異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第187話 転生者、食材を求めて出かける

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 俺は久しぶりに南方王国へと向かう。
 目的は前世の料理を再現できる材料探しだ。
 米も魔王領内で見つけはしたものの、どこで手に入れたものかというのははっきりとは分からなかった。大量にあるのだから、どこからか入ってきているはずなんだが、肝心の馬の世話係が適当すぎた。
 安定した生産を外部に求めるために、俺はあえて魔王領内で探すのはやめて、南方王国、西方王国内に求めることにしたのだ。だって、そうでもしないとポーションとアラクネ糸を売りつけるだけの一方的な貿易になっちまうじゃねえか。
 そう、貿易というのはギブアンドテイクだ。いいものが国内にあふれても、金回り悪くなればそれはそれで問題だからな。
 俺と一緒に視察に向かうメンバーが城門に集まる。キリエ以外は見慣れない面々だった。

「ずいぶんと今回は新しい面々で向かうんだな」

「はい、若い魔族にもいろいろと経験させておこうと思いましてね。魔王様と私、それにデザストレがいればひとまず大丈夫でしょう」

「はあ、交渉とかめんどくさいな。欲しいなら全部奪えばいいんだよ」

 キリエが話している横で、デザストレが不満たっぷりに文句を言っている。

「デザストレ?」

 俺は漫画なら怒りマークが浮かんでそうな表情で、デザストレの顔をじっと見つめる。
 俺の視線に気が付いたデザストレは体をビクッと跳ねさせている。俺の感情が読み取れたみたいだな。

「お前は荷物係だ。とにかく俺の後ろでじっと立ってろ。いいか、口は挟むなよ?」

「あ、ああ、分かった。だが、あまり退屈させるなよ?」

 俺の視線に慌てたデザストレは、すごすごとおとなしくなっていった。
 とりあえずこれで面倒なことは起きないだろう。うん、そう願いたいものだ。
 魔王城を発って4日間で南方王国との国境の街に到着する。一度ここで情報収集を行う。今回は王都は訪問対象外だからな。
 俺たちは馬車を止めて、国境警備隊の詰所へと入っていく。

「よう、ヨネス。元気しているか?」

「セイか。なんだよ急に。連絡くらいくれたら出迎えてやったのによ」

「悪い、急だったからな。ちょっと話はいいか?」

 俺が確認をすると、ヨネスは辺りを見回し始める。そして、何か妙な表情をしたかと思ったら、笑顔になって頷いていた。
 なんだ、今の間は。

「何も出せないが話くらいならいいぜ」

 ヨネスが視線を向けると、部屋の中にいた他の兵士たちが気を使って出ていく。いや、別に秘密の話をするわけじゃないんだが?
 ここまで気を遣ってもらうのもなんだか気が引けるってもんだが、まあ、確かにあまり外には出したくはない情報だな。

「で、ここを訪ねてきた用件って何なんだ」

 人払いが終わると、ヨネスは直球で質問をぶつけてきた。昔っからこうなんだよな、ヨネスの奴は。
 一方的に俺をライバル視して、感情を素直にぶつけてきたからな。面倒だけど嫌いじゃないタイプなんだよ。
 ひとまず俺がヨネスに確認したのは、南方王国のあちこちの情報だ。本来であれば情報の収集は王都で行う方がいいだろうが、今回に限っては王都に行くつもりはないし、国境も国境で情報が集まってくるからな。
 その中で、俺はヨネスにとあるものを見せて反応を見てみる。

「ヨネス、これって見たことはあるか?」

「うん? なんだ、馬の餌か」

 俺が見せたのは米。
 帰ってきた答えにがっくり来る。こっちもやっぱり餌かよ。でも、この答えが返ってきたということは、南方王国内でも米は栽培されているってことだ。

「だが、これを何に使うんだ? この程度なら魔王領にもあるだろうが」

「いやな、魔王領から物を輸出して買ってもらうだけじゃ不公平だと思ってな。それで、王国で珍しい食材があったら少し買おうかなって思うんだよ。黙ってたが、料理が趣味なんでな」

「ほうほう、それは面白い話だな。ちょっと詳しく聞かせてくれ」

 意外とヨネスが俺の話に食いついてきた。

「なんだ、ヨネスも料理に興味があるのか?」

「い、いや、そういうわけじゃないんだがな……」

 なんだか歯切れが悪いな。ここはちょっと突っつくか。
 すると、思ったより簡単にヨネスは口を割ってくれた。思ったより口が軽いな、お前。
 どうやら詰所の飯がうまくないらしい。男所帯の料理なんてそんなもんだろうな、偏見だろうけど。専門の料理人ならまだしも騎士や兵士が作る料理なんて適当だからな。
 魔王討伐に向かった時も、俺がいなきゃろくな飯にありつけなかっただろうぜ。マールンもピエラも当時は料理がからっきしだったからな。

「ま、いいぜ。情報をくれれば、その見返りに料理を教えてやってもいいぞ」

「よし、のった!」

 おい、即答かよ。どんだけまともな料理に飢えてんだよ。
 まったく仕方ないなと思いながら、ヨネスからいろいろ情報を聞き出した俺は、一泊する見返りとして、ヨネスたち国境警備隊に料理を教えてやった。面倒くさがりな連中でもすぐに作れるような作業工程の少ない料理だ。
 まともな料理を口にするのは久しぶりだったのか、ヨネスたちは泣いて喜んでいた。まったくどんだけだったんだよ。こんなんで国境警備は大丈夫なのか?
 とまぁ、なんとも先が心配になる久々の南方王国訪問がこうやって始まったのだった。
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