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第一章 大陸編
第281話 転生者、試練に臨む
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扉を開いて中へと入った俺は、その内部を確認しようとして辺りを見回す。
だが、まったくこれといったものは何も見当たらなく、ただ広い空間が広がっているだけだった。
殺風景だなとかのんびり思っていた俺の後ろでは、扉がひとりでに勢いよく閉まる。
「はっ、よくあるパターンか!」
俺はすぐさま扉を開けようとするが、押しても引いてもまったくびくともしない。
どうやら閉じ込められてしまったようだ。
まさかこんなベタなお約束展開を見せられるとは思ってなかったぜ。
部屋から出られないことをはっきり認識した俺は、やむなく正面へと向き直した。
さて、試練ってやつはどんなものを行うんだろうな。こういうのはゲームっぽくてわくわくするもんだぜ。
まっ、現実なんだけどな。
「さて、セイ太の言っていた神殿ってやつはどこだ? 建物そのものだとしても、こういう場では何らかの姿を見せるもんだろう」
少し煽りを入れてみる。
『うるさい人ですね』
どこからともなく声が聞こえてくる。
それとほぼ同時に、俺の目の前に白っぽい光が集まってくる。
人の姿でも取るかと思ったが、結局それは白い光が球状に集まっただけで終わってしまった。
『まったく、何をそんなにがっかりしているのですか。私は命を司るレーヴェン様の使徒。創造神を崇め奉るために建てられた神殿そのもの。性別も種族も何もないゆえに、このような形で登場させてもらいました』
なるほど、すべての命に平等と言いたげだな。
『まったくその通りです。神の前に魂の貴賎などありません。善良なるものも極悪なるものも、人間であろうとも魔族であろうとも、みな一つの命なのです』
人の頭の中を覗きやがった。これが人ではない存在ってやつか。
「そんな平等な精神の持ち主が、俺に何の用なんだ」
少しイラッとしてはいるが、ここはとりあえず落ち着かないとな。
『あなたはこの世界の理から外れた存在。この陸地の外に興味を示すなど、実に初めてのことなのです』
「やっぱり、ここ以外にも陸地はあるんだな?」
神殿の発言を聞いて、俺はつい表情を強張らせてしまう。
どこまでも外を見せようとしないあの奇妙な状況を作っている意図に、ようやく近付けそうだからな。
『……それにはお答えできません。ですが、試練を突破することができたのであれば、お答えしてもよろしいかと思います』
「その言葉に、偽りはないよな?」
『今の私に嘘を言う理由などありません。主であるレーヴェン様には、ついてしまいましたけれどもね』
丸っこい白い光なせいで、表情がまったく読み取れないな。
だが、今の言葉には嘘はなさそうだ。俺の獣人の勘ってやつだな。
しかし、仕える主に嘘をつくとは、こいつもなかなか大胆なやつだな。
俺はどこか安心したような表情を浮かべると、左手を腰に当てながら再び光へと視線を向ける。
「分かった。とりあえず試練を受ければいいんだよな」
『はい、その通りです。ですが、試練というからには、そう簡単に突破できるものだと思わないで下さい。あなたが無事であるという保証もございません』
予想はしていた通りだ。
試練ってやつは、肉体的か精神的か、どちらにしても深くえぐり取ってくるものだからな。
「覚悟はできている。といいたいところだが、大体試練ってやつはその覚悟を平気で踏み越えてくるんだよな。安易なことは口にしない方がいい、そうだろ?」
俺が神殿に確認を取ると、まるで笑ったかのように少し光が揺らいだ気がした。
『なるほど、あの方も興味を示すだけのことがありますね。私も興味をますます抱きました』
神殿の光がゆらゆらと揺れている。
「はっ、ずいぶんと楽しそうだな」
『ええ、それはとても』
神殿の光が少し大きくなったように感じる。つまりは、いよいよということか。
微妙な変化ではあるものの、分かりやすくていいぜ。
『さすがは獣人の魔王、勘の鋭さだけは一級品ですね』
「褒められてると一応受け取っておくか」
『ええ、とても褒めておりますとも』
くすくすという笑い声が聞こえてくる気がするぜ。
『では、そろそろ試練を始めましょう。何も考えずに私に触れて下さい。そうすれば、あなたにふさわしい試練が始まるでしょう』
「内容は絞れたりできるか?」
『無理だと思いますよ。雑念があると、別の世界に飛ばされるならまだしも、消滅することだってあり得ます。試練というのは実に繊細なのですからね』
「……ご忠告どうも」
消滅するとか穏やかじゃねえな。
まあいい。受けると決めたことだ。何があっても乗り越えてやろうじゃねえか。
覚悟を決めた俺は、神殿の光に近付いていく。
『心を無にして下さい。そうすれば、あなたの乗り越えるべきものが見えてくるはずです』
「今さらって気はするがな」
『そうですね。あと、ひとつとは限りませんので、それもお伝えしておきます』
「今さらかよ。いくつ来ようと構わない。全部乗り越えてやる」
俺のこの言葉を最後に、神殿の光は完全に沈黙した。
試練を与えることに集中し始めたんだろうな。
だったら、俺もそれに応えてやる。
俺は無言のまま、光の球に触れる。
やがて、俺の中に温かいものが流れ込んでくる。これは神殿の魔力か。
意識がふわりとし始めると、やがて俺の意識はすっと消え去ってしまった。
だが、まったくこれといったものは何も見当たらなく、ただ広い空間が広がっているだけだった。
殺風景だなとかのんびり思っていた俺の後ろでは、扉がひとりでに勢いよく閉まる。
「はっ、よくあるパターンか!」
俺はすぐさま扉を開けようとするが、押しても引いてもまったくびくともしない。
どうやら閉じ込められてしまったようだ。
まさかこんなベタなお約束展開を見せられるとは思ってなかったぜ。
部屋から出られないことをはっきり認識した俺は、やむなく正面へと向き直した。
さて、試練ってやつはどんなものを行うんだろうな。こういうのはゲームっぽくてわくわくするもんだぜ。
まっ、現実なんだけどな。
「さて、セイ太の言っていた神殿ってやつはどこだ? 建物そのものだとしても、こういう場では何らかの姿を見せるもんだろう」
少し煽りを入れてみる。
『うるさい人ですね』
どこからともなく声が聞こえてくる。
それとほぼ同時に、俺の目の前に白っぽい光が集まってくる。
人の姿でも取るかと思ったが、結局それは白い光が球状に集まっただけで終わってしまった。
『まったく、何をそんなにがっかりしているのですか。私は命を司るレーヴェン様の使徒。創造神を崇め奉るために建てられた神殿そのもの。性別も種族も何もないゆえに、このような形で登場させてもらいました』
なるほど、すべての命に平等と言いたげだな。
『まったくその通りです。神の前に魂の貴賎などありません。善良なるものも極悪なるものも、人間であろうとも魔族であろうとも、みな一つの命なのです』
人の頭の中を覗きやがった。これが人ではない存在ってやつか。
「そんな平等な精神の持ち主が、俺に何の用なんだ」
少しイラッとしてはいるが、ここはとりあえず落ち着かないとな。
『あなたはこの世界の理から外れた存在。この陸地の外に興味を示すなど、実に初めてのことなのです』
「やっぱり、ここ以外にも陸地はあるんだな?」
神殿の発言を聞いて、俺はつい表情を強張らせてしまう。
どこまでも外を見せようとしないあの奇妙な状況を作っている意図に、ようやく近付けそうだからな。
『……それにはお答えできません。ですが、試練を突破することができたのであれば、お答えしてもよろしいかと思います』
「その言葉に、偽りはないよな?」
『今の私に嘘を言う理由などありません。主であるレーヴェン様には、ついてしまいましたけれどもね』
丸っこい白い光なせいで、表情がまったく読み取れないな。
だが、今の言葉には嘘はなさそうだ。俺の獣人の勘ってやつだな。
しかし、仕える主に嘘をつくとは、こいつもなかなか大胆なやつだな。
俺はどこか安心したような表情を浮かべると、左手を腰に当てながら再び光へと視線を向ける。
「分かった。とりあえず試練を受ければいいんだよな」
『はい、その通りです。ですが、試練というからには、そう簡単に突破できるものだと思わないで下さい。あなたが無事であるという保証もございません』
予想はしていた通りだ。
試練ってやつは、肉体的か精神的か、どちらにしても深くえぐり取ってくるものだからな。
「覚悟はできている。といいたいところだが、大体試練ってやつはその覚悟を平気で踏み越えてくるんだよな。安易なことは口にしない方がいい、そうだろ?」
俺が神殿に確認を取ると、まるで笑ったかのように少し光が揺らいだ気がした。
『なるほど、あの方も興味を示すだけのことがありますね。私も興味をますます抱きました』
神殿の光がゆらゆらと揺れている。
「はっ、ずいぶんと楽しそうだな」
『ええ、それはとても』
神殿の光が少し大きくなったように感じる。つまりは、いよいよということか。
微妙な変化ではあるものの、分かりやすくていいぜ。
『さすがは獣人の魔王、勘の鋭さだけは一級品ですね』
「褒められてると一応受け取っておくか」
『ええ、とても褒めておりますとも』
くすくすという笑い声が聞こえてくる気がするぜ。
『では、そろそろ試練を始めましょう。何も考えずに私に触れて下さい。そうすれば、あなたにふさわしい試練が始まるでしょう』
「内容は絞れたりできるか?」
『無理だと思いますよ。雑念があると、別の世界に飛ばされるならまだしも、消滅することだってあり得ます。試練というのは実に繊細なのですからね』
「……ご忠告どうも」
消滅するとか穏やかじゃねえな。
まあいい。受けると決めたことだ。何があっても乗り越えてやろうじゃねえか。
覚悟を決めた俺は、神殿の光に近付いていく。
『心を無にして下さい。そうすれば、あなたの乗り越えるべきものが見えてくるはずです』
「今さらって気はするがな」
『そうですね。あと、ひとつとは限りませんので、それもお伝えしておきます』
「今さらかよ。いくつ来ようと構わない。全部乗り越えてやる」
俺のこの言葉を最後に、神殿の光は完全に沈黙した。
試練を与えることに集中し始めたんだろうな。
だったら、俺もそれに応えてやる。
俺は無言のまま、光の球に触れる。
やがて、俺の中に温かいものが流れ込んでくる。これは神殿の魔力か。
意識がふわりとし始めると、やがて俺の意識はすっと消え去ってしまった。
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