異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
251 / 431
第一章 大陸編

第251話 転生者、ミーアドッグの故郷を知る

しおりを挟む
 魔物の正体を知ってちょっとほっとした俺ではあったものの、まさか俺が原因で魔王領に入り込んだ聖国の魔物とは思わなかった。
 その俺がその魔物たちを従魔化したのだから、これまた何のギャグだよと思いたい。
 食事の後、エイミーに詳しい生態を聞いてみることにする。

「ミーアドッグは本来ならそんなに害になるようなことはないのにゃ。元々は聖国に生息していたのだから、おそらく魔王領の環境と合わなかったのにゃ」

 どうやら、その場所の作物を食い尽くすほどの食欲は、ミーアドッグは持ち合わせていないらしい。
 エイミーの推測では、聖国から魔王領に移ったことで魔力の質の変化による影響を受けて、それによってストレスが発生して暴食になったのではないかとのこと。
 原因が俺だということらしいので、なんとも言えない結果となったようだった。

「このまま聖国の元の位置に送り届けて大丈夫だろうかな」

「それなら心配ないにゃ。魔王の魔力の影響は確かに受けるだろうけど、魔王が聖国の障壁をものともしない以上、まったく生態には影響ないにゃ」

 俺が疑問を口にすれば、エイミーは堂々と言い切っていた。
 まったく、こいつの中での俺は、一体どういう立ち位置なんだろうな。
 俺が困った顔をしているというのに、エイミーは無視して何か紙の束を持ってきていた。

「これが私の調和の力で調べた聖国の地図にゃ。元の生息域に戻してやるといいにゃ」

「元の生息域?」

「そうにゃ。私が知っていることも関係があるのにゃ。ひとまず教えてやるにゃ」

 俺が首を捻ると、エイミーは淡々と地図を広げながら説明を始めようとしている。猫なせいか結構フリーダムだよな。
 エイミーに対する感想はさておき、ミーアドッグの生息域について話を聞く。
 エイミーが示した場所だが、魔王領、北方聖国、東方帝国の三国国境にほど近い場所だった。なるほど、俺に恐れて南下した連中が、魔王領内で発見されたことに納得がいく位置だった。
 だが、それを見ていて俺はちょっと疑問を抱いた。

「ここら辺って湖があるよな。そこでとどまらなかったのか」

「ミーアドッグは水が苦手にゃ。飲むくらいなら平気だけど、あそこの湖は大きすぎてびびっていたにゃ。だから、湖を避けて西側に移動したにゃ」

「なるほどな」

 説明に納得がいく。
 ちなみにこの湖は、俺が以前水中洞窟を見つけた湿地帯とは別の場所だ。
 湿地帯は魔王城よりも南、今話題に出ている湖は逆に北に寄っているからな。
 地図を確認する限り、ミーアドッグの生息位置から真っすぐ南下すると、湖の形から西方向に曲がることしかできないようになっている。
 湖畔に沿って移動すれば、確かに今回被害に遭った純魔族の集落へと進んでくることになる。すべてがきっちりと線で結ばれたのだ。

「なんだろうな。このすっきり腑に落ちるくらいにきれいな流れっていうのは……」

「私もびっくりにゃ」

 こうして魔王領内にやって来たミーアドッグたちは、作物が豊富である純魔族たちが耕していた畑に居座ることとなり、最終的にはあの状況になっていたというわけだった。
 ドミノ現象というかなんというか、こんなきれいな因果関係ってあるのかと思わされる。
 ひとまず、ミーアドッグの元々の生息域が判明したので、俺は夜が明けたらそこへと向かうつもりだ。

「さっさと引き取ってくれるといいにゃ。思った以上に食欲旺盛にゃ。これは畑が枯れても仕方ないのにゃ」

 エイミーもずいぶんと参った表情を見せている。
 俺はそのことに同情しながら、この日は帝都で一泊したのだった。

 翌日、二十匹程いるミーアドッグを連れて、俺は北方聖国へと向かうことになった。

「魔王、いつでも遊びに来い。お前みたいな奴ならいつでも歓迎だ」

「魔王としての仕事があるから、いつになるかは分からんぞ。まあ、その時にはデザストレを無理やりこき使ってでも来てやるよ」

「私とは相性がよろしくないから、厄災は勘弁してほしいにゃ……」

 俺と皇帝との話を聞いていたエイミーがぽつりと呟いている。
 まったく、厄災デザストレ調和エイミーはどこまでいっても仲が悪いんだな。生み出したのは同じ人物のはずなんだが、わけが分からない話だな。
 とりあえず、皇帝とエイミーに挨拶をし終えた俺は、ミーアドッグの背に乗って移動を開始する。
 相変わらず、こいつらは息ぴったりで驚ろかされるぜ。
 前日の夜にエイミーによって示された場所を目指して、俺はミーアドッグを走らせる。
 途中で休憩を挟みながら移動しているが、本当にこいつらの食欲といったら貪欲といっていいレベルだった。
 まさに根こそぎというのがふさわしいくらいに、地面を掘り起こしてまで草を食べている。
 いや、犬と猫の特徴を持っているから肉食じゃないんかいって思うが、こいつらは肉よりも草といった感じだった。
 このわけの分からなさが異世界って感じだよ。

 こうして、帝都を発ってから二日目のこと。
 俺たちはいよいよ東方帝国を脱出して北方聖国の地へとたどり着いたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...