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第一章 大陸編
第175話 転生者、帰宅を促す
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「さて、そろそろ戻ろうじゃないか」
服を堪能した翌日、俺は唐突にそう切り出した。
「戻るってどこに戻るというのよ、セイ」
魔王城にやって来ていたピエラが俺に問い掛けてくる。デイジーも不思議そうに見てくる。
「いや、何言ってるんだよ。デイジーを北方聖国に送り届けなきゃいけないだろうが。いつまでも魔王領に滞在させるわけにはいかないってもんだぞ」
俺が当たり前な話をすると、デイジーがものすごく落ち込んだような表情をする。いや、祖国に戻れるのになんで落ち込むんだよ。この反応には思わず戸惑っちまうな。
「思ったよりいいところだったってことね。もてなしすぎちゃったんでしょ。このままじゃ、私みたいに魔王領に居ついちゃうわよ」
「それは困るな。仮にも聖王候補なんだ、北方聖国に戻ってもらわないと困る」
「……ここにいちゃダメなんですか?」
俺たちの会話を聞いていたデイジーが、上目遣いで俺に確認してくる。やめろ、そういう目に俺は弱いんだ。
だが、俺は心を鬼にして、デイジーの両肩に手をかけて説得を試みる。
「ダメだな。デイジーがただの少女だったら、聖王やご両親に許可を取って滞在させることはできただろう。だが、デイジーは聖王候補という、聖国にとって大事な立場にあるんだ。最悪、聖国との戦いに発展しかねない。今回は大事を取って諦めてくれ」
俺はじっとデイジーの目を凝視し続ける。
ピエラに軽蔑の視線を送られている気がするが、俺はデイジーからまったく目を逸らさない。
ここでデイジーを説得できなければ、本当に最悪の事態すら招きかねないからだ。
デイジーは現在の聖王にも一目置かれた少女だ。つまり、次期聖王に近いともいえる状態にある。その少女が魔王領から帰らないとなれば、最悪拉致の疑いをかけられるからな……。
「デイジー。いい子だから、俺の言うことを聞いてくれ。俺は魔王領のみんなを危険な目に遭わせたくないんだ」
俺が真剣な表情で説得を試みると、ようやくデイジーは諦めたのか、しゅんと顔を下に向けていた。
「分かりました。聖国に戻ります」
「そうか、分かってくれて嬉しいよ。一度聖国に戻った後でも、多分、あの緩衝地帯までなら来ることはできるだろう。俺の勘だけど、デイジーはあまり行動に制限をかけられないと思うよ」
「そうでしょうか」
「ああ、きっと大丈夫だ」
俺はデイジーをどうにか説得したので、いろいろとお土産を持たせて、まずは緩衝地帯まで送り届けることにする。今なら魔王領の馬車も使えるし、こっちに来る時よりは早く緩衝地帯に到着できるだろう。
「今日はとりあえず聖国に持ち帰ってもらうものを集めて、明日早速緩衝地帯に送り届けるか。フラウゼル伯爵もきっと待っているだろうしな」
「はっ、お父様! わ、忘れていました……」
「デイジー……。今の話は絶対伯爵にはするなよ? 絶対泣くからな?」
「わ、分かりました、お姉ちゃん」
俺の言葉に、デイジーは口に手を当てながら頷いていた。失言をした事を自覚しているようだった。
その姿に、ピエラはどういうわけか大笑いをしているようだった。
ひとまず話はまとまったので、俺たちは手分けをして、デイジーと一緒に聖国へと送り込む魔王領の特産品をかき集める。デイジーの新しい服はもちろんのこと、羽毛布団も数組積み込んでおく。
ただ、さすがにクルクーの卵はなまものなので厳しいと思われたのでやめておいた。緩衝地帯への道は整備されてないから、揺れて割れる危険性があるしな。ただ、卵が無理だと分かると、デイジーは残念そうにしていた。そんなにプリンが気に入ってるのか。
ピエラにしてもデイジーにしても、ずいぶんと表情がころころ変わるのは面白いな。真面目な話をしていても、そのせいでずいぶんと気持ちが和むというものだ。
ひと通りの準備が終わると、ようやく俺は自室でくつろぐ。
今日のデイジーは、同じ人間であるピエラの部屋で休んでいる。つまり、俺は久しぶりに自室で一人になっているのだ。
「ふぅ、一人だと気楽でいいな。可愛いんだが、あまりべったりされ続けるのはちょっとな……。なんといっても俺は元々男だから、どうも犯罪っぽく感じてしまうからな」
ベッドに腰掛けながら、俺は天井を見上げながら呟く。
「さて、デイジーを緩衝地帯にいる親父さんに送り届けなきゃいけないからな。明日からはちょっと気合いを入れるかな」
天井から視線を下ろし、頬を両手で思いきり叩く。
今のところは緩衝地帯との間の移動で問題が起きたことはないが、まだまだ分からないことの多い魔王領の中なので、気を引き締めておかなきゃな。
何もないことに越したことはない。
とにかく、デイジーを無事に聖都まで送り届ける。これが現状の俺のやるべきことなのだ。
「よし、明日に備えてとっとと寝よう」
布団をめくり上げて、眠りに就く。さすがはクルクーの羽を使った羽毛布団だ。ふわふわ感が半端なくいい。
何度体験してみても、この感覚は極上といえるだろう。
あっという間に俺の意識はまどろみの中へと沈んでいったのだった。
服を堪能した翌日、俺は唐突にそう切り出した。
「戻るってどこに戻るというのよ、セイ」
魔王城にやって来ていたピエラが俺に問い掛けてくる。デイジーも不思議そうに見てくる。
「いや、何言ってるんだよ。デイジーを北方聖国に送り届けなきゃいけないだろうが。いつまでも魔王領に滞在させるわけにはいかないってもんだぞ」
俺が当たり前な話をすると、デイジーがものすごく落ち込んだような表情をする。いや、祖国に戻れるのになんで落ち込むんだよ。この反応には思わず戸惑っちまうな。
「思ったよりいいところだったってことね。もてなしすぎちゃったんでしょ。このままじゃ、私みたいに魔王領に居ついちゃうわよ」
「それは困るな。仮にも聖王候補なんだ、北方聖国に戻ってもらわないと困る」
「……ここにいちゃダメなんですか?」
俺たちの会話を聞いていたデイジーが、上目遣いで俺に確認してくる。やめろ、そういう目に俺は弱いんだ。
だが、俺は心を鬼にして、デイジーの両肩に手をかけて説得を試みる。
「ダメだな。デイジーがただの少女だったら、聖王やご両親に許可を取って滞在させることはできただろう。だが、デイジーは聖王候補という、聖国にとって大事な立場にあるんだ。最悪、聖国との戦いに発展しかねない。今回は大事を取って諦めてくれ」
俺はじっとデイジーの目を凝視し続ける。
ピエラに軽蔑の視線を送られている気がするが、俺はデイジーからまったく目を逸らさない。
ここでデイジーを説得できなければ、本当に最悪の事態すら招きかねないからだ。
デイジーは現在の聖王にも一目置かれた少女だ。つまり、次期聖王に近いともいえる状態にある。その少女が魔王領から帰らないとなれば、最悪拉致の疑いをかけられるからな……。
「デイジー。いい子だから、俺の言うことを聞いてくれ。俺は魔王領のみんなを危険な目に遭わせたくないんだ」
俺が真剣な表情で説得を試みると、ようやくデイジーは諦めたのか、しゅんと顔を下に向けていた。
「分かりました。聖国に戻ります」
「そうか、分かってくれて嬉しいよ。一度聖国に戻った後でも、多分、あの緩衝地帯までなら来ることはできるだろう。俺の勘だけど、デイジーはあまり行動に制限をかけられないと思うよ」
「そうでしょうか」
「ああ、きっと大丈夫だ」
俺はデイジーをどうにか説得したので、いろいろとお土産を持たせて、まずは緩衝地帯まで送り届けることにする。今なら魔王領の馬車も使えるし、こっちに来る時よりは早く緩衝地帯に到着できるだろう。
「今日はとりあえず聖国に持ち帰ってもらうものを集めて、明日早速緩衝地帯に送り届けるか。フラウゼル伯爵もきっと待っているだろうしな」
「はっ、お父様! わ、忘れていました……」
「デイジー……。今の話は絶対伯爵にはするなよ? 絶対泣くからな?」
「わ、分かりました、お姉ちゃん」
俺の言葉に、デイジーは口に手を当てながら頷いていた。失言をした事を自覚しているようだった。
その姿に、ピエラはどういうわけか大笑いをしているようだった。
ひとまず話はまとまったので、俺たちは手分けをして、デイジーと一緒に聖国へと送り込む魔王領の特産品をかき集める。デイジーの新しい服はもちろんのこと、羽毛布団も数組積み込んでおく。
ただ、さすがにクルクーの卵はなまものなので厳しいと思われたのでやめておいた。緩衝地帯への道は整備されてないから、揺れて割れる危険性があるしな。ただ、卵が無理だと分かると、デイジーは残念そうにしていた。そんなにプリンが気に入ってるのか。
ピエラにしてもデイジーにしても、ずいぶんと表情がころころ変わるのは面白いな。真面目な話をしていても、そのせいでずいぶんと気持ちが和むというものだ。
ひと通りの準備が終わると、ようやく俺は自室でくつろぐ。
今日のデイジーは、同じ人間であるピエラの部屋で休んでいる。つまり、俺は久しぶりに自室で一人になっているのだ。
「ふぅ、一人だと気楽でいいな。可愛いんだが、あまりべったりされ続けるのはちょっとな……。なんといっても俺は元々男だから、どうも犯罪っぽく感じてしまうからな」
ベッドに腰掛けながら、俺は天井を見上げながら呟く。
「さて、デイジーを緩衝地帯にいる親父さんに送り届けなきゃいけないからな。明日からはちょっと気合いを入れるかな」
天井から視線を下ろし、頬を両手で思いきり叩く。
今のところは緩衝地帯との間の移動で問題が起きたことはないが、まだまだ分からないことの多い魔王領の中なので、気を引き締めておかなきゃな。
何もないことに越したことはない。
とにかく、デイジーを無事に聖都まで送り届ける。これが現状の俺のやるべきことなのだ。
「よし、明日に備えてとっとと寝よう」
布団をめくり上げて、眠りに就く。さすがはクルクーの羽を使った羽毛布団だ。ふわふわ感が半端なくいい。
何度体験してみても、この感覚は極上といえるだろう。
あっという間に俺の意識はまどろみの中へと沈んでいったのだった。
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