異世界転生者のTSスローライフ

未羊

文字の大きさ
275 / 431
第一章 大陸編

第275話 転生者、湖の調査に乗り出す

しおりを挟む
 移動は速い方がいい。
 というわけで、一度俺たち魔王領へと戻る。
 速い移動手段といえば、一人しかいまい。

「おう、デザストレ。ちょっと俺たちに付きあえ」

「いきなりやって来てなんだよ。俺にこんな面倒な仕事押し付けやがったくせに」

 おうおう、かなり苛ついてやがんな。
 まぁこいつも脳筋系のキャラだからしょうがねえよな。事務作業なんてかったりーやってられっかーってやつだ。
 だがな、俺はお前以上にその面倒事をやってるんだよ。
 俺はデザストレに圧力をかけていく。

「確かにそうよね。セイって真面目なように見えて面倒くさがりなのよね。学園に通っていた頃には、しょっちゅう手抜きをしてた覚えがあるわ」

「おい、ピエラ。いきなり何を言ってるんだ」

 デザストレをどうにか丸め込もうとしたら、ピエラから横槍が入る。
 なんで手を抜いてたことを知ってるんだよ。個人情報の漏洩はやめろ。
 ついあたふたしていると、デザストレがにやにやしてやがる。俺の弱みを握ったと思って余裕ぶっこいてやがるな、こいつ。

「デザストレ、余裕ってのは相手より完全に上になった時に出すもんだぜ?」

「な、なんだよ」

 俺がゆっくり近づいていくものだから、デザストレはその身を大きく仰け反らせていた。

「お前さ、戦いで一度でいいから俺に勝ったことあるのか?」

「ぐっ……!」

 俺が最強のマウントを繰り出すと、デザストレは完全に沈黙した。
 なぜなら、最初こそ多少苦戦したものの、それ以降はずっと俺の圧勝だったからな。
 まったく、最初の威圧感はどこに行ったんだろうな、こいつ。
 そんなわけで、コモヤにデザストレを借りていく旨を話して、俺たちは最初の目的地へと向かう。
 ああ、コモヤはデザストレの借りていくことには文句は言わなかったぜ。むしろ、「性根を鍛えて下さい」といわれたくらいだ。多分、仕事の大部分をコモヤに押し付けたんだろうな。
 どこまで他人と歩調を合わせる気がないんだろうな。さすが厄災といったところか。

 さて、俺たちは最初の目的地に到着する。

「セイ、ここは?」

 ピエラがどこなのか尋ねてくる。
 目の前には大きな湖が東西の方向に横たわっている。

「ここはな、ミーアドッグたちが魔王領に到達した原因の湖だよ」

 ミーアドッグは聖国内に生息しているおとなしい魔物だ。
 セイ太の協力などもあって、今ではすっかり俺に懐いてはいるが、そもそもは魔王の魔力にはとても弱かった。なので、聖国を巡っていた俺の魔力に気圧されて南下して、俺たちが今いるこの湖に沿って魔王領内に到達したという過去がある。
 一連のできごとの最後の被害者が、オスリーが治める純魔族の小さな集落だった。
 風吹けば桶屋が儲かるみたいな、嘘みたいな本当の話なんだよ、これ。

 それで、俺がここに来た理由は、湖底の調査だ。
 俺はこの大陸の外側を知りたいんだよ。
 別に今の大陸の内部だけでも過ごしていくにはなんの問題もない。
 でもな、人ってのは時に探求心てのを持っちまう。
 俺は異世界から転生してきた人間なせいか、この世界の理の影響をさほど受けない。だから、外側に対してこれだけ興味が向くんだろうな。
 今回ピエラがついてきているのも、湖底洞窟を俺にしか発見できなかったという事実に興味を持ったからだ。
 ピエラは魔法に対しての姿勢と知識はとにかくすごい。
 俺の話した内容について、ピエラの見立てでは認識阻害の魔法の一種だろうという風に見ているらしい。
 ピエラによれば、認識阻害というのは二種類あるんだとさ。
 ひとつは存在そのものを認識させないもの。コモヤの使う隠密なんかがこういう系統になるんだってさ。
 それで、もうひとつは他者の認識する能力を鈍らせるもの。湖底洞窟の件はこっちではないかと見ているらしい。
 分かりやすくいうなれば、前者はバフであり、看破といったスキルで打ち破ることができる。
 後者はデバフであり、自分たちにバフをかけなければ相殺できないといった代物というわけだ。

「実際に私の解析アナライズを使えば分かると思うわ。効かなければこちらの認識を鈍らせる系統の認識阻害になるわけだから」

「なるほどな。さすがは魔法に造詣の深いハミングウェイ伯爵家の令嬢だな」

「ふふん、少しは見直した?」

「ああ、少しはな」

「ぶー、心がこもってなーい」

 俺がしれっと返したからか、ピエラがまた頬を膨らませてしまった。面倒だな、もう。
 でも、そっけなく返したことは謝っておくか。
 なにせ、目的地にもう到着しようかって時なんでな。楽しみの方が勝っちまったんだよ。
 俺たちの眼下には、大きな湖が広がっている。
 この湖こそが北方聖国最大の湖、レイクミラージュだ。名前あったんだな。
 聖王によれば、時折霧が発生して様々な幻影を見せることがあるらしい。だからこそ、幻影の湖レイクミラージュと呼ぶのだという。
 この間、ミーアドッグと来た時はなんともなかったんだが、運がよかったんだろうな。

「セイ、湖の様子が変よ」

「なんだ、これは……」

 俺たちが上空でとどまっていると、湖が段々と白く変色していく。
 湖水が変色しているわけじゃなさそうだ。

「なるほど、これが湖の霧か」

 どうやら、この日が霧が発生してしまう日だったようだ。
 さて、どうしたものかな。
 ここまで来て引き返すというのもな……。
 まずい状況になってしまったために、俺たちはしばらくそのまま上空から様子を窺うことにしたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

魔道具頼みの異世界でモブ転生したのだがチート魔法がハンパない!~できればスローライフを楽しみたいんだけど周りがほっといてくれません!~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
10才の誕生日に女神に与えられた本。 それは、最強の魔道具だった。 魔道具頼みの異世界で『魔法』を武器に成り上がっていく! すべては、憧れのスローライフのために! エブリスタにも掲載しています。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

【改訂版】槍使いのドラゴンテイマー ~邪竜をテイムしたのでついでに魔王も倒しておこうと思う~

こげ丸
ファンタジー
『偶然テイムしたドラゴンは神をも凌駕する邪竜だった』 公開サイト累計1000万pv突破の人気作が改訂版として全編リニューアル! 書籍化作業なみにすべての文章を見直したうえで大幅加筆。 旧版をお読み頂いた方もぜひ改訂版をお楽しみください! ===あらすじ=== 異世界にて前世の記憶を取り戻した主人公は、今まで誰も手にしたことのない【ギフト:竜を従えし者】を授かった。 しかしドラゴンをテイムし従えるのは簡単ではなく、たゆまぬ鍛錬を続けていたにもかかわらず、その命を失いかける。 だが……九死に一生を得たそのすぐあと、偶然が重なり、念願のドラゴンテイマーに! 神をも凌駕する力を持つ最強で最凶のドラゴンに、 双子の猫耳獣人や常識を知らないハイエルフの美幼女。 トラブルメーカーの美少女受付嬢までもが加わって、主人公の波乱万丈の物語が始まる! ※以前公開していた旧版とは一部設定や物語の展開などが異なっておりますので改訂版の続きは更新をお待ち下さい ※改訂版の公開方法、ファンタジーカップのエントリーについては運営様に確認し、問題ないであろう方法で公開しております ※小説家になろう様とカクヨム様でも公開しております

【完結】487222760年間女神様に仕えてきた俺は、そろそろ普通の異世界転生をしてもいいと思う

こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
 異世界転生の女神様に四億年近くも仕えてきた、名も無きオリ主。  億千の異世界転生を繰り返してきた彼は、女神様に"休暇"と称して『普通の異世界転生がしたい』とお願いする。  彼の願いを聞き入れた女神様は、彼を無難な異世界へと送り出す。  四億年の経験知識と共に異世界へ降り立ったオリ主――『アヤト』は、自由気ままな転生者生活を満喫しようとするのだが、そんなぶっ壊れチートを持ったなろう系オリ主が平穏無事な"普通の異世界転生"など出来るはずもなく……?  道行く美少女ヒロイン達をスパルタ特訓で徹底的に鍛え上げ、邪魔する奴はただのパンチで滅殺抹殺一撃必殺、それも全ては"普通の異世界転生"をするために!  気が付けばヒロインが増え、気が付けば厄介事に巻き込まれる、テメーの頭はハッピーセットな、なろう系最強チーレム無双オリ主の明日はどっちだ!?    ※小説家になろう、エブリスタ、ノベルアップ+にも掲載しております。

処理中です...