異世界転生者のTSスローライフ

未羊

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第一章 大陸編

第246話 転生者、要望書の集落に着く

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 デザストレに乗ってあっという間に問題の集落へとやってくる。
 純魔族の集落からはそれほど遠くない場所ではあるが、周辺の雰囲気から比べるとどこか物悲しく感じる。

「なんだあれ。ずいぶんと寂れているな」

「魔王、妙な魔力を感じるぞ。気を付けた方がいい」

「だな。俺の勘も何か妙なものを感じ取っている。とりあえず、地面に降りるぞ」

「分かった」

 デザストレが了承したので、俺たちは集落へと向けて降下していく。
 地面に降り立つと、その荒廃っぷりがさらに鮮明になる。

「こいつは酷いな。よくこれで要望書を出す余裕なんかあったな……」

 まったくもってそう思えるくらいの惨状だった。

「魔力による転送だろうな。そのくらいなら使える魔族はちらほらいる。特に純魔族のような種族なら、主従関係さえあれば可能ってことは、ちらりと聞いた覚えがあるぞ」

「へえ、そんな能力があるのか。さすが純魔族ってところか」

 デザストレの話す内容に、俺はつい感心してしまう。
 だが、デザストレはどこでそんな話を聞いたんだろうな。可能性があるとあれば魔王軍の訓練場だろうが、そんな話をするような連中かな、あいつら。
 まっ、気にしても無駄か。
 それよりも今は目の前の問題だ。とりあえず集落の長に会ってみないとな。
 俺はデザストレと一緒に集落に足を踏み入れる。
 人の姿がまばらに見えるものの、あまり数は大きくない。
 あれだけ栄えている純魔族の集落の近くだというのに、どうしてここまで寂れてしまっているのか。
 いろいろと疑問がよぎるが、とりあえずは長に会って話をしたい。

「すまない、長の家はどちらかな?」

 たまたま見かけた魔族に声を掛ける。

「あ、あちらです……」

 魔族は震えながら答えている。どうしてそこまで怯えている。

「当たり前だろ。魔王と魔族の恐れる厄災が一緒にいるのだぞ。怯えない方がおかしい」

「ああ、そっか、お前のせいか」

 デザストレの説明に納得がいく。だが、俺の返した言葉にデザストレは憤慨していた。

「お前のせいでもあるんだよ!」

 デザストレが言い返してくるので、俺は睨み返してやった。
 このやり取りを見ていた目の前の魔族は、呆気に取られてきょとんとした顔を向けている。

「うん、どうした?」

「あっ、いえ。ちょっとびっくりしただけです。よかったら、長のところまでご案内します」

「ああ、頼むよ」

 さっきまで怯えていたのが嘘のように、魔族は俺たちの案内を買って出ていた。すごい変わりようだな。
 どうしてこうなったのか理由はよく分からないが、俺たちは魔族の案内で集落の長の家にたどり着くことができた。

「長、お客様です」

「うん? こ、この魔力は……、と、通しておくれ」

 中から怖がっている声が聞こえてくる。
 俺とデザストレは顔を見合わせると、ひとまずは中へと入っていく。
 外観もそうだが、中もひどい状態だ。これで集落を治めている者の家とは、どれだけここは見捨てられていたのかよく分かるというものだ。

「お前がこの集落の長か。訴えを見させてもらったぞ」

「こ、これは魔王様。お初にお目にかかります。私はこの集落の長、オスリーと申します」

 オスリーは地べたに座って頭を下げている。
 いや、いきなり土下座かぁ……。むしろ俺がやりたい気分なんだが、まあいっか。

「頭を上げてくれ。今日は様子を確認しに来たのと、謝罪のためだ。ヒョウムがずいぶんと放置してくれたみたいだしな」

「いえいえ、滅相もございません。魔王様が謝罪をされる必要など、何一つないのでございます、はい」

 ダメだ、話にならない。
 このままではらちが明かないな。

「デザストレ」

「チッ、分かったよ」

 おい、舌打ちをやめろ。
 嫌そうな顔をするデザストレだが、俺の意図を汲んでかオスリーへと近付く。そして、しゃがみ込むとオスリーに向けて声を掛ける。

「とりあえずじじい、事情を説明しやがれ。今日は魔王がそれを解決しに来たんだ。じじいの必死の訴えに応えてな」

「ひぃっ!」

 デザストレが脅すと、オスリーは飛び上がって後退っていた。

「や、やや、厄災!」

「おっ、デザストレのことが分かるのか。まあ、それはいいや」

 俺は顔を上げたオスリーに改めて近付く。

「なにが起きてこんな状況になっているのか、説明してくれ。あれだけの頻度で送ってきてたんだ。よっぽど切羽詰まってるんだろ?」

「そ、それは……」

 オスリーはかなり動揺しているようだ。
 なので、作戦を変える。
 俺は振り返って、ここまで案内してくれた魔族に事情を聞くことにした。

「あれだけ要望を送ってきておいて話せないらしい。あんたの方から話を聞かせてもらってもいいかな。悪いようにはしない」

 俺はじっと魔族の顔を睨む。
 さすがに集落の者への負担は避けたいのか、これでようやくオスリーは観念したようだった。
 案内してくれた魔族を帰らせると、俺たちは地面に敷いた布の上に座る。寂れすぎてテーブルや椅子もないようだ。

「実はですね……」

 この後、オスリーの口から、この集落が寂れてしまった原因が長々と語られたのだった。
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