異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
193 / 431
第一章 大陸編

第193話 転生者、次の村に向かう

しおりを挟む
 欲しいものをひとつゲットした俺たち一行は、聖国側から段々と南下していく。
 それにしても、西側に目をやると、南方王国の時と同じように山が連なっている景色がずっと続いていた。

「ますます箱庭じみてきたな……」

「どうなさいましたか、魔王様」

 俺の呟きに、調子の戻ったバフォメットが反応する。

「いや、なんでもない。次はどこなんだ?」

 心配させるつもりはないので、適当にごまかして話題を切り替える。
 その際に、バフォメットはちらりとマネケンへと視線を向けていた。どうやら、二人で事前に打ち合わせをしていたらしい。

「次は南西部の村ですね。南半分の穀倉地帯になります。今回は主だって魔王殿の希望に沿うように案内するおつもりですから」

「そうか。欲しいものがあったとしても、俺はみんなに負担をかけるつもりはないぞ。できる範囲でやってくれるのが一番だ」

「お気遣い、ありがとうございます」

 その後もマネケンからいろいろと話を聞きつつ、俺たちを乗せた馬車は目的地の村へと向かって走り続けた。

 さすがは魔王領の馬車というところ。最初の目的の時もそうだったが、今回もまったく悪路をものともせず、人間たちの馬車の半分以下の時間で次の目的地に着いてしまった。
 二番目に訪れた村は、穀倉地帯とは言っていたものの、家畜を育てる畜産も行っているようだった。そのせいで村とはいえ、その敷地はかなり大きいようだった。

「この村は、西方王国で使う馬の生産もしております。通常魔族たちにそれを教えるというのは、自分たちの弱点をさらすことでもあるのですが、今の魔王殿たちにそれだけ信用があるということでございます」

「その評価は嬉しい限りだな。まあ案内を頼む」

「承知致しました」

 馬車を邪魔にならないところに止めて、俺たちは村へと向かう。
 マネケンが先頭にいるということもあってか、俺たち魔族の姿に驚く村人たちもすぐさま落ち着きを取り戻していた。
 村人たちは取引の関係で大臣のことをよく知っているみたいで、そのいった背景から大臣の姿を見て安心するのである。
 さて、それはさておき、俺たちはまずは村長に挨拶に向かう。
 ああ、前の村でもちゃんと村長に最初に挨拶はしておいたぞ。当然じゃないか。
 挨拶を終えると、村長も交えて村の案内が始まる。
 家畜の類は馬に鶏に牛に羊とヤギと、大体前世の世界と変わらない感じだな。これは南方王国はほとんど変わらないが、鶏がいるのは驚いた。
 鶏がいるのに卵の流通はないんだな。やっぱり、雑菌が問題だろうかな。ま、それはこっちのクルクーの卵があるから問題ないか。
 でも、牛やヤギがいるということはミルクやチーズ、それにバターといったものが作れるということだ。これができれば、さらに料理の幅が広がるのは間違いない。
 ダズーと比べればチーズ以外は日持ちがしないので、運搬は無理だろう。チーズってあるのかなと、いろいろ気になってくる。

「魔王様、一体どうなされたのですか」

 俺が難しい顔をしているので、バフォメットが気になって声をかけてきたようだ。

「いや、牛やヤギのミルクってどうしているのかと思ってな」

「ああ、ミルクでございますか。基本的には近隣で飲む分くらいでございますね。傷むのが早いので、王都に運ばれてくるのはまれでございます」

「そうか……」

 マネケンの答えに、ちょっと考え込んでしまう。
 うん、もったいないな。

「魔王様、何かお考えでも?」

「ああ、俺はミルクの加工品について知っているものがあるんだ。ただ、作り方をど忘れしちまったんだがな」

 バフォメットの問い掛けに、俺は腕を組んで唸りながら答えている。
 必死に作り方を思い出そうとしているんだよ。これでも自炊していた頃は作ろうと思ってたくらいだからな。
 確か、カビかなんかを作用させて固めるんだっけかな。う~ん、思い出せない。

「まあ、余っているなら俺に預けておくれ。ちょっと時間がかかるかもしれないが、新たな使い方を必ず見つけ出してみせるからさ」

「分かりました。毎度捨てるのがもったいないと思ってましたからね。水代わりに与えても余るっているのが現状ですから」

 村長は俺に対して頭を下げてきた。
 この光景には、周りの村人が驚いていた。いやまぁ、魔族に対しておとなしく頭を下げるというのは、やっぱり人間には受け入れにくいところがあるんだろうな。
 いろいろと話をしながら、俺たちは馬小屋にやって来た。ここが西方王国の交通の要ともいえる馬を生み出している牧場というわけか。
 馬たちは実にのびのびとした様子だ。

「馬たちだけじゃなくて、ここの家畜の餌は村で採れたものを使っております。見ていかれますか?」

「ああ、見させてもらおう」

 淡い期待がある俺は、村長の質問に即答だった。
 もちろん、その期待というのは米だ。ここまで散々馬の餌で米を見てきてるんだからな。
 村長が村で採れたものと言った時点で期待しかなかった。

「やはりあったか……」

 俺は餌の中に紛れ込んだ米粒を発見する。
 米粒をすくい上げると、村長に質問をする。

「なあ、この粒の植物って、村にあるのか?」

「ちょっとよく見せて下さいな」

 村長が俺の手の上にある粒をじっと見る。肉球の上だからよく見えるはずなんだがな。
 しばらく見ていた村長からは、ついに期待してた答えが返ってきた。

「ええ、ございますよ」

 俺はつい、心の中でガッツポーズを決めたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...