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第一章 大陸編
第217話 転生者、取り囲まれる
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俺は思ったよりすぐに目を覚ます。
辺りはまだ真っ暗なので、まだまだ夜中といったところだ。
荒れ果てた場所だというのに、特に魔物の気配もなく静かなものだ。ついでに言えば、国境に近付いて撃たれてきた魔法も飛んでこない。どうやらあの魔法は国境に近付くものを無差別に迎撃する魔法だったようだな。
「東方帝国、謎だらけだな……」
隣でキリエが熟睡する中、俺は星空を見上げながら考え事をして過ごした。
それにしても、本当にこの世界は分からないことが多すぎる。
誰も見ることができない木や洞窟。デザストレだけが感知できた謎の魔法。そして、今いる東方帝国の内部。
さらにいえば、世界を取り囲む岩山もそうだ。
岩山に限って言えば、世界がまるでここだけで閉じてしまっている状況だしな。
「ひとまず、この東方帝国をよく調べるか。この水場のことはよく覚えておかないとな。地上から無事に帰れるとは限らないしな」
考えごとをしている俺だったが、まだ夜明けまで時間があるみたいなので、軽くもうひと眠りすることにしたのだった。
どのくらい眠っていたのか、声が聞こえてくる。
「魔王様、起きて下さい!」
「なんだ、もう少し寝かせてくれ……」
「魔王様、そんなことを言っておられる場合ではございません!」
「はっ!」
俺はどうやら軽く二度寝のはずが完全に眠っていたようだ。
キリエの焦った声に、俺は飛び起きた。
「どうした、キリエ。敵襲か?」
「はい、その通りでございます」
俺が尋ねると、キリエからはそう返ってきた。
すぐさま感知魔法を展開する。
「数は……100といったところか。ずいぶんと多いな」
「そのようですね。眠っている間にここを勘付かれてしまったようです」
「これじゃ、コモヤも心配だな。だが、どうする」
「襲ってくるようでしたら、返り討ちにして黙らせます」
キリエに対応を聞くと、こんな答えが返ってきた。まぁそうだな。身の安全が最優先だからな。
「キリエは隠れていてくれ。俺がまず出て話をしよう」
「……承知致しました。どうかご無事で」
「ああ、俺が簡単に死んでたまるかよ」
俺は親指を立てて出ていく。
湖の近くの高台に姿を見せると、湖を取り囲むように兵士たちが配置されていた。
それにしても、こいつらいったどこから来たっていうんだ。獣人である俺の勘に悟られることなく近付くとはな。
「代表者はいるか。話をしたい」
俺が声を張り上げる。
次の瞬間、兵士たちが一斉に武器を構える。
戦うしかないのかと俺が顔をしかめると、一人の男性がゆっくりと前に歩み出てきた。
「話くらいなら聞いてやる。お前は誰だ」
「人に名を聞くなら、自分から名乗るのが筋だろう。東方帝国には、そういう習わしはないのか?」
「侵入者に答える義理はないが、いいだろう教えてやる。私はケンソウ、東方帝国の将軍だ」
「ケンソウか、いい名だな。ならば俺も名乗ろう。俺の名前はセイ、現在の魔王だ」
俺が名乗ると、兵士たちの間に動揺が走っている。
まあ、無理もないだろう。魔王が自国内に侵入してるんだからな。魔族のトップ自らやって来てるっていうのも、なおさら衝撃を与えているだろうな。
「お前一人か? もう一人いるはずだが」
ちっ、人数まで把握済みか。
まあいい。別に争いに来たわけじゃないしな。話し合いができるのであるなら、それに越したことはない。
「ちょっと待ってろ、今呼ぶ。おい」
俺は念のため、名前を出すことなくキリエを呼び出す。
「女二人だけか。だが、魔王がいるということはそいつも魔族。一筋縄ではいかぬようだな」
「まあまあ、そう構えるな。俺たちは別に戦いをしに来たわけじゃない。魔王領内を調査している過程で、奇妙な横穴を発見してな。そこを通ってきたら、そこの湖の底に繋がっていたってわけだ」
俺は正直に事情を話す。
ところが、ケンソウの表情はこわばる一方だった。
「ほざけ! その湖には穴などない。下手な嘘はやめろ」
あー、やっぱり俺以外には見えないってパターンか。めんどくせえ……。
「嘘じゃねえよ。どうやら、俺にしか見えないものらしくてな。この部下もその穴を見ることはできなかったんだ。嘘だというのなら、誰でもいいから寄こしてくれ。見せてやるからよ」
「分かった、私が行こう」
なんとまあ、ケンソウ自らが名乗りを上げたか。大将の反応に部下たちが動揺しまくってるじゃないか。
「だが、嘘だと分かった時には容赦なく斬ってくれる」
「ああ、構わないぜ」
「ちょっと、魔王様!」
俺がケンソウの挑発に乗ると、キリエはびっくりした顔で止めようとしてきた。
「お前たちはここで待機。こやつの話の真偽を確かめてくる」
「はっ、お気をつけて下さいませ、将軍」
兵士たちも信頼をしきっているのか、誰一人として反発してくることはなかった。こいつはすごいな。
「それじゃ、この空気の球の中に入ってくれ。こいつで湖底まで移動する」
「よかろう。失礼するぞ」
というわけで、俺とキリエ、それと将軍ケンソウの三人で再び湖底へと潜っていく。
この結果いかんでは、話がうまく進みそうなので、無事に横穴に入れるといいんだがな。
俺はちょっと祈るような気持ちで、空気の球をゆっくりと湖底へと進めていった。
辺りはまだ真っ暗なので、まだまだ夜中といったところだ。
荒れ果てた場所だというのに、特に魔物の気配もなく静かなものだ。ついでに言えば、国境に近付いて撃たれてきた魔法も飛んでこない。どうやらあの魔法は国境に近付くものを無差別に迎撃する魔法だったようだな。
「東方帝国、謎だらけだな……」
隣でキリエが熟睡する中、俺は星空を見上げながら考え事をして過ごした。
それにしても、本当にこの世界は分からないことが多すぎる。
誰も見ることができない木や洞窟。デザストレだけが感知できた謎の魔法。そして、今いる東方帝国の内部。
さらにいえば、世界を取り囲む岩山もそうだ。
岩山に限って言えば、世界がまるでここだけで閉じてしまっている状況だしな。
「ひとまず、この東方帝国をよく調べるか。この水場のことはよく覚えておかないとな。地上から無事に帰れるとは限らないしな」
考えごとをしている俺だったが、まだ夜明けまで時間があるみたいなので、軽くもうひと眠りすることにしたのだった。
どのくらい眠っていたのか、声が聞こえてくる。
「魔王様、起きて下さい!」
「なんだ、もう少し寝かせてくれ……」
「魔王様、そんなことを言っておられる場合ではございません!」
「はっ!」
俺はどうやら軽く二度寝のはずが完全に眠っていたようだ。
キリエの焦った声に、俺は飛び起きた。
「どうした、キリエ。敵襲か?」
「はい、その通りでございます」
俺が尋ねると、キリエからはそう返ってきた。
すぐさま感知魔法を展開する。
「数は……100といったところか。ずいぶんと多いな」
「そのようですね。眠っている間にここを勘付かれてしまったようです」
「これじゃ、コモヤも心配だな。だが、どうする」
「襲ってくるようでしたら、返り討ちにして黙らせます」
キリエに対応を聞くと、こんな答えが返ってきた。まぁそうだな。身の安全が最優先だからな。
「キリエは隠れていてくれ。俺がまず出て話をしよう」
「……承知致しました。どうかご無事で」
「ああ、俺が簡単に死んでたまるかよ」
俺は親指を立てて出ていく。
湖の近くの高台に姿を見せると、湖を取り囲むように兵士たちが配置されていた。
それにしても、こいつらいったどこから来たっていうんだ。獣人である俺の勘に悟られることなく近付くとはな。
「代表者はいるか。話をしたい」
俺が声を張り上げる。
次の瞬間、兵士たちが一斉に武器を構える。
戦うしかないのかと俺が顔をしかめると、一人の男性がゆっくりと前に歩み出てきた。
「話くらいなら聞いてやる。お前は誰だ」
「人に名を聞くなら、自分から名乗るのが筋だろう。東方帝国には、そういう習わしはないのか?」
「侵入者に答える義理はないが、いいだろう教えてやる。私はケンソウ、東方帝国の将軍だ」
「ケンソウか、いい名だな。ならば俺も名乗ろう。俺の名前はセイ、現在の魔王だ」
俺が名乗ると、兵士たちの間に動揺が走っている。
まあ、無理もないだろう。魔王が自国内に侵入してるんだからな。魔族のトップ自らやって来てるっていうのも、なおさら衝撃を与えているだろうな。
「お前一人か? もう一人いるはずだが」
ちっ、人数まで把握済みか。
まあいい。別に争いに来たわけじゃないしな。話し合いができるのであるなら、それに越したことはない。
「ちょっと待ってろ、今呼ぶ。おい」
俺は念のため、名前を出すことなくキリエを呼び出す。
「女二人だけか。だが、魔王がいるということはそいつも魔族。一筋縄ではいかぬようだな」
「まあまあ、そう構えるな。俺たちは別に戦いをしに来たわけじゃない。魔王領内を調査している過程で、奇妙な横穴を発見してな。そこを通ってきたら、そこの湖の底に繋がっていたってわけだ」
俺は正直に事情を話す。
ところが、ケンソウの表情はこわばる一方だった。
「ほざけ! その湖には穴などない。下手な嘘はやめろ」
あー、やっぱり俺以外には見えないってパターンか。めんどくせえ……。
「嘘じゃねえよ。どうやら、俺にしか見えないものらしくてな。この部下もその穴を見ることはできなかったんだ。嘘だというのなら、誰でもいいから寄こしてくれ。見せてやるからよ」
「分かった、私が行こう」
なんとまあ、ケンソウ自らが名乗りを上げたか。大将の反応に部下たちが動揺しまくってるじゃないか。
「だが、嘘だと分かった時には容赦なく斬ってくれる」
「ああ、構わないぜ」
「ちょっと、魔王様!」
俺がケンソウの挑発に乗ると、キリエはびっくりした顔で止めようとしてきた。
「お前たちはここで待機。こやつの話の真偽を確かめてくる」
「はっ、お気をつけて下さいませ、将軍」
兵士たちも信頼をしきっているのか、誰一人として反発してくることはなかった。こいつはすごいな。
「それじゃ、この空気の球の中に入ってくれ。こいつで湖底まで移動する」
「よかろう。失礼するぞ」
というわけで、俺とキリエ、それと将軍ケンソウの三人で再び湖底へと潜っていく。
この結果いかんでは、話がうまく進みそうなので、無事に横穴に入れるといいんだがな。
俺はちょっと祈るような気持ちで、空気の球をゆっくりと湖底へと進めていった。
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