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第一章 大陸編
第243話 転生者、書類の山と格闘する
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純魔族の反乱は無事に収まり、俺たちは魔王城へと戻ってくる。
結局、ヒョウムは反乱を起こそうとした罪で獣人の集落へと連れていかれた。
このことによって純魔族の集落は、長がしばらく不在になってしまう。早急に次の長を決めなければならない。
俺が手を貸そうかと声を掛けたのだが、キリエもカスミもコモヤも自分たちのことだからといって、揃いも揃って断ってきた。
こういうのを見せられると、三人は姉妹だと再認識させられる。普段は三人ともかなり違った感じだからな。
というわけで、キリエたち三姉妹から申し入れられた暇を、俺はすんなりと受け入れた。
参謀であるキリエ、メイドを束ねるカスミ、諜報に長けたコモヤ。この三人が新しい純魔族の長を決めに向かう。
魔王に対しては忠誠心の高い三人だから、きっとうまくやってくれるだろう。
キリエたちが留守にしている魔王城で、今日も俺は仕事に追われるのだった。
「なんで、こんなに書類があるんだよ」
はっきり言って、眉間にしわが寄るよ。
この仕事量は、前世のブラック企業の仕事量に匹敵するからだ。
そもそもはキリエとバフォメットに割り振っていた仕事だが、キリエが抜けたことによって俺のところに集中する。
俺とキリエがいない間はバフォメットに全部負担させていたので、まあ文句が言えるわけがない。
というか、こんなに仕事が溜まっているとは思わなかった。一体、俺たちがいない間に何が起きてたんだよな。
「あら、魔王様。お帰りになってらしたのね」
「く、クローゼ?!」
「お久しぶりでございますわ、魔王様。その書類のことですけれど、私から説明させて頂きますわ」
困っているところに、アラクネのクローゼが現れた。
現在では魔王城の中の服飾を一手に引き受けているお抱えの服飾職人である。
「なんで服飾専門のお前が説明に来るんだよ。専門外だろうが」
「専門外は事実ですわね。ですが、実はこの書類のほとんどが、わたくしの管轄下の話ですのよ」
「な、なんだってーっ!!」
クローゼからの話を聞いて、俺が書類一つ一つに目を通していく。
そこに書かれていたのは、確かにアラクネ糸と羽毛布団に関する話ばかりだった。
「うっそだろ、おい。こんな短期間でこんなに話が舞い込むものなのか?!」
「集まってきている以上、間違いありませんわよ。わたくしもアラクネの一人として鼻高々ですわよ。おーっほっほっほっほっ!」
俺の執務室の中に、クローゼの高笑いが響き渡る。
まあ、アラクネの一族にはずいぶんと世話になっているしな。クローゼはその中でもまとめ役だ。感謝はするよ、感謝はな。
「事情は分かった。とりあえずこれの処理は俺がしておくから、お前は妹と一緒に好きに過ごしておけよ。無理をさせたお詫びだ」
「あら、魔王様ってば相変わらずお優しいのですのね。分かりましたわ、ニーナと一緒にウネちゃんと遊んできますわね」
クローゼはそういうと、俺の部屋から出ていった。
まったく、なんだかんだで自由に好き勝手してるな。
この分だと、仕事終わった頃にはまた俺を着せ替え人形にしてくれそうだぜ……。
着せ替え人形は憂鬱ではあるものの、ここまで頑張ってくれてるんだからご褒美くらいはくれてやってもいいだろうな。
一度深呼吸をした俺は、山のように積まれた書類を一つ一つ手に取って確認する作業を始めたのだった。
あっという間に夜になる。
俺の世話をしてくれることになっているメイドがいないために、俺は夜になっていることに気付かずに、お腹の音でようやく時間を悟った。
「ああ、そうだった。キリエもカスミも純魔族の集落に向かわせたんだったな。忘れてたぜ……」
あまりの空腹に、俺はお腹を擦っている。
何か気配を感じて扉の方へと視線を向ける。
「なんだ、まだ仕事をしていたのか。いい加減に飯にするぞ」
「デザストレか。悪いな、処理しなきゃいけない書類がこの通りでな。まったく、終わる気配がまったく感じられないぜ」
俺の返答を聞いて、デザストレは部屋の中を覗き込む。そこには、確かに山のような書類が置かれていた。
「なんだかよくは分からんが、多いということだけは分かったな。とりあえず一旦手を止めて飯にしろ。料理長が嘆いていたぞ」
「ああ、そうか。料理長にはいろいろしてもらってるからな。さすがにそれは可哀想なことをしたな」
手に持っていたペンを一度降ろすと、立ち上がって食堂へと向かう。
食堂の中にはたくさん並べられた料理と、料理長とウルルンの姿もあった。
「なんだ、二人もいたのか。いくら俺が魔王だからっていっても、あまり気遣わなくてもいいのによ」
「いえ、そうは参りません。魔王様がご満足いただける食事を提供するのも、私どもの仕事でございます」
「冷めてしまったけど、温め直しておきました。召し上がって下さいな」
二人の忠義には頭が下がるものだ。
このまま待たせるのも悪い。さっさと椅子に座って、俺は遅めの夕食を取ることにする。
「うん、うまいな。これ、どうやって温め直したんだ?」
「オレっちの能力を使えば、温かさの再現も簡単です」
誇ったように胸を張るウルルン。その姿に、俺はついつい笑いをこぼしてしまった。
「ひ、酷いのですよ、魔王様」
「悪い悪い。でも、ありがとうな」
俺は二人とデザストレが見守る中、遅めの夕食を平らげたのだった。
この後にはまた地獄が待っているので、心温まるひと時だったな。
結局、ヒョウムは反乱を起こそうとした罪で獣人の集落へと連れていかれた。
このことによって純魔族の集落は、長がしばらく不在になってしまう。早急に次の長を決めなければならない。
俺が手を貸そうかと声を掛けたのだが、キリエもカスミもコモヤも自分たちのことだからといって、揃いも揃って断ってきた。
こういうのを見せられると、三人は姉妹だと再認識させられる。普段は三人ともかなり違った感じだからな。
というわけで、キリエたち三姉妹から申し入れられた暇を、俺はすんなりと受け入れた。
参謀であるキリエ、メイドを束ねるカスミ、諜報に長けたコモヤ。この三人が新しい純魔族の長を決めに向かう。
魔王に対しては忠誠心の高い三人だから、きっとうまくやってくれるだろう。
キリエたちが留守にしている魔王城で、今日も俺は仕事に追われるのだった。
「なんで、こんなに書類があるんだよ」
はっきり言って、眉間にしわが寄るよ。
この仕事量は、前世のブラック企業の仕事量に匹敵するからだ。
そもそもはキリエとバフォメットに割り振っていた仕事だが、キリエが抜けたことによって俺のところに集中する。
俺とキリエがいない間はバフォメットに全部負担させていたので、まあ文句が言えるわけがない。
というか、こんなに仕事が溜まっているとは思わなかった。一体、俺たちがいない間に何が起きてたんだよな。
「あら、魔王様。お帰りになってらしたのね」
「く、クローゼ?!」
「お久しぶりでございますわ、魔王様。その書類のことですけれど、私から説明させて頂きますわ」
困っているところに、アラクネのクローゼが現れた。
現在では魔王城の中の服飾を一手に引き受けているお抱えの服飾職人である。
「なんで服飾専門のお前が説明に来るんだよ。専門外だろうが」
「専門外は事実ですわね。ですが、実はこの書類のほとんどが、わたくしの管轄下の話ですのよ」
「な、なんだってーっ!!」
クローゼからの話を聞いて、俺が書類一つ一つに目を通していく。
そこに書かれていたのは、確かにアラクネ糸と羽毛布団に関する話ばかりだった。
「うっそだろ、おい。こんな短期間でこんなに話が舞い込むものなのか?!」
「集まってきている以上、間違いありませんわよ。わたくしもアラクネの一人として鼻高々ですわよ。おーっほっほっほっほっ!」
俺の執務室の中に、クローゼの高笑いが響き渡る。
まあ、アラクネの一族にはずいぶんと世話になっているしな。クローゼはその中でもまとめ役だ。感謝はするよ、感謝はな。
「事情は分かった。とりあえずこれの処理は俺がしておくから、お前は妹と一緒に好きに過ごしておけよ。無理をさせたお詫びだ」
「あら、魔王様ってば相変わらずお優しいのですのね。分かりましたわ、ニーナと一緒にウネちゃんと遊んできますわね」
クローゼはそういうと、俺の部屋から出ていった。
まったく、なんだかんだで自由に好き勝手してるな。
この分だと、仕事終わった頃にはまた俺を着せ替え人形にしてくれそうだぜ……。
着せ替え人形は憂鬱ではあるものの、ここまで頑張ってくれてるんだからご褒美くらいはくれてやってもいいだろうな。
一度深呼吸をした俺は、山のように積まれた書類を一つ一つ手に取って確認する作業を始めたのだった。
あっという間に夜になる。
俺の世話をしてくれることになっているメイドがいないために、俺は夜になっていることに気付かずに、お腹の音でようやく時間を悟った。
「ああ、そうだった。キリエもカスミも純魔族の集落に向かわせたんだったな。忘れてたぜ……」
あまりの空腹に、俺はお腹を擦っている。
何か気配を感じて扉の方へと視線を向ける。
「なんだ、まだ仕事をしていたのか。いい加減に飯にするぞ」
「デザストレか。悪いな、処理しなきゃいけない書類がこの通りでな。まったく、終わる気配がまったく感じられないぜ」
俺の返答を聞いて、デザストレは部屋の中を覗き込む。そこには、確かに山のような書類が置かれていた。
「なんだかよくは分からんが、多いということだけは分かったな。とりあえず一旦手を止めて飯にしろ。料理長が嘆いていたぞ」
「ああ、そうか。料理長にはいろいろしてもらってるからな。さすがにそれは可哀想なことをしたな」
手に持っていたペンを一度降ろすと、立ち上がって食堂へと向かう。
食堂の中にはたくさん並べられた料理と、料理長とウルルンの姿もあった。
「なんだ、二人もいたのか。いくら俺が魔王だからっていっても、あまり気遣わなくてもいいのによ」
「いえ、そうは参りません。魔王様がご満足いただける食事を提供するのも、私どもの仕事でございます」
「冷めてしまったけど、温め直しておきました。召し上がって下さいな」
二人の忠義には頭が下がるものだ。
このまま待たせるのも悪い。さっさと椅子に座って、俺は遅めの夕食を取ることにする。
「うん、うまいな。これ、どうやって温め直したんだ?」
「オレっちの能力を使えば、温かさの再現も簡単です」
誇ったように胸を張るウルルン。その姿に、俺はついつい笑いをこぼしてしまった。
「ひ、酷いのですよ、魔王様」
「悪い悪い。でも、ありがとうな」
俺は二人とデザストレが見守る中、遅めの夕食を平らげたのだった。
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