異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第209話 転生者、気になる木を見に行く

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 翌日、俺はデザストレを連れて空を飛んでいた。
 花言葉の騒動を解決するためにウネに話を聞きに行った時に、気になる話を聞いたからだ。
 俺の持って帰ってきたポテイが、ドライアドの力でもってしても育ちが悪いという証言だ。
 一体どういうことなのか、俺はその情報の真偽を確かめるべく、南方王国の東の端へと向かっている。

「まったく、人使いの荒いというものだ」

「しょうがねえだろ。気になり始めたら夜すら眠るのが危うくなるんだからよ。ひとまずはっきりさせておきたいのさ」

 文句を言うデザストレに、俺ははっきりと言い返す。
 気になって仕方がないというのは事実なんだ。
 それに、あのポテイを発見した時の状況を思い出してみても、謎が多すぎるんだ。
 俺が悩む原因が、このデザストレだ。
 あの時、俺はしっかりと木を見つけられていたのに、デザストレには認知できなかった。これがまず不思議でしかない。
 そして、俺が持って帰ったポテイはその場所にあった。つまり、あの場所はこの世界の住人たちだと認知できないのではないかと考えられる。
 俺は異世界からの転生者だからな。この世界の理が通じないところがあるのかもしれないってわけだよ。
 魔王城のことはキリエとバフォメットに任せて来た俺は、出発してから三日をかけて現場に到着した。
 東方帝国の上空を避けたので、少し時間がかかってしまったな。

「よし、デザストレ。あの木のところまで飛んでくれるか?」

「木? そんなものがどこにあるというのだ」

 俺にははっきり見える大きな木。だが、デザストレにはやっぱり見ることはできなかった。
 まったくどういうことなのか、俺は首を捻るしかない。
 気にはなるものの、とりあえず前回同様にデザストレに指定した場所に降りてもらう。
 だが、今回はデザストレを待機させない。人型になってもらった上で、俺と一緒に来てもらうことにした。

「本当に大丈夫なのだろうな」

「分からねえよ。ただ、俺はその木のところまで移動できたんだ。おそらく俺と一緒ならお前も近付けるはずだ」

「ううむ……」

 相当に信用がないのか、デザストレは及び腰だ。

「お前、本当にビビりだな。魔族に破滅をもたらすという厄災のくせに、こんなに臆病とは名前負けもいいところだぜ」

 俺がからかうように言うと、デザストレはカチンときたのか俺をじっと睨んでいる。

「だ、誰が怖いだと? いいだろう、一緒に行ってやる」

 うん、ちょろいぜ。
 デザストレは強気な返事をしたくせに、俺の後ろにぴったりとついて離れない。やっぱりビビりじゃねえか。
 そもそも魔王のいない魔族しか屠ってこなかったからな、こいつ。俺に一度も勝てたためしがないから、本当に魔王にだけは勝てないんだな。
 さて、ひとまずポテイの植わっているところまでやってきた。デザストレは弾かれることも追い出されることもなく、俺にぴったりとついてきている。どうやら、俺と一緒なら問題なさそうだな。

「魔王、一体何なのだ、これは」

「これはポテイだな。ここで自生してるようだ。ただ、ポテイ自体は他の場所でも採れるんだが、ここのポテイはちょっと癖があるらしい」

「癖?」

「ああ、ドライアドの魔力すら弾くみたいなんだ。そもそもポテイ自体が受け付けにくいようだが、ここから持って帰ったポテイはまったく受け付けないそうだ」

 俺の説明を聞いて、デザストレは不思議そうにあごを抱えている。

「いや、ドライアドの魔力が効かない植物などあるものか? にわかには信じられん」

「ウネに直に聞いたから間違いない。それよりも目の前の木に向けて進むぞ」

 俺が言うが、デザストレは相変わらず首をあちこちに振っている。やっぱり見えていないらしい。
 妙な現象だよな、これは。

「とりあえずこっちだ。進むぞ」

「お、おう」

 戸惑うデザストレを連れて、俺は木に向けてまっすぐ進む。
 ポテイの自生している一帯を抜けて、問題の木まで目と鼻の先までやって来る。そうすると、ようやくここでデザストレの反応に変化が現れた。

「な、なんだ、この木は!? さっきまで何もなかっただろう」

「ようやく見えたか。それにしても、この木の認識阻害はすごいな。厄災にすら通用するとはな」

 俺は木へと近付いていく。

 リーン……。

「ん、鈴の音か?」

 急に鳴り響いた音に、俺は辺りを見回す。

「どうした、魔王」

「いや、何か音が聞こえなかったか?」

「何も聞こえないぞ」

 今回もデザストレには聞こえていないようだ。
 うーむ、俺にしか分からないというわけか。ますます奇怪な話になってきたな。
 前回は王国内の視察の途中だったから引き返したが、今回は違う。目的地はここだったので、俺は不思議な木へとさらに近付いていく。
 木の幹までもう少しというところまで近付いた時、もう一度鈴の音が聞こえてくる。

「この音は、警告のつもりかな。だが、俺は退くつもりはない。姿を見せてもらおうか」

 俺が鋭い視線を向けて言い放つと、もう一度鈴の音が鳴り響く。

「なんだ、この音は!?」

 どうやら今度はデザストレにも聞こえたらしい。厄災とかいうくせにうろたえすぎなんだよ。

『どうやらお前はこの世界の理から外れているようですね。ここに無事にたどり着けたこと、褒めて差し上げましょう』

「誰だ、姿を見せろ!」

 急に聞こえてきた声に、俺はつい叫んでしまう。
 その次の瞬間だった。
 目の前の木が急激に強い光を放ち始める。あまりの強さに、辺り一帯は真っ白な空間と化してしまったのだった。
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