266 / 431
第一章 大陸編
第266話 転生者、純魔族の長を決定する
しおりを挟む
デザストレの背に乗って、俺はあっという間に魔王城まで戻ってきた。
ドラゴンの背中だとこの距離も一瞬過ぎるな。障害物が何にもないからな。
ちなみにエイミーの背中もかなり快適だったぜ。なにせふかふかの毛皮だからな。
エイミーと比べると、ドラゴンのうろこはごつごつしている。ただ、適度な冷ややかさがあるので快適は快適だ。ただし硬いがな。
「よしよし、デザストレ。今回はご苦労だったな」
「ああ、まったくだ。何が悲しくてあの調和と顔を合わせなきゃいかんのだ」
「お前らな……」
まったく、エイミーの話をすればデザストレこれだよ。逆も然りだし、本当にこいつらの仲は最悪だな。
とはいえ、いつまでもこのワンパターンの相手をしているわけにもいかない。
デザストレと別れた俺は、部屋に向かって歩いている。
「キリエ、バフォメット、いるか?」
「はっ、魔王様。わたくしめはここに」
部屋にある程度近付いたところで俺が大声で呼ぶと、目の前にはバフォメットが姿を現した。
「キリエは忙しそうか」
「わたくしめは把握しておりませんが、おそらくは純魔族の後片付けにまだ手を焼いておられるのだと思われます」
「そっか。正式な後継ぎがまだ決まってないもんな。暫定的に手の空いているコモヤが長に収まってはいるが、コモヤってそういう統率者向きじゃないもんな。どっちかいうと参謀で裏から支配するタイプって感じかな」
「そうやもしれませんな。ふふっ、面白いことを仰います」
俺の話をバフォメットは笑いながら聞いていた。
とはいえ、純魔族は魔族の仲でも最強の種族だ。ここがまとまらないことには、また魔王領全体で不穏な流れになりかねない。しっかりと押さえておかないといけないよな。
だが、これだけ経っても俺は純魔族の事はあまり詳しくない。
それというのも最初にヒョウムをぶっ飛ばしたことが大きかった。あの一件で純魔族からはすっかり睨まれてしまって、キリエたち三姉妹をはじめとした魔王城勤めの純魔族くらいしか相手にしてこなかったからだ。
それなら、ミーアドッグの件で知り合ったオスリーはどうかといえば、彼には純魔族をまとめ上げるのは荷が重すぎる。
オスリーも純魔族にしては珍しく優しい人物だ。純魔族というのは曲者ぞろいで能力主義だからな。
「純魔族の長を決めるというのも、なかなかに難しいものだな」
「自分が一番な連中でございますからね。力に加えて、歴代の魔王を輩出してきたという実績で威張り散らすような連中でございます。当面はわたくしどもで統治するしかないと存じます」
「ふむ……。キリエには俺のメイドという立場もあるだけに、そうだとしてもやっぱり難しいだろうな」
純魔族の長という立場は、そんな安っぽいものでもないだろう。自分たちでできないならば、反発が起きるのも必至だ。純魔族というのはそのくらい面倒な連中なんだよ。
一難去ってまた一難ってもんじゃねえ。困難の波状攻撃だよ、まったく。
俺が困っていると、バフォメットが俺に提案をしてくる。
「いかがでしょう、魔王様。デザストレ殿を純魔族の長に据えるというのは」
「デザストレか……。そうだな、あいつは魔王以外の魔族なら全部ねじ伏せれるんだよな。ただ、俺の機動力が落ちるのは間違いないんだよな」
バフォメットが出してきた提案に、俺はかなり悩んだ。
力を絶対とする傾向のある純魔族だ。自分たちが敵わない相手であるデザストレなら反発はかなり抑えられるだろう。
だが、あいつにはひとつ問題がある。業務系がさっぱりなんだよな。
「ふむ……。長にデザストレを据えて牽制して、参謀としてコモヤをあてがえば一応統治の形ができるか」
「はい、そのように存じます」
「だが、俺の移動手段がなぁ……」
そう、デザストレは俺にとっての高速移動手段だ。馬車で七日の距離も一日かからないで飛べる。
あれだよ、各駅停車とリニアくらいの差があるんだ。
「それも問題ないかと。魔王様が長をあごで使えば、自分たちをねじ伏せる長を軽くあしらう魔王様の図ができ上がります。そうすれば、自然と魔王様には敵わないという風潮が完成すると考えるのでございます」
「さすが、参謀。そんなところまで考えていたか」
「お褒めに預かり、実に光栄でございます」
バフォメットは俺に対して深々と頭を下げている。
常に紳士的であるので怪しい雰囲気を漂わせるヤギの頭を持つ魔族だが、その考えは常に魔族のため、ひいては魔王のためを中心にしているのだ。
俺とバフォメットの話が決着しかけた頃、ようやくキリエが姿を見せた。
「魔王様、お戻りでしたか」
「おう、ただいま。東方帝国の内情も把握してきた。皇帝派が優勢だが、自分たちで解決するって聞かないから戻ってきたぜ」
「左様でございますか、お疲れ様でございます」
東方帝国の話をすると、キリエは淡々と労いの言葉をかけてくれる。うん、実にどうでもいいって感じだな。
「それでキリエ、純魔族の長の件だが」
「はい、デザストレを据えるのですよね。聞こえておりました。実に妙案だと思います」
「そっか、キリエがそういうのなら決まりだな。あとはあいつを無理やりにでも納得させれば完了だな」
「相変わらず、選択肢のない哀れな方ですな」
「それがデザストレですから、仕方ありませんね」
俺が悪い顔をして両手を鳴らすと、キリエもバフォメットも呆れた様子を見せていた。文句あるのかよ。
というわけで、ようやく空っぽだった純魔族の長の地位が埋まる時を迎えたのだった。
最終的にデザストレは受け入れていたが、どういう経緯があったかは想像に任せておくぜ。
ドラゴンの背中だとこの距離も一瞬過ぎるな。障害物が何にもないからな。
ちなみにエイミーの背中もかなり快適だったぜ。なにせふかふかの毛皮だからな。
エイミーと比べると、ドラゴンのうろこはごつごつしている。ただ、適度な冷ややかさがあるので快適は快適だ。ただし硬いがな。
「よしよし、デザストレ。今回はご苦労だったな」
「ああ、まったくだ。何が悲しくてあの調和と顔を合わせなきゃいかんのだ」
「お前らな……」
まったく、エイミーの話をすればデザストレこれだよ。逆も然りだし、本当にこいつらの仲は最悪だな。
とはいえ、いつまでもこのワンパターンの相手をしているわけにもいかない。
デザストレと別れた俺は、部屋に向かって歩いている。
「キリエ、バフォメット、いるか?」
「はっ、魔王様。わたくしめはここに」
部屋にある程度近付いたところで俺が大声で呼ぶと、目の前にはバフォメットが姿を現した。
「キリエは忙しそうか」
「わたくしめは把握しておりませんが、おそらくは純魔族の後片付けにまだ手を焼いておられるのだと思われます」
「そっか。正式な後継ぎがまだ決まってないもんな。暫定的に手の空いているコモヤが長に収まってはいるが、コモヤってそういう統率者向きじゃないもんな。どっちかいうと参謀で裏から支配するタイプって感じかな」
「そうやもしれませんな。ふふっ、面白いことを仰います」
俺の話をバフォメットは笑いながら聞いていた。
とはいえ、純魔族は魔族の仲でも最強の種族だ。ここがまとまらないことには、また魔王領全体で不穏な流れになりかねない。しっかりと押さえておかないといけないよな。
だが、これだけ経っても俺は純魔族の事はあまり詳しくない。
それというのも最初にヒョウムをぶっ飛ばしたことが大きかった。あの一件で純魔族からはすっかり睨まれてしまって、キリエたち三姉妹をはじめとした魔王城勤めの純魔族くらいしか相手にしてこなかったからだ。
それなら、ミーアドッグの件で知り合ったオスリーはどうかといえば、彼には純魔族をまとめ上げるのは荷が重すぎる。
オスリーも純魔族にしては珍しく優しい人物だ。純魔族というのは曲者ぞろいで能力主義だからな。
「純魔族の長を決めるというのも、なかなかに難しいものだな」
「自分が一番な連中でございますからね。力に加えて、歴代の魔王を輩出してきたという実績で威張り散らすような連中でございます。当面はわたくしどもで統治するしかないと存じます」
「ふむ……。キリエには俺のメイドという立場もあるだけに、そうだとしてもやっぱり難しいだろうな」
純魔族の長という立場は、そんな安っぽいものでもないだろう。自分たちでできないならば、反発が起きるのも必至だ。純魔族というのはそのくらい面倒な連中なんだよ。
一難去ってまた一難ってもんじゃねえ。困難の波状攻撃だよ、まったく。
俺が困っていると、バフォメットが俺に提案をしてくる。
「いかがでしょう、魔王様。デザストレ殿を純魔族の長に据えるというのは」
「デザストレか……。そうだな、あいつは魔王以外の魔族なら全部ねじ伏せれるんだよな。ただ、俺の機動力が落ちるのは間違いないんだよな」
バフォメットが出してきた提案に、俺はかなり悩んだ。
力を絶対とする傾向のある純魔族だ。自分たちが敵わない相手であるデザストレなら反発はかなり抑えられるだろう。
だが、あいつにはひとつ問題がある。業務系がさっぱりなんだよな。
「ふむ……。長にデザストレを据えて牽制して、参謀としてコモヤをあてがえば一応統治の形ができるか」
「はい、そのように存じます」
「だが、俺の移動手段がなぁ……」
そう、デザストレは俺にとっての高速移動手段だ。馬車で七日の距離も一日かからないで飛べる。
あれだよ、各駅停車とリニアくらいの差があるんだ。
「それも問題ないかと。魔王様が長をあごで使えば、自分たちをねじ伏せる長を軽くあしらう魔王様の図ができ上がります。そうすれば、自然と魔王様には敵わないという風潮が完成すると考えるのでございます」
「さすが、参謀。そんなところまで考えていたか」
「お褒めに預かり、実に光栄でございます」
バフォメットは俺に対して深々と頭を下げている。
常に紳士的であるので怪しい雰囲気を漂わせるヤギの頭を持つ魔族だが、その考えは常に魔族のため、ひいては魔王のためを中心にしているのだ。
俺とバフォメットの話が決着しかけた頃、ようやくキリエが姿を見せた。
「魔王様、お戻りでしたか」
「おう、ただいま。東方帝国の内情も把握してきた。皇帝派が優勢だが、自分たちで解決するって聞かないから戻ってきたぜ」
「左様でございますか、お疲れ様でございます」
東方帝国の話をすると、キリエは淡々と労いの言葉をかけてくれる。うん、実にどうでもいいって感じだな。
「それでキリエ、純魔族の長の件だが」
「はい、デザストレを据えるのですよね。聞こえておりました。実に妙案だと思います」
「そっか、キリエがそういうのなら決まりだな。あとはあいつを無理やりにでも納得させれば完了だな」
「相変わらず、選択肢のない哀れな方ですな」
「それがデザストレですから、仕方ありませんね」
俺が悪い顔をして両手を鳴らすと、キリエもバフォメットも呆れた様子を見せていた。文句あるのかよ。
というわけで、ようやく空っぽだった純魔族の長の地位が埋まる時を迎えたのだった。
最終的にデザストレは受け入れていたが、どういう経緯があったかは想像に任せておくぜ。
0
あなたにおすすめの小説
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。
それは、最強の魔道具だった。
魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく!
すべては、憧れのスローライフのために!
エブリスタにも掲載しています。
【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~
こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』
公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル!
書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。
旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください!
===あらすじ===
異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。
しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。
だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに!
神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、
双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。
トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる!
※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい
※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております
※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております
【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~
シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。
前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。
その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。
一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?
たまご
ファンタジー
アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。
最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。
だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。
女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。
猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!!
「私はスローライフ希望なんですけど……」
この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。
表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる