異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第244話 転生者、戻らぬ者を心配する

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 前世の感覚からすれば、ひと月経ったという頃だろうか。

「ふわ~……、ようやく仕事が落ち着いてきたな」

 山のように積み上がっていた書類の処理がようやく片付いたのだ。
 あれだけ朝から晩まで確認していて、なんでひと月もかかるんだよ。少しくらい遠慮ってものはないのかよ。魔族ってこういう奴らだよな、まったく。
 ちなみにだが、まだキリエたちは純魔族の集落から戻ってこない。集落自体は魔王城からかなり近いんだが、まさかひと月経っても帰ってこないとは思わなかった。
 純魔族たちの問題というのは、そのくらいにめんどくさいものなんだろうな。
 そんなわけで、俺の仕事が落ち着いたということもあって、デザストレと一緒に純魔族の集落へと向かうことにした。
 部下が困っているならサポートするのが上司ってもんだからな。
 ……まあ、最後に勤めていた会社はブラックすぎて、そんなことはまったくなかったんだがな。
 とりあえず、そんな前世のことは今はどうでもいい。ひとまずは訓練場にいるはずのデザストレを尋ねることにする。

 訓練場に到着すると、デザストレがヴォルフといい勝負を繰り広げていた。
 魔王軍の中でも屈指の実力者であるヴォルフは、デザストレとの稽古の中でもめきめきと実力を伸ばしていた。
 同じ獣人ということもあって、俺も密かに鼻が高いってものだ。

「おーい、デザストレ。ちょっといいか?」

「あ、なんだよ。今いいところなのによ」

 俺が呼ぶと、デザストレは機嫌が悪そうに返事をしてくる。
 だが、目の前のヴォルフは既に俺に対して跪いている。もう戦いは終わってるんだよ、残念だったな。

「チッ」

 おい、舌打ちがでけえよ。
 ツッコミを入れたいところだが、ひとまず今は我慢だ。

「純魔族の集落に向かうぞ。キリエたちがいくらなんでも遅すぎるんでな」

「ああ、あのメイドたちか。確かに最近見てないな」

 デザストレも納得したかのように首を捻っている。

「純魔族の長が抜けた後継を決めるんだっけか。俺様は正直どうでもいいんだがな。魔族たちの関係でさっさと決めておいた方がいいってわけか」

「そういうことだな。とりあえず、さっさと様子を見に行きたい。飛んでくれるか?」

「分かった、しょうがねえな。さっさと行くぞ」

 デザストレはドラゴンの姿となり、俺を背中に乗せる。

「ヴォルフ、バフォメットたちと一緒に留守を頼む」

「承知致しました。いってらっしゃいませ、魔王様」

 頼みごとをした俺は、デザストレと一緒に純魔族の集落へと急いだのだった。

 通常なら魔王領の馬車で一日で着くような場所だが、デザストレの飛行であれば大して時間がかからない。
 上空から純魔族の集落を眺めてみるのだが、特に問題のあるような様子は見受けられない。
 ならば、どうしてキリエたちが戻ってこないのか。俺とデザストレはその疑問を解決するために、集落へと降下していく。
 俺が見た純魔族の集落は、特に混乱があるというわけではなかった。その様子を見る限り、どうして三人が魔王城に戻ってこないのか、まったく理解ができないというものだ。

「特に問題はなさそうだな」

「ああ、そうだな。とりあえず屋敷に向かうか」

 俺たちは純魔族の集落の中をじっくりと見ながら、ヒョウムが住んでいた屋敷へと向かっていく。
 本当に、これといった問題点は見当たらない。だが、キリエたちはまったく戻ってこない。
 どこに理由が転がっているのか。それを探るべく、俺たちは純魔族の長の屋敷に到着した。

「これは魔王様、ようこそお越し下さいました」

「ご苦労。キリエたちは中でいいのか?」

「はい、それで合っております」

 門番が以前とは違って俺にうざ絡みをしてこない。やはり、ヒョウムが退場になったのが大きいようだ。
 じろじろと見て回っているものの、屋敷の中を含めても本当に問題がなさそうだ。

「はいはい、どいたどいたーっ!」

 突然、元気な威勢のいい声が聞こえてくる。うん、ものすごく聞いたことのある声だ。

「カスミ、元気そうだな」

「うっわ、魔王様じゃん。最悪」

「おい、久しぶりに会って言う言葉がそれかよ」

 カスミの放った言葉に、俺はちょっとイラッと来た。
 なぜちょっとか。そもそもこういう口の利き方をするやつだからだよ。しばらく聞いてなかったからイラッと来ただけだ。

「なあ、なんで魔王城に戻ってこないんだ。何か問題が起きてるのか?」

「起きてるも何も……。ああ、掃除の途中だから、詳細はキリエ姉に聞いて。ヒョウムの部屋にいるはずだから」

 カスミはバタバタと廊下を走り去っていった。
 まったく、魔王城にいた時より元気になってないか?
 事情はよく分からないものの、ひとまず元気そうなのでヨシとしておくか。
 三姉妹のまとめ役であるキリエは、どうやら長を務めていたヒョウムが使っていた部屋にいるらしい。反乱のことを聞いて押し入ったあの部屋だ。
 キリエがあの部屋を使っているということは、間違いなく長の代理をしているということだろう。
 う~ん、なんだか嫌な予感してこねえぞ?
 その予感が当たっていないことを祈りつつ、俺はヒョウムが使っていた部屋へと向かう。
 俺がヒョウムの部屋で見た光景。それは、まったくもって予想と違わぬ結果だった。
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