232 / 431
第一章 大陸編
第232話 転生者、帝国から帰還する
しおりを挟む
ひと通りの作業を教えた俺たちは、ようやく魔王領に戻れそうだった。
エイミーの仕掛けた国境の魔法攻撃も解除されたので、俺たちは安心して地上を行き来できるというものだ。
「いやあ、帰りもあの水中洞窟を通るかと思ったら、最初は憂鬱だったぜ」
「そうですね。あの中で何日くらい過ごしたでしょうかね」
「空気草のおかげで呼吸はずっと持ってたけど、十本は使ったんじゃないかな」
俺とキリエは困った顔で話している。
「それなら、大体五日間くらいなのー。わちの特別製だから、そこらの空気草より効果の持続時間は長いのよー」
「そ、そうなのか……」
にこにこと話に割り込んできたウネに、俺たちは戸惑いながら反応する。
むふーと実に自慢げにウネは胸を張っている。
「いろいろと世話になったな。またいつでも遊びに来てくれ。余はおぬしのことをとても気に入ったぞ」
「それはどうも。国内の安定を進めておいてくれよ」
「分かっておる。余にはエイミーとケンソウがいる。必ずは父上の代で乱れた国内をまとめてやろうではないか」
皇帝は自信たっぷりに言ってのけていた。
なぜだろうかな。こいつならやってくれそうだという謎の安心感があるぜ。
いざ魔王領に帰るとなって、俺はデザストレを元の姿に戻させる。
「おおっ、なかなかかっこいいな!」
目の前に現れた漆黒のドラゴンを見て、皇帝がものすごく興奮している。
皇帝とはいっても、そこはまだまだ少年ということなのだろうな。
異世界とはいっても、少年の感性というものは基本的に変わらないんだなと、俺はそう感じて顔をほころばせていた。
「余裕ができたら、魔王領にも遊びに来てくれよな。いろんなやつがいるから、飽きないと思うぜ」
「うむ、そうだな。余のすべきこと、それは東方帝国内の情勢の安定だな」
皇帝はそう言い切ると、くるりと部下の方へと向き直る。
そこに立っているのは、秘書であるエイミーと将軍のケンソウの二人。皇帝が全幅の信頼を寄せる二人である。
「エイミー、ケンソウ。この帝国の安定のため、お前たちの力を貸してくれ!」
「はっ。このケンソウ、命に代えましても、陛下の理想の実現のために邁進いたしましょう」
「もちろんでございますにゃ、陛下。先代様より受けた御恩、陛下のために尽くしてお返しいたしますにゃ」
二人の忠臣の姿に、皇帝は満足そうに笑っていた。
その姿を見届けた俺たちは、いよいよ魔王領へと戻ることにする。
「それじゃ、俺たちはこれで失礼するぜ。ここの農村のことは気になるから、また見に来させてもらうぞ」
「ああ、今度来た時には、お前たちをあっと言わせてやろうではないか」
「ふっ、それは楽しみだな。それじゃまたな!」
俺がそう告げると、デザストレの背中にキリエ、コモヤ、それとウネが乗り込んでいく。最後に俺が飛び乗ると、デザストレはやれやれといった表情で翼をはためかせる。
空中へと浮き上がり、魔王領へと向けて飛び始めた。
「ふぅ、ようやく東方帝国から戻れるな……」
「いやはや、まさかこんな状況になっているとは思いませんでしたね」
「わちは楽しかったのー」
「潜入を試みていたうちは何だったのでしょうかね……」
ほっとする俺とは違い、三人はそれぞれの反応を示していた。
ただ、デザストレだけはまったく口を利いていない。おそらく、同じ混沌から生まれたエイミーとしばらく一緒にいたので機嫌が悪いのだろう。
エイミーもかなりデザストレのことを嫌っているみたいだし、今はこのままそっとしておこうか。
「コモヤは本当にお疲れ様だったな。まさかあんなことになっているとは思わなかったし、水中から行けるとは思わなかったからな」
「ええ、本当に酷い魔法攻撃でした」
落ち込むコモヤをキリエが一生懸命慰めている。こういうところはさすが姉妹だな。
「しかし、魔王様」
「なんだ、キリエ」
「あの水中の穴は何だったのでしょうかね。魔王様しか見ることができなかったというのがとても気になります」
「確かにな……」
俺もはっきりいって仕組みが分からない。
キリエの言う通り、水中にある横穴は、キリエもケンソウも見ることはできなかった。あの不思議な木のこともあるから、おそらくデザストレ、根源が同じエイミーも見ることはできないだろうな。
まったく、この世界には謎というものが多すぎる。
続きを調べたいところだが、帝国での滞在が思ったより長引いてしまった。まずは、魔王領や周辺国でやらなきゃいけないことから順番に片付けていくべきだろう。
いろいろとやることが増えていっているので、俺はため息が止まらないというものだ。
早くエイミーから離れたいデザストレが全力で飛んでいるために、あっという間に目の前には魔王城が見えてきた。ウネを連れてくるためにすぐに離れたせいで、なんだかものすごく久しぶりな感じがするな。
魔王城に戻った俺はキリエやコモヤたちを労った後、まずはウネを庭園に送り届ける。そこから順番に城の中を巡り、魔王城で働く魔族や人間たちを一人一人労って回った。
うん、しばらくは最低限のお出かけしかしないでおこうな。
俺は心に固く誓った。
エイミーの仕掛けた国境の魔法攻撃も解除されたので、俺たちは安心して地上を行き来できるというものだ。
「いやあ、帰りもあの水中洞窟を通るかと思ったら、最初は憂鬱だったぜ」
「そうですね。あの中で何日くらい過ごしたでしょうかね」
「空気草のおかげで呼吸はずっと持ってたけど、十本は使ったんじゃないかな」
俺とキリエは困った顔で話している。
「それなら、大体五日間くらいなのー。わちの特別製だから、そこらの空気草より効果の持続時間は長いのよー」
「そ、そうなのか……」
にこにこと話に割り込んできたウネに、俺たちは戸惑いながら反応する。
むふーと実に自慢げにウネは胸を張っている。
「いろいろと世話になったな。またいつでも遊びに来てくれ。余はおぬしのことをとても気に入ったぞ」
「それはどうも。国内の安定を進めておいてくれよ」
「分かっておる。余にはエイミーとケンソウがいる。必ずは父上の代で乱れた国内をまとめてやろうではないか」
皇帝は自信たっぷりに言ってのけていた。
なぜだろうかな。こいつならやってくれそうだという謎の安心感があるぜ。
いざ魔王領に帰るとなって、俺はデザストレを元の姿に戻させる。
「おおっ、なかなかかっこいいな!」
目の前に現れた漆黒のドラゴンを見て、皇帝がものすごく興奮している。
皇帝とはいっても、そこはまだまだ少年ということなのだろうな。
異世界とはいっても、少年の感性というものは基本的に変わらないんだなと、俺はそう感じて顔をほころばせていた。
「余裕ができたら、魔王領にも遊びに来てくれよな。いろんなやつがいるから、飽きないと思うぜ」
「うむ、そうだな。余のすべきこと、それは東方帝国内の情勢の安定だな」
皇帝はそう言い切ると、くるりと部下の方へと向き直る。
そこに立っているのは、秘書であるエイミーと将軍のケンソウの二人。皇帝が全幅の信頼を寄せる二人である。
「エイミー、ケンソウ。この帝国の安定のため、お前たちの力を貸してくれ!」
「はっ。このケンソウ、命に代えましても、陛下の理想の実現のために邁進いたしましょう」
「もちろんでございますにゃ、陛下。先代様より受けた御恩、陛下のために尽くしてお返しいたしますにゃ」
二人の忠臣の姿に、皇帝は満足そうに笑っていた。
その姿を見届けた俺たちは、いよいよ魔王領へと戻ることにする。
「それじゃ、俺たちはこれで失礼するぜ。ここの農村のことは気になるから、また見に来させてもらうぞ」
「ああ、今度来た時には、お前たちをあっと言わせてやろうではないか」
「ふっ、それは楽しみだな。それじゃまたな!」
俺がそう告げると、デザストレの背中にキリエ、コモヤ、それとウネが乗り込んでいく。最後に俺が飛び乗ると、デザストレはやれやれといった表情で翼をはためかせる。
空中へと浮き上がり、魔王領へと向けて飛び始めた。
「ふぅ、ようやく東方帝国から戻れるな……」
「いやはや、まさかこんな状況になっているとは思いませんでしたね」
「わちは楽しかったのー」
「潜入を試みていたうちは何だったのでしょうかね……」
ほっとする俺とは違い、三人はそれぞれの反応を示していた。
ただ、デザストレだけはまったく口を利いていない。おそらく、同じ混沌から生まれたエイミーとしばらく一緒にいたので機嫌が悪いのだろう。
エイミーもかなりデザストレのことを嫌っているみたいだし、今はこのままそっとしておこうか。
「コモヤは本当にお疲れ様だったな。まさかあんなことになっているとは思わなかったし、水中から行けるとは思わなかったからな」
「ええ、本当に酷い魔法攻撃でした」
落ち込むコモヤをキリエが一生懸命慰めている。こういうところはさすが姉妹だな。
「しかし、魔王様」
「なんだ、キリエ」
「あの水中の穴は何だったのでしょうかね。魔王様しか見ることができなかったというのがとても気になります」
「確かにな……」
俺もはっきりいって仕組みが分からない。
キリエの言う通り、水中にある横穴は、キリエもケンソウも見ることはできなかった。あの不思議な木のこともあるから、おそらくデザストレ、根源が同じエイミーも見ることはできないだろうな。
まったく、この世界には謎というものが多すぎる。
続きを調べたいところだが、帝国での滞在が思ったより長引いてしまった。まずは、魔王領や周辺国でやらなきゃいけないことから順番に片付けていくべきだろう。
いろいろとやることが増えていっているので、俺はため息が止まらないというものだ。
早くエイミーから離れたいデザストレが全力で飛んでいるために、あっという間に目の前には魔王城が見えてきた。ウネを連れてくるためにすぐに離れたせいで、なんだかものすごく久しぶりな感じがするな。
魔王城に戻った俺はキリエやコモヤたちを労った後、まずはウネを庭園に送り届ける。そこから順番に城の中を巡り、魔王城で働く魔族や人間たちを一人一人労って回った。
うん、しばらくは最低限のお出かけしかしないでおこうな。
俺は心に固く誓った。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる