異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第188話 転生者、自国で初めてを知る

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 国境警備の兵士たちから、一部を俺たちの旅に同行してもらうことにする。その代わり、俺たちが連れてきた魔族たちを警備にあてがう。
 騎士や兵士たちは魔族と一緒に仕事をすることを戸惑っているというか拒否しているようには見えるが、現在の名目上、魔王領は南方王国の一地方に過ぎないという扱いのはず。だったら、一緒に仕事をしてもおかしくないだろう。
 この正論をぶつけてやったら、どいつもこいつも黙り込んだ。
 社畜時代はいろいろと話術を鍛えさせられたからな、こちとらはよ。
 ともかく、俺たちの一行の人員の一部を国境の警備隊たちと入れ替える。それというのも、南方王国のことは俺を含めて知らない面々ばかりだからだ。道案内のための人員の入れ替えだよ。
 それにしても、国境警備隊がこれじゃ困るな。魔族と一緒にいるだけでこの反応じゃな。
 今回連れてきているのは俺の部下だから大丈夫だっていうのに、完全にビビり散らしてるじゃねえか。これで戦えるのか疑問になってくるぜ。
 魔族は敵にはもうならないだろうが、魔物相手でもこれだったら本気でやばいと思うぜ。
 なので、出る時にはヨネスと部下の魔族にしっかりと言い聞かせてから国境を出発してきた。

 俺たちがまず向かったのは、謎の多い東方帝国との国境地帯の方だ。俺たち魔王領との間でまだ国交がない場所だけに、緊張してしまうというものだ。下手に刺激するわけにはいかないので、案内は必須ってわけだな。
 国境の街を出て数日移動すると、俺の耳がぴくりと反応する。

「どうなさいましたか、魔王様」

「しっ、何かの足音が聞こえてくる」

 部下の質問に、小さな声で答える。
 耳を澄ませると、確かに何かの足音が聞こえてくる。ただ、ちょっと距離があるのか、何の音かは特定できなかった。
 場所としては、魔王領と東方帝国との境界付近なので、今回の視察で特に警戒している地域に到着してしまったようだ。

「なんの足音かは分からないが、東方帝国の領土に近いから、警戒は強めた方がよさそうだな」

「それはそうでしょうね。我々南方王国もあまり仲がよいというわけではないですから」

 さすがに何日か経てば、あれだけびびり散らしていた兵士たちも慣れたようである。

「そういえば、北方聖国でもほとんど情報が入ってこなかったからな。一体どんな国なんだよ、東方帝国って……」

 考えれば考えるほど、謎の深まっていく国である。
 謎の足音も気になるので、ここからなるべく国境から距離を取って移動することにする。面倒ごとはなるべく少ない方がいいからな。
 南方王国の国境警備の兵士たちも俺の意見に賛成らしい。国境警備の兵士としたらどうかとは思うが、今回は警備じゃないからまあいっか。
 それにしても、さすが領地を移動するたびに通行税を持っていかれるのは地味に厳しいな。とはいえ、貴重な領地収入だ。元よりお金は落としていくつもりだから気にしないで支払っておく。
 さすがに魔族の姿にはみんな驚いていたな。貴族たちには伝わっていても、さすがに領地の平民たちは知らないか。

「あっ、ワンワンだ!」

 とある領地の子どもにはこんなことを言われたが、俺は気にしない。犬と見れば子どもはこう叫ぶものなんだよ。

「おう、坊主。触りたければ触っていいぞ。ただし、顔と手だけな」

「わーい!」

 少年は駆け寄ってきて、喜びに満ちた表情でべたべたと触っていく。
 一応これでも女なんで、変なところを触られるわけにはいかない。だから、場所は指定しておいた。
 後ろでは付き添いの魔族たちがすごい表情で見ているが、俺はちらちらと視線を送って踏みとどまらせておく。こんなことでもどういう事態に発展するか分からないからな。特にデザストレ、お前だよ。

「うわーい、すごく手のひらがぷにぷにとしてる」

「もう満足かな。お姉ちゃんたちは街や村を見て回ってる最中なんだ。あまり構ってやれなくてごめんな」

 自分で自分のことをお姉ちゃんといって寒気が走る。やっぱり慣れないなぁ。自分の体や服装には慣れたのに、精神面だけはまだまだ男を捨てきれないようだな。

「うん、お姉ちゃんありがとう。ばいばーい」

 少年は満足な表情で手を振っている。
 俺も手を振り返していると、親が迎えに来たのか少年は走り去っていった。
 無事に突発イベントもやり過ごして、俺たちは視察を再開した。

「ふぅ、よくデザストレも耐えたな。子どもってのはあんな感じだからな」

「許せぬ。魔王に気安く触るなど万死に値する」

「俺はお前のものでもねえんだよ!」

 まるで専有物みたいな言い方をするから、俺は即ツッコミをしてしまった。まったく、時々わけの分からないこと言うな。嫉妬深い奴め。
 こんな感じで王国内を進んでいく俺たち。気が付けば、王国の東端までやって来てしまった。

「むっ、南方王国の東端って山岳地帯になっていたのか」

 初めて見る光景に、俺はびっくりしてしまう。王国に住んではいたものの、王都以外はこれといって出かけた記憶がなかったからだ。
 ようやく到達した南方王国の端っこ。ここには新しい発見はあるのだろうか。
 俺たちは早速調査に乗り出したのだった。
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