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第一章 大陸編
第274話 転生者、聖王に協力を要請する
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緩衝地帯でやることを終えた俺たちは、聖都へと向かう。
ここからは聖国の馬車での移動だ。デザストレは純魔族の集落だし、魔王領の馬車は聖国での活動ができない。実にやむを得ない状況なのだ。
とはいえ、移動速度以外は文句はない。今はゆったりとした移動を堪能させてもらうとしよう。
デザストレによる空の旅は快適なんだが、地上を走っていくのもまた趣があっていいってもんだよな。
今俺たちが馬車で進んでいる場所も、俺が魔王になった頃にはただの平原だったはずなんだよな。
魔王領との関係改善のために作った緩衝地帯と聖都を結ぶために整備された街道は、本当にこれでもかというくらいにきれいに整備されていた。土魔法まで使ってご丁寧に固めてあるから、俺との関係をかなり重視していることがよく分かるってものだ。
長い馬車の旅を終えて、俺たちはようやく聖都に到着する。
いつ来てもこの街はものすごくきれいな場所だ。
理由としては聖王の力とは言われているが、その実際を知る者はいないとか。
まぁ大抵転生先の衛生環境は謎だからな。
あれだ、細けえことは気にすんなの精神だな。
こういう類のことは、気になり始めると出口のない迷宮に迷い込むように抜け出せなくなっちまう。そういうもんだで済ませるのが一番だぜ。
「やあ、また来たよ、聖王」
「これは魔王。本当によく来られますね」
俺の挨拶に、聖王は笑いながら応対している。
聖王も忙しいだろうに、よく俺と会ってくれる気になったな。
「聖王。ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか」
「俺とこんなに頻繁に会っててさ、他の連中からなんか言われたりしてないか?」
俺がこんな質問をすると、聖王はなんとも意外というような顔をしていた。そんな変な質問したかな、俺。
しばらく黙っていた聖王だったが、今度は突然笑い出す。あまりにもころころと変わる表情に、俺は唖然としてしまっていた。
「うふふ、本来なら敵である私の身を案じられているのですね。やはり、今代の魔王はお優しい方です」
「俺の話はしただろうが。前世じゃあまり争いのない世界だったからな。だから、できるだけみんなと仲良くしたいんだよ」
俺が頭をかきながら話していると、聖王はやっぱり笑い続けていた。
「本当に甘いお考えですね。ですが、私も根本は同じですね。みんなが優しく穏やかに過ごせる世界、本当に理想です」
聖王の表情が一気に険しくなる。
「ですが、人一人、魔族一人ごとに考え方は異なります。大部分で妥協はできたとして、すべてとなるとそれは不可能というものです。私もすでに聖国内で魔王たちに反発する者たちを見ておりますからね」
あまりにも真剣な様子に俺は黙って聞いている。
「説得は厳しいでしょうね。でも、魔王と出会ったことのない人物ですので、顔を合わせてみれば少しは変わるかもしれません」
「いや、無理に説得する必要もないだろう。俺だって暇とは限らないしな。今回だって聖王に頼みごとがあってやって来たんだ。あと湖底の調査もしたくてな」
「……詳しくお聞かせ願えますか?」
頼み事と聞いて、聖王の表情がまた変わる。実に忙しいことだな。
とりあえず、俺は聖王に今回の訪問の目的を話す。
話を聞き終えた聖王は、難しそうな表情をしている。やっぱり無理だろうか。
「分かりました。湖や沼の位置を調べればいいのですね。それでしたら、先日まとめたものができ上がっておりますので、写しを用意しましょう」
「本当か? それは助かるな」
予想外なことに、すべての湖沼の位置を示した地図がもうあるらしい。
詳しく確認してみると、どうやら俺を案内した時の騎士、確かジャスっていったっけか、彼がすべてを記していたそうだ。
「魔王にしか見えない水中洞窟の話でしたよね、確か」
「ああ、ひとつは既に分かってるんだ。魔王領の湿地帯から東方帝国の湖がつながってたやつがな。ただ、その洞窟には分岐はなくて、一本道だった」
「セイ、その洞窟を調べてどうするつもりなのよ」
黙って聞いていたピエラが口を挟んできた。
「この大陸の外を目指す。東方帝国にいるエイミーや南方王国にいるレーヴェンの話からすると、大陸の外にも別の陸地があるみたいだからな。ただ、この大陸は周囲を山に囲まれていて、上空から脱出することができない」
「なるほど、それで水中っていうわけね。でも、セイにしか見えないっていうのは不思議な話ね」
「ああ、多分、この大陸の住民だと、この中がすべてだと思わされるようになってるんだろう。俺は異世界からの転生でやって来たから、その理から外れてるってわけだ」
「なるほどですね。ですが、それならば私たちにあまり広げない方がよいと思いますね」
聖王がなにやら懸念を抱いているようだ。
「というと?」
「この世界を維持しようとする存在が、私たちに干渉してくる可能性があります。まだ知っている人物が少ないので、気付かれていないか、見過ごされているかのどちらかでしょう」
「……なるほどな。それは十分に考えられる話だ。俺が知る異世界転生っていうのには、強制力っていうものが働くことがあるらしいからな」
「強制力?」
「ああ、小説やゲームっていうある程度筋書きのある世界の場合だと、どういう行動を取っても筋書きに沿わせようとする力のことだよ」
俺が答えれば、ピエラは怖くなったのか身を縮めて震え始めた。
「でも、神とかいう存在には気に食わないかもしれないが、俺はこの世界の秘密を知りたい。外の世界を見てみたいんだ。探求心ってのは何者にも止められないんだよ」
俺は拳を握って立ち上がっていた。
ただ、今のドレス姿という服装を考えると、ちょっと締まらなかったかな。
「決意は固そうですね。私も神に仕える聖王という立場ではありますので、あまり大っぴらにはできませんが陰ながら助力させてもらいます」
「ありがとう」
「私だって手伝うわよ。婚約者のやることを応援するのは、当然だからね」
「無理しなくていいぞ、ピエラ」
「なんでよ!」
頬を膨らませて怒るピエラの姿に、俺たちは大笑いをしていた。
これでひとまず聖王の協力を得ることはできた。一つ進んだ俺たちは、今日のところは聖都でゆっくり休んだのだった。
ここからは聖国の馬車での移動だ。デザストレは純魔族の集落だし、魔王領の馬車は聖国での活動ができない。実にやむを得ない状況なのだ。
とはいえ、移動速度以外は文句はない。今はゆったりとした移動を堪能させてもらうとしよう。
デザストレによる空の旅は快適なんだが、地上を走っていくのもまた趣があっていいってもんだよな。
今俺たちが馬車で進んでいる場所も、俺が魔王になった頃にはただの平原だったはずなんだよな。
魔王領との関係改善のために作った緩衝地帯と聖都を結ぶために整備された街道は、本当にこれでもかというくらいにきれいに整備されていた。土魔法まで使ってご丁寧に固めてあるから、俺との関係をかなり重視していることがよく分かるってものだ。
長い馬車の旅を終えて、俺たちはようやく聖都に到着する。
いつ来てもこの街はものすごくきれいな場所だ。
理由としては聖王の力とは言われているが、その実際を知る者はいないとか。
まぁ大抵転生先の衛生環境は謎だからな。
あれだ、細けえことは気にすんなの精神だな。
こういう類のことは、気になり始めると出口のない迷宮に迷い込むように抜け出せなくなっちまう。そういうもんだで済ませるのが一番だぜ。
「やあ、また来たよ、聖王」
「これは魔王。本当によく来られますね」
俺の挨拶に、聖王は笑いながら応対している。
聖王も忙しいだろうに、よく俺と会ってくれる気になったな。
「聖王。ちょっといいか?」
「はい、なんでしょうか」
「俺とこんなに頻繁に会っててさ、他の連中からなんか言われたりしてないか?」
俺がこんな質問をすると、聖王はなんとも意外というような顔をしていた。そんな変な質問したかな、俺。
しばらく黙っていた聖王だったが、今度は突然笑い出す。あまりにもころころと変わる表情に、俺は唖然としてしまっていた。
「うふふ、本来なら敵である私の身を案じられているのですね。やはり、今代の魔王はお優しい方です」
「俺の話はしただろうが。前世じゃあまり争いのない世界だったからな。だから、できるだけみんなと仲良くしたいんだよ」
俺が頭をかきながら話していると、聖王はやっぱり笑い続けていた。
「本当に甘いお考えですね。ですが、私も根本は同じですね。みんなが優しく穏やかに過ごせる世界、本当に理想です」
聖王の表情が一気に険しくなる。
「ですが、人一人、魔族一人ごとに考え方は異なります。大部分で妥協はできたとして、すべてとなるとそれは不可能というものです。私もすでに聖国内で魔王たちに反発する者たちを見ておりますからね」
あまりにも真剣な様子に俺は黙って聞いている。
「説得は厳しいでしょうね。でも、魔王と出会ったことのない人物ですので、顔を合わせてみれば少しは変わるかもしれません」
「いや、無理に説得する必要もないだろう。俺だって暇とは限らないしな。今回だって聖王に頼みごとがあってやって来たんだ。あと湖底の調査もしたくてな」
「……詳しくお聞かせ願えますか?」
頼み事と聞いて、聖王の表情がまた変わる。実に忙しいことだな。
とりあえず、俺は聖王に今回の訪問の目的を話す。
話を聞き終えた聖王は、難しそうな表情をしている。やっぱり無理だろうか。
「分かりました。湖や沼の位置を調べればいいのですね。それでしたら、先日まとめたものができ上がっておりますので、写しを用意しましょう」
「本当か? それは助かるな」
予想外なことに、すべての湖沼の位置を示した地図がもうあるらしい。
詳しく確認してみると、どうやら俺を案内した時の騎士、確かジャスっていったっけか、彼がすべてを記していたそうだ。
「魔王にしか見えない水中洞窟の話でしたよね、確か」
「ああ、ひとつは既に分かってるんだ。魔王領の湿地帯から東方帝国の湖がつながってたやつがな。ただ、その洞窟には分岐はなくて、一本道だった」
「セイ、その洞窟を調べてどうするつもりなのよ」
黙って聞いていたピエラが口を挟んできた。
「この大陸の外を目指す。東方帝国にいるエイミーや南方王国にいるレーヴェンの話からすると、大陸の外にも別の陸地があるみたいだからな。ただ、この大陸は周囲を山に囲まれていて、上空から脱出することができない」
「なるほど、それで水中っていうわけね。でも、セイにしか見えないっていうのは不思議な話ね」
「ああ、多分、この大陸の住民だと、この中がすべてだと思わされるようになってるんだろう。俺は異世界からの転生でやって来たから、その理から外れてるってわけだ」
「なるほどですね。ですが、それならば私たちにあまり広げない方がよいと思いますね」
聖王がなにやら懸念を抱いているようだ。
「というと?」
「この世界を維持しようとする存在が、私たちに干渉してくる可能性があります。まだ知っている人物が少ないので、気付かれていないか、見過ごされているかのどちらかでしょう」
「……なるほどな。それは十分に考えられる話だ。俺が知る異世界転生っていうのには、強制力っていうものが働くことがあるらしいからな」
「強制力?」
「ああ、小説やゲームっていうある程度筋書きのある世界の場合だと、どういう行動を取っても筋書きに沿わせようとする力のことだよ」
俺が答えれば、ピエラは怖くなったのか身を縮めて震え始めた。
「でも、神とかいう存在には気に食わないかもしれないが、俺はこの世界の秘密を知りたい。外の世界を見てみたいんだ。探求心ってのは何者にも止められないんだよ」
俺は拳を握って立ち上がっていた。
ただ、今のドレス姿という服装を考えると、ちょっと締まらなかったかな。
「決意は固そうですね。私も神に仕える聖王という立場ではありますので、あまり大っぴらにはできませんが陰ながら助力させてもらいます」
「ありがとう」
「私だって手伝うわよ。婚約者のやることを応援するのは、当然だからね」
「無理しなくていいぞ、ピエラ」
「なんでよ!」
頬を膨らませて怒るピエラの姿に、俺たちは大笑いをしていた。
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