異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
240 / 431
第一章 大陸編

第240話 転生者、間を取り持つ

しおりを挟む
 俺のピンチに現れたのは、東方帝国のエイミーだった。
 ここは帝国との国境からそれなりに離れた場所だ。だというのに、どうしてエイミーがいるのだろうか。まったくもって状況が理解できない。

「私は調和を司る存在よ。それを乱そうとする者がいたら、反応するに決まっているわ。それが魔族であるならなおさらね」

 なるほどな?
 だったら、皇帝の命を狙う不届き者もすぐ分かるだろうが。どこか抜けてるのは、デザストレと一緒だな……。
 俺はエイミーにジト目を向ける。

「にゃ、にゃによ。エイミーは優秀だにゃ。ポンコツなんかじゃないにゃ」

 言い繕っているようだが、どこまでいってもエイミーのポンコツ疑惑は払拭しきれねえよ。
 とまあ、いろいろ言いたいことはあるところだが、ヒョウムが気絶したおかげで、面倒な魔法が発動しなくて済みそうだぜ。

「まったく、こいつは何なのにゃ。物騒な魔法のにおいがするのにゃ」

 肉球の下敷きになって気を失っているヒョウムを見ながら、エイミーは文句を言っている。
 状況が分からないというところだろうかな。
 しょうがないので、俺はエイミーに事情を説明する。そしたら、エイミーは目をまん丸にして驚いていた。

「ばっかじゃないのにゃ?! 道連れにするとか、さすがは魔族にゃ。信じられないにゃ」

 エイミーにぼろっかすに言われている。これでも純魔族の長なんだよな、こいつ。
 だが、今はこんな風に話をしている場合じゃない。気絶したヒョウムが目を覚ませば、魔法を発動させる危険性がある。
 この魔法をどうにかする方が先決なんだよな。

「なあ、エイミー」

「なんなのにゃ?」

「こいつが使おうとしている魔法、解除することは可能か?」

 さすがの俺も魔法の無効化方法が分からない。魔族よりも上位の存在であろうこいつなら、もしかしたらと思って声を掛けている。

「もちろんにゃ。このエイミー様をなめてはいけないのにゃ」

 なんとまあ。エイミーからは自信満々の返事だ。

「ただ、魔法を使うにはこのままじゃ厳しいのにゃ。人間の姿の方が魔力を練りやすいのにゃ」

 ヒョウムの上でエイミーは姿を変えていく。変身したその姿は、確かに補佐のエイミーその人である。

「ちょっと待ってるのにゃ。こんな魔法、私の力でちょちょいのちょいにゃ」

 いや、そんな単語をこっちの世界で聞くとは思わなかったな。時折、本当に異世界なのかと思えるような言い回しが聞こえてくる。
 本当にそういっているのか、俺が持っているだろうスキルでの変換でおかしなことになっているのか。まったく分からねえな、これ。
 ヒョウムに対して魔法を使うエイミーだったが、その表情は段々と険しいものになっていっていた。

「どうしたんだよ。お前の魔法でちょちょいのちょいなんだろ。まさかできないっていうわけじゃないだろうな」

「できないじゃないのにゃ。いや、結果としてはできていないと一緒なのにゃ」

「どういうことだよ、それ」

 状況がよく分からんな。俺はエイミーに説明を求めている。

「解除はできているのにゃ。でも、すぐに再構築されてしまうのにゃ」

「なんだよ、それ」

「おそらくは、同じ魔法が別の場所でも展開されていて、同時に解かないことには解除できないのにゃ」

「はあ?!」

 エイミーの説明を聞いて、俺は表情が歪んでしまう。
 説明のままに状況を理解すると、こういうことだろう。
 エイミーはヒョウムが使っている魔法が解ける状態にある。だが、同じ魔法が別の場所でも展開されていて、解いてもそちらの影響ですぐに魔法が再現されるということだろう。

「ということは、純魔族の集落の魔法も同時に解除しなければならないってことかよ」

「そういうことにゃ。さすがの私も分身はできないのにゃ」

「参ったな……。純魔族の集落までは距離がある。伝えるにしてもすぐってわけにはいかねえな……」

 予想外の展開に、俺の焦りは募っていくばかりだった。

「……ひとつだけ、伝える方法はあるにゃ」

「なんだ、それは」

 エイミーが突然呟いたことに俺は驚いたが、その表情を見た瞬間に俺は悟った。

「……デザストレ、厄災絡みか」

 俺の言葉に、エイミーはこくりと頷いている。

「同じ混沌の存在から生まれた厄災と調和にゃ。普段は真逆なので、心が通じるとかありえないにゃ」

「まあ、それはそうだな」

 エイミーの言葉に異様に納得がいってしまう。
 だが、今はそんなことをいっている場合じゃない。
 ここまで追い詰められたヒョウムはこのままでも構わないんだが、魔法を発動すると同時に純魔族の集落が吹き飛ぶのが許せない。

「エイミー、ちょっと手を出せ」

「な、なんなのにゃ?!」

 俺は歯を食いしばると、エイミーに声を掛ける。

「デザストレは俺の部下だ。もしかしたら俺を通じて連絡が取り合えるかもしれない。そうすれば、同時に破壊できるかもしれない」

「な、なるほどにゃ。分かったのにゃ、それに賭けてみるにゃ!」

 意外とすんなり理解したエイミーは、俺の手を取ってくれた。

「うう……」

 その瞬間だった。気絶していたヒョウムが目を覚まそうとしている。

「もうちょっと寝てるのにゃ!」

「うぼぁっ!」

 気が付いたエイミーが跳び上がって思いきり踏みつけていた。あまりにもダメージが大きかったのか、ヒョウムは再び気を失った。

「これでもうしばらく大丈夫にゃ。さっさと始めるにゃ」

「あ、ああ」

 にこにこと満面の笑みを浮かべるエイミーの姿に、さすがの俺もドン引きする。
 エイミーの手を握り、俺を中継地点としてデザストレと連絡を取る。
 はっきりいって賭けではあるが、わずかな望みをこの方法に託したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...