーはくるりと魔王領の方へと振り向いていた。

「これは伯爵様、お帰りなさいませ」

 護衛でついてきていた一人の兵士が話し掛けてくる。

「うむ。作業の進捗はどうだ」

「はっ、すでに20頭ほどの基礎工事が完了しております。現在は、伯爵様方が休まれる建物を最優先で建設させて頂いております」

「そうか。進みが早いのはいいが、無理をするではないぞ」

「はっ! お気遣いありがとうございます。では、失礼致します」

 兵士は報告を終えると、持ち場へと戻っていった。
 フラウゼル伯爵は、その作業の進行の速さに再び唸っていたのだった。

 ―――

「伯爵」

「これは魔王殿、どうなされましたかな」

 狩りを終えた俺は、人間たちに差し入れをするためにフラウゼル伯爵とデイジーに会いに行った。

「ちょっと近所で魔物を狩ってきたんでな。ちょっとだけおすそ分けってわけだ」

「そうですか、それはありがとうございます」

 俺からの差し入れを受け取ったフラウゼル伯爵は、近くにいた兵士を呼んで処理を任せていた。

「はあ、こっちもずいぶん進んでるな。いくらあいつらが際限なく素材を作っているとはいっても、人間の処理能力からしたら現害を超えているだろうに」

「まったくですね。私も驚かされましたよ」

 俺が困惑していると、フラウゼル伯爵はおかしそうに笑っていた。

「でも、不思議なものですよね。人間と魔族がこうやって協力し合っているっていうのは」

「それは俺も思うぜ。魔王になんてならなければ、こんな風には考えなかっただろうしな」

「お姉ちゃんはすごい!」

 俺とフラウゼル伯爵が話していると、デイジーが両手を握りしめて力いっぱい発言していた。
 これには俺たちは揃って笑うしかなかった。

「な、なんで笑うんですか!」

 予想外の反応をされたせいで、デイジーが困った顔で怒っている。

「まぁそうですな。魔王殿がいたからこそ、今この状況はあるのは事実ですからね」

「そうかもしれないな……」

 俺たちはそのまましばらく笑い合っていた。
 こうしている間も、緩衝地帯の建設はどんどんと進んでいく。
 一番の難関ともいえる聖国との和解。このことで今後どのような影響が出るのか、それはまだ誰にも分からない事だった。
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