異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第232話 転生者、帝国から帰還する

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 ひと通りの作業を教えた俺たちは、ようやく魔王領に戻れそうだった。
 エイミーの仕掛けた国境の魔法攻撃も解除されたので、俺たちは安心して地上を行き来できるというものだ。

「いやあ、帰りもあの水中洞窟を通るかと思ったら、最初は憂鬱だったぜ」

「そうですね。あの中で何日くらい過ごしたでしょうかね」

「空気草のおかげで呼吸はずっと持ってたけど、十本は使ったんじゃないかな」

 俺とキリエは困った顔で話している。

「それなら、大体五日間くらいなのー。わちの特別製だから、そこらの空気草より効果の持続時間は長いのよー」

「そ、そうなのか……」

 にこにこと話に割り込んできたウネに、俺たちは戸惑いながら反応する。
 むふーと実に自慢げにウネは胸を張っている。

「いろいろと世話になったな。またいつでも遊びに来てくれ。余はおぬしのことをとても気に入ったぞ」

「それはどうも。国内の安定を進めておいてくれよ」

「分かっておる。余にはエイミーとケンソウがいる。必ずは父上の代で乱れた国内をまとめてやろうではないか」

 皇帝は自信たっぷりに言ってのけていた。
 なぜだろうかな。こいつならやってくれそうだという謎の安心感があるぜ。
 いざ魔王領に帰るとなって、俺はデザストレを元の姿に戻させる。

「おおっ、なかなかかっこいいな!」

 目の前に現れた漆黒のドラゴンを見て、皇帝がものすごく興奮している。
 皇帝とはいっても、そこはまだまだ少年ということなのだろうな。
 異世界とはいっても、少年の感性というものは基本的に変わらないんだなと、俺はそう感じて顔をほころばせていた。

「余裕ができたら、魔王領にも遊びに来てくれよな。いろんなやつがいるから、飽きないと思うぜ」

「うむ、そうだな。余のすべきこと、それは東方帝国内の情勢の安定だな」

 皇帝はそう言い切ると、くるりと部下の方へと向き直る。
 そこに立っているのは、秘書であるエイミーと将軍のケンソウの二人。皇帝が全幅の信頼を寄せる二人である。

「エイミー、ケンソウ。この帝国の安定のため、お前たちの力を貸してくれ!」

「はっ。このケンソウ、命に代えましても、陛下の理想の実現のために邁進いたしましょう」

「もちろんでございますにゃ、陛下。先代様より受けた御恩、陛下のために尽くしてお返しいたしますにゃ」

 二人の忠臣の姿に、皇帝は満足そうに笑っていた。
 その姿を見届けた俺たちは、いよいよ魔王領へと戻ることにする。

「それじゃ、俺たちはこれで失礼するぜ。ここの農村のことは気になるから、また見に来させてもらうぞ」

「ああ、今度来た時には、お前たちをあっと言わせてやろうではないか」

「ふっ、それは楽しみだな。それじゃまたな!」

 俺がそう告げると、デザストレの背中にキリエ、コモヤ、それとウネが乗り込んでいく。最後に俺が飛び乗ると、デザストレはやれやれといった表情で翼をはためかせる。
 空中へと浮き上がり、魔王領へと向けて飛び始めた。

「ふぅ、ようやく東方帝国から戻れるな……」

「いやはや、まさかこんな状況になっているとは思いませんでしたね」

「わちは楽しかったのー」

「潜入を試みていたうちは何だったのでしょうかね……」

 ほっとする俺とは違い、三人はそれぞれの反応を示していた。
 ただ、デザストレだけはまったく口を利いていない。おそらく、同じ混沌から生まれたエイミーとしばらく一緒にいたので機嫌が悪いのだろう。
 エイミーもかなりデザストレのことを嫌っているみたいだし、今はこのままそっとしておこうか。

「コモヤは本当にお疲れ様だったな。まさかあんなことになっているとは思わなかったし、水中から行けるとは思わなかったからな」

「ええ、本当に酷い魔法攻撃でした」

 落ち込むコモヤをキリエが一生懸命慰めている。こういうところはさすが姉妹だな。

「しかし、魔王様」

「なんだ、キリエ」

「あの水中の穴は何だったのでしょうかね。魔王様しか見ることができなかったというのがとても気になります」

「確かにな……」

 俺もはっきりいって仕組みが分からない。
 キリエの言う通り、水中にある横穴は、キリエもケンソウも見ることはできなかった。あの不思議な木のこともあるから、おそらくデザストレ、根源が同じエイミーも見ることはできないだろうな。
 まったく、この世界には謎というものが多すぎる。
 続きを調べたいところだが、帝国での滞在が思ったより長引いてしまった。まずは、魔王領や周辺国でやらなきゃいけないことから順番に片付けていくべきだろう。
 いろいろとやることが増えていっているので、俺はため息が止まらないというものだ。
 早くエイミーから離れたいデザストレが全力で飛んでいるために、あっという間に目の前には魔王城が見えてきた。ウネを連れてくるためにすぐに離れたせいで、なんだかものすごく久しぶりな感じがするな。
 魔王城に戻った俺はキリエやコモヤたちを労った後、まずはウネを庭園に送り届ける。そこから順番に城の中を巡り、魔王城で働く魔族や人間たちを一人一人労って回った。

 うん、しばらくは最低限のお出かけしかしないでおこうな。
 俺は心に固く誓った。
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