239 / 431
第一章 大陸編
第239話 転生者、最大の危機
しおりを挟む
ヒョウムが取った作戦。それは自分自身を魔法の起点として起こす爆発魔法だった。
しかも、その禁断ともいえる魔法を二重掛けという念の入れよう。純魔族に魔王の座が戻らぬのであるなら、純魔族ごと消え去ろうというなんとも歪んだ考えから来るものだった。
この魔法の厄介なところは、魔法の発動者が死ぬとその場で発動するという点。しかも、その気になれば術者自身が起爆させることもできる。
俺みたいな情の厚い連中には効果抜群の魔法だった。
「おらおら、どうした。魔王ともあろう者が防戦一方か? ははっ、実にいい人形だな」
「くそっ!」
下手に攻撃を仕掛ければ、こいつの思うつぼだ。俺とデザストレは、ヒョウムの攻撃をいなすことしかできなかった。
「デザストレ!」
「なんだ?」
ここで一か八かの作戦に出る。
デザストレを集落に向かわせて、俺が時間を稼ぐ間に純魔族を退避させる。頃合いを見て、相打ち覚悟でヒョウムを討ち取るというものだ。
「お前、それじゃお前が……!」
「俺一人の犠牲で済むならそれでいいんだよ。今の俺にとってはどんな魔族も家族同然だ。みんなを守らなきゃいけないんだよ!」
「くっ……。絶対勝ち逃げなど許さぬからな!」
俺の声を聞いたデザストレが、ドラゴンの姿になって飛び立とうとする。
だが、このままでは目立ってしまう。どうにかヒョウムの注意を逸らさないとな。
「舞え!」
俺はその場で風魔法を発動させる。
土埃を発生させて、ヒョウムの視界を遮るためだ。
瞬間移動は、さっき使ってしまったためにしばらく使えないとか言いやがるからな。こうやってごまかすしかねえんだよ。
「目くらましのつもりか? はああっ!」
「ぐっ!」
俺の起こした魔法の風を、ヒョウムは突風を起こして晴れ渡らせようとする。
でもな、その方向に払ってくれるなら好都合だ。デザストレを追尾するように土埃が舞うからな。
だが、しばらくは俺からも視線を逸らしてもらうぜ。デザストレの存在を意識から消せるようにな。
「はあっ!」
ライネスやヴォルフたちと暇を見つけて行っていた体術の成果、ここで見せてやろうじゃないか。
「くっ、肉弾戦か。魔王のくせに予想外の行動を取ってくれるな」
「お前こそ、純魔族の長としてのプライドはねえのかよ。キリエなんて魔王軍の参謀だぞ? 父親として胸を十分張れるだろうが」
「ほざけ、小娘が!」
前世で見た格闘漫画ばりの肉弾戦かよ。
まったく、こんな拳での殴り合いを異世界でやるとは思ってもみなかったぜ。
互いの拳を拳で防いだり、避けて躱したり、俺もよくこれだけ動けるもんだな。獣人の身体能力っていうやつだろうか。
魔王の力、獣人の能力、転生者チートと組み合わされば、大抵の相手は敵わない。気が付けば俺が徐々にヒョウムを追い詰めていた。
「ぐっ、なんだこの力は……。この俺がまったく歯が立たないとは」
「これでも俺は魔王だぞ。そう簡単に力の差をひっくり返せると思うな!」
はい、本当はいろんな力の合わせ技なんだよ。
悪いな、純魔族の長。最初から純粋な力比べでお前には勝ち目はなかったんだ。
ところがだ。ここで奴はついに最終手段に打って出てきた。
「もはやこれまで!」
おい、時代劇の悪役のセリフかよ。
このセリフとともに、ヒョウムは俺めがけて突進を仕掛けてきた。
ここは魔王として受け止めてやりたいところだが、獣人としての勘がひしひしと悪い予感を感じ取っている。
(ここは躱す一択だな!)
闘牛士のようにギリギリまで引き付けて、俺はヒョウムの突進をすんでのところで躱す。
……躱したはずだった。
「うげっ、なんだこれは」
「ふはははっ! 捕まえたぞ!」
ヒョウムは高笑いをすると、俺に引っ付けた魔力の綱を引っ張っている。
「くっ、命綱ってわけか」
「その通りよ。貴様の命を奪うための命綱だ!」
どうにかしようとしていろいろ試してみるが、まったくもってちぎれねえ。
「無駄だ。俺の執念を魔力で具現化したものだからな。お前を決して離すことはないぞ、わーっはっはっはっ!」
「嫌だなぁ、そういう告白はよ。もっと雰囲気のある方がいいぜ」
「ほざけ!」
ヒョウムが魔力の綱を引っ張って、俺を近くに引き寄せようとする。
おそらく近くまで寄れば、ヒョウムは俺に羽交い絞めになって魔法を発動させるだろう。
まったく、自爆魔法をゼロ距離で食らうわけにはいかない。さすがの俺でもただじゃすまないだろうな。
必死に抵抗を試みるが、引っ張る力が強くなっていっている。心に強さが比例するのかよ。
「さあ、俺と一緒に死ぬがいい、汚らわしい魔王よ!」
「どっちが汚らわしいんだよ、この野郎!」
いくら抵抗しても、俺はじわじわとヒョウムに引き寄せられていく。
くそっ、このままじゃいけない。そう思った時だった。
「みゃああっ!!」
猫の鳴き声が響き渡る。
「ぶべっ!」
それと同時に、ヒョウムはその肉球に踏みつぶされていた。
「まったく、私の近くで厄介な魔力を放つんじゃないのにゃ!」
「え、エイミー?」
「そうにゃ。調和のエイミー様の登場にゃ!」
俺のピンチに颯爽と現れたのは、東方帝国の皇帝の補佐を務めるエイミーだった。
しかも、その禁断ともいえる魔法を二重掛けという念の入れよう。純魔族に魔王の座が戻らぬのであるなら、純魔族ごと消え去ろうというなんとも歪んだ考えから来るものだった。
この魔法の厄介なところは、魔法の発動者が死ぬとその場で発動するという点。しかも、その気になれば術者自身が起爆させることもできる。
俺みたいな情の厚い連中には効果抜群の魔法だった。
「おらおら、どうした。魔王ともあろう者が防戦一方か? ははっ、実にいい人形だな」
「くそっ!」
下手に攻撃を仕掛ければ、こいつの思うつぼだ。俺とデザストレは、ヒョウムの攻撃をいなすことしかできなかった。
「デザストレ!」
「なんだ?」
ここで一か八かの作戦に出る。
デザストレを集落に向かわせて、俺が時間を稼ぐ間に純魔族を退避させる。頃合いを見て、相打ち覚悟でヒョウムを討ち取るというものだ。
「お前、それじゃお前が……!」
「俺一人の犠牲で済むならそれでいいんだよ。今の俺にとってはどんな魔族も家族同然だ。みんなを守らなきゃいけないんだよ!」
「くっ……。絶対勝ち逃げなど許さぬからな!」
俺の声を聞いたデザストレが、ドラゴンの姿になって飛び立とうとする。
だが、このままでは目立ってしまう。どうにかヒョウムの注意を逸らさないとな。
「舞え!」
俺はその場で風魔法を発動させる。
土埃を発生させて、ヒョウムの視界を遮るためだ。
瞬間移動は、さっき使ってしまったためにしばらく使えないとか言いやがるからな。こうやってごまかすしかねえんだよ。
「目くらましのつもりか? はああっ!」
「ぐっ!」
俺の起こした魔法の風を、ヒョウムは突風を起こして晴れ渡らせようとする。
でもな、その方向に払ってくれるなら好都合だ。デザストレを追尾するように土埃が舞うからな。
だが、しばらくは俺からも視線を逸らしてもらうぜ。デザストレの存在を意識から消せるようにな。
「はあっ!」
ライネスやヴォルフたちと暇を見つけて行っていた体術の成果、ここで見せてやろうじゃないか。
「くっ、肉弾戦か。魔王のくせに予想外の行動を取ってくれるな」
「お前こそ、純魔族の長としてのプライドはねえのかよ。キリエなんて魔王軍の参謀だぞ? 父親として胸を十分張れるだろうが」
「ほざけ、小娘が!」
前世で見た格闘漫画ばりの肉弾戦かよ。
まったく、こんな拳での殴り合いを異世界でやるとは思ってもみなかったぜ。
互いの拳を拳で防いだり、避けて躱したり、俺もよくこれだけ動けるもんだな。獣人の身体能力っていうやつだろうか。
魔王の力、獣人の能力、転生者チートと組み合わされば、大抵の相手は敵わない。気が付けば俺が徐々にヒョウムを追い詰めていた。
「ぐっ、なんだこの力は……。この俺がまったく歯が立たないとは」
「これでも俺は魔王だぞ。そう簡単に力の差をひっくり返せると思うな!」
はい、本当はいろんな力の合わせ技なんだよ。
悪いな、純魔族の長。最初から純粋な力比べでお前には勝ち目はなかったんだ。
ところがだ。ここで奴はついに最終手段に打って出てきた。
「もはやこれまで!」
おい、時代劇の悪役のセリフかよ。
このセリフとともに、ヒョウムは俺めがけて突進を仕掛けてきた。
ここは魔王として受け止めてやりたいところだが、獣人としての勘がひしひしと悪い予感を感じ取っている。
(ここは躱す一択だな!)
闘牛士のようにギリギリまで引き付けて、俺はヒョウムの突進をすんでのところで躱す。
……躱したはずだった。
「うげっ、なんだこれは」
「ふはははっ! 捕まえたぞ!」
ヒョウムは高笑いをすると、俺に引っ付けた魔力の綱を引っ張っている。
「くっ、命綱ってわけか」
「その通りよ。貴様の命を奪うための命綱だ!」
どうにかしようとしていろいろ試してみるが、まったくもってちぎれねえ。
「無駄だ。俺の執念を魔力で具現化したものだからな。お前を決して離すことはないぞ、わーっはっはっはっ!」
「嫌だなぁ、そういう告白はよ。もっと雰囲気のある方がいいぜ」
「ほざけ!」
ヒョウムが魔力の綱を引っ張って、俺を近くに引き寄せようとする。
おそらく近くまで寄れば、ヒョウムは俺に羽交い絞めになって魔法を発動させるだろう。
まったく、自爆魔法をゼロ距離で食らうわけにはいかない。さすがの俺でもただじゃすまないだろうな。
必死に抵抗を試みるが、引っ張る力が強くなっていっている。心に強さが比例するのかよ。
「さあ、俺と一緒に死ぬがいい、汚らわしい魔王よ!」
「どっちが汚らわしいんだよ、この野郎!」
いくら抵抗しても、俺はじわじわとヒョウムに引き寄せられていく。
くそっ、このままじゃいけない。そう思った時だった。
「みゃああっ!!」
猫の鳴き声が響き渡る。
「ぶべっ!」
それと同時に、ヒョウムはその肉球に踏みつぶされていた。
「まったく、私の近くで厄介な魔力を放つんじゃないのにゃ!」
「え、エイミー?」
「そうにゃ。調和のエイミー様の登場にゃ!」
俺のピンチに颯爽と現れたのは、東方帝国の皇帝の補佐を務めるエイミーだった。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる