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第一章 大陸編
第194話 転生者、栽培された米を発見する
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米がある。
この可能性が見えただけで俺はすっかり顔がほころんでいた。
やっぱり前世日本人としては、時々米が食べたいんだよ。社畜生活の最中でも、コンビニおにぎりはお世話になっていたからな。シーマヨ一個でお腹も心も満たしてくれたからな。
村長に連れられて向かった先は、村の中ではなかった。
「おや、村長。村を出てしまったが、こっちで合っているのか?」
「はい、育ててはおりますが、村の中に専用の畑を作れませんのでしたのでな」
俺の質問にそんな答えが返ってきた。
話の内容に思わず首を傾げてしまう。どういった理由なのかまったく見当がつかないからだ。
わけが分からないものの、ひとまず俺たちは村長の案内で移動を続ける。
村から歩くこと、大体三十分くらいかな。かなり歩いてきたんだけど、そこに広がっていた光景に俺は思わず言葉を失った。
「ここが、馬の飼料を栽培している場所でございます。人の食べるものと区別するために、これだけの距離を取っているのでございます」
村長はたどり着くと同時に説明を始めた。
理由には納得いったが、米が人間の食べ物として認知されていないことに改めて驚いた。
小麦は食べるのに、どうしてこうなったんだろうな。世の中というのは不思議なものがたくさんあるものだな。
「ちょっと見てみてもいいかな?」
「どうぞ、ごゆっくりご覧になって下さいませ」
村長から許可が下りたことで、俺は稲が風になびく畑に降りていく。村長が畑と言っていたので、あえてここでは畑と表現させてもらうとしようか。
じっと見つめてみるが、どんなに見ても間違いなく稲穂だった。
ついに求めていたものが見つかったのだ。しかも、人の手で栽培されていて、所在が判明しているものがな。
俺は嬉しさのあまりキラキラとした笑顔を村長へと向ける。
「頼む、これを売ってくれ」
「え、ええ?!」
馬の餌としか考えていなかった村長は、困惑した表情を見せている。そこまでかよ。
こうなったら、この米のおいしさというものを見せつけてやるしかないな。
幸い、目の前の稲穂は収穫できそうな状態だ。なので、村長にお願いしていつものように収穫してもらうことにした。
収穫された米を持って、俺たちは村に戻ってくる。
この米を使って俺が何をするのか、村長や村の連中はかなり気になっているようだった。
「まずは、このもみをはいでっと……」
もみ殻をはがし、精米までを無事に終える。こういう時はバフォメットの魔法が便利だ。
「真っ白になった米粒を水で研いでっと……」
水がもったいないので水魔法で出した水で米を研いでいく。最初は濁っていた水が段々と透明になる。
水を十分に張った鍋をかまどに置いて、火をつけて炊く。
「途中でぼこぼこいって泡がこぼれるけど、決してふたは取っちゃいけないぞ。これが米をおいしく炊く秘訣だ」
「は、はあ……」
村長はわけが分からないといった反応だった。
だが、マネケンは俺の作業を興味深く眺めている。それこそ穴が開きそうなくらい真剣なものだった。
炊き終わったかなとくらいになると、俺はようやく火を消す。
「これで食べられるのですかな?」
「いや、しばらく蒸らさないといけない。いいというまで待っててくれ」
「分かりました」
どうもマネケンは待ちきれないらしい。せっかちとは思うけれど、分からなくはない。
とはいえ、火を消して余熱調理する料理というのは、多くはないが他にもあるんだよな。
心の中で10分を数え終わる。
ふたを開けると、むわっと白い湯気が立ち上る。
木べらを持ってきて、軽く混ぜてみる。うん、いい感じだな。
「よし、炊けたぞ。それじゃ、試食タイムといこうじゃないか」
木の器に盛られた米を、村長たちがまじまじと見つめている。まぁ、見慣れないものだからしょうがないか。
というわけで、俺が率先して食べることにする。初めてものというのは、誰だって抵抗があるもんだからな。
目の前で俺がおいしそうに頬張ると、村長やマネケンたちがごくりとつばを飲み込む。
俺の様子を見たマネケンたちがおそるおそる口に米を含む。
「こ、これは!」
カッと目が見開き、相当に驚いているのがよく分かる。
「まさか、馬の飼料にしていたものが、このようなものに化けるとは驚きですぞ!」
村長の驚きはひときわ大きかった。
「まっ、そういうわけだ。村で食べなくてもいい。俺の料理研究用にだけでも回してくれればいいからな。ついでに、こいつは常温でも保存は可能だ。何か辛い実を一緒に入れておけば、虫が湧くこともない、覚えておいてくれ」
「分かりました」
俺がそういえば、村長は深々と頭を下げていた。
話が終われば、マネケンとの間で交渉だな。
村から定期的に仕入れるのは米だけだ。ミルクは時折俺が直に買い付けに行くことにする。
そういった内容で量や金額を詰めていく。
ミルクは当面はただで譲ってくれるらしいが、入れ物代は払っておこうと思う。作るのだけでも手間がかかるからな。
そんなわけで、無事に目的のものを見つけた俺だったが、まだまだ西方王国の視察は続く。
さて、ミルクと米以外に、まだ何か見つかるかな。
ほくほくとした笑顔で、俺は村を後にしたのだった。
この可能性が見えただけで俺はすっかり顔がほころんでいた。
やっぱり前世日本人としては、時々米が食べたいんだよ。社畜生活の最中でも、コンビニおにぎりはお世話になっていたからな。シーマヨ一個でお腹も心も満たしてくれたからな。
村長に連れられて向かった先は、村の中ではなかった。
「おや、村長。村を出てしまったが、こっちで合っているのか?」
「はい、育ててはおりますが、村の中に専用の畑を作れませんのでしたのでな」
俺の質問にそんな答えが返ってきた。
話の内容に思わず首を傾げてしまう。どういった理由なのかまったく見当がつかないからだ。
わけが分からないものの、ひとまず俺たちは村長の案内で移動を続ける。
村から歩くこと、大体三十分くらいかな。かなり歩いてきたんだけど、そこに広がっていた光景に俺は思わず言葉を失った。
「ここが、馬の飼料を栽培している場所でございます。人の食べるものと区別するために、これだけの距離を取っているのでございます」
村長はたどり着くと同時に説明を始めた。
理由には納得いったが、米が人間の食べ物として認知されていないことに改めて驚いた。
小麦は食べるのに、どうしてこうなったんだろうな。世の中というのは不思議なものがたくさんあるものだな。
「ちょっと見てみてもいいかな?」
「どうぞ、ごゆっくりご覧になって下さいませ」
村長から許可が下りたことで、俺は稲が風になびく畑に降りていく。村長が畑と言っていたので、あえてここでは畑と表現させてもらうとしようか。
じっと見つめてみるが、どんなに見ても間違いなく稲穂だった。
ついに求めていたものが見つかったのだ。しかも、人の手で栽培されていて、所在が判明しているものがな。
俺は嬉しさのあまりキラキラとした笑顔を村長へと向ける。
「頼む、これを売ってくれ」
「え、ええ?!」
馬の餌としか考えていなかった村長は、困惑した表情を見せている。そこまでかよ。
こうなったら、この米のおいしさというものを見せつけてやるしかないな。
幸い、目の前の稲穂は収穫できそうな状態だ。なので、村長にお願いしていつものように収穫してもらうことにした。
収穫された米を持って、俺たちは村に戻ってくる。
この米を使って俺が何をするのか、村長や村の連中はかなり気になっているようだった。
「まずは、このもみをはいでっと……」
もみ殻をはがし、精米までを無事に終える。こういう時はバフォメットの魔法が便利だ。
「真っ白になった米粒を水で研いでっと……」
水がもったいないので水魔法で出した水で米を研いでいく。最初は濁っていた水が段々と透明になる。
水を十分に張った鍋をかまどに置いて、火をつけて炊く。
「途中でぼこぼこいって泡がこぼれるけど、決してふたは取っちゃいけないぞ。これが米をおいしく炊く秘訣だ」
「は、はあ……」
村長はわけが分からないといった反応だった。
だが、マネケンは俺の作業を興味深く眺めている。それこそ穴が開きそうなくらい真剣なものだった。
炊き終わったかなとくらいになると、俺はようやく火を消す。
「これで食べられるのですかな?」
「いや、しばらく蒸らさないといけない。いいというまで待っててくれ」
「分かりました」
どうもマネケンは待ちきれないらしい。せっかちとは思うけれど、分からなくはない。
とはいえ、火を消して余熱調理する料理というのは、多くはないが他にもあるんだよな。
心の中で10分を数え終わる。
ふたを開けると、むわっと白い湯気が立ち上る。
木べらを持ってきて、軽く混ぜてみる。うん、いい感じだな。
「よし、炊けたぞ。それじゃ、試食タイムといこうじゃないか」
木の器に盛られた米を、村長たちがまじまじと見つめている。まぁ、見慣れないものだからしょうがないか。
というわけで、俺が率先して食べることにする。初めてものというのは、誰だって抵抗があるもんだからな。
目の前で俺がおいしそうに頬張ると、村長やマネケンたちがごくりとつばを飲み込む。
俺の様子を見たマネケンたちがおそるおそる口に米を含む。
「こ、これは!」
カッと目が見開き、相当に驚いているのがよく分かる。
「まさか、馬の飼料にしていたものが、このようなものに化けるとは驚きですぞ!」
村長の驚きはひときわ大きかった。
「まっ、そういうわけだ。村で食べなくてもいい。俺の料理研究用にだけでも回してくれればいいからな。ついでに、こいつは常温でも保存は可能だ。何か辛い実を一緒に入れておけば、虫が湧くこともない、覚えておいてくれ」
「分かりました」
俺がそういえば、村長は深々と頭を下げていた。
話が終われば、マネケンとの間で交渉だな。
村から定期的に仕入れるのは米だけだ。ミルクは時折俺が直に買い付けに行くことにする。
そういった内容で量や金額を詰めていく。
ミルクは当面はただで譲ってくれるらしいが、入れ物代は払っておこうと思う。作るのだけでも手間がかかるからな。
そんなわけで、無事に目的のものを見つけた俺だったが、まだまだ西方王国の視察は続く。
さて、ミルクと米以外に、まだ何か見つかるかな。
ほくほくとした笑顔で、俺は村を後にしたのだった。
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